第46話 私と先輩と最悪の場合




「ゆめ先輩、やっぱりすごくお上手ですね」

「そんなことないよ…」


私と天使(妹)とゆめ先輩は3人で楽器を吹いていた。妹がお手洗いに行っている間に、私は少しだけゆめ先輩とお話しをする。


「ゆめ先輩のチューバからはゆめ先輩が本当にチューバが好きで、チューバを楽しんで吹いているんだな。ってことが伝わるような音が鳴っていて、私、ゆめ先輩の音大好きです。やっぱり、ゆめ先輩にもいろいろ教えていただきたいです」


私は、精一杯の笑顔でゆめ先輩に言うとゆめ先輩は困惑する。


「みことちゃん、なんで…私を止めるの?私がいなければ、みことちゃんはこう君と2人きりでチューバ吹けるし…もしかしたら、その…恋にも、可能性が出てくると思うよ……」

「チューバって…楽器って、1人で吹くより2人、2人で吹くより3人、3人で吹くより大人数で吹いた方が楽しいんですよ」


私が、答えると、ゆめ先輩は泣きそうな表情をする。ゆめ先輩も、私と同じ考えだろうから。きっと、こう先輩も……


吹奏楽で孤独を味わうと、大人数の演奏が恋しくなる。こう先輩もゆめ先輩も…孤独は十分味わったはずだ。だから、こんな表情をする。ゆめ先輩のかわいい顔が台無しだよ。


「恋愛とか関係ないです。私はただ…せっかく同じパートになれた2人の先輩と一緒に吹きたい。それだけです。きっと、こう先輩も…そう思っているはずです。ゆめ先輩、今は…いきなりこう先輩と3人で練習しよう。とはもう言いません。少しずつ…頑張りましょう。ゆめ先輩、私にチューバを教えてください」


ここで、ゆめ先輩にチューバを置かせてはダメだ。もう、ゆめ先輩が戻って来れなくなる。ゆめ先輩が戻って来れなくなったら詰みだ。だから、こうする。一時的な時間稼ぎかもしれない。だが、時間が、ないよりは全然いい。


「私、情けない先輩だね…」

「そんなことないです」

「みことちゃん。ありがとう。私の後輩になってくれて」


ゆめ先輩は笑顔で言う。今日、初めて見たゆめ先輩の笑顔かもしれない。とても、かわいらしい笑顔で…女の私でもドキッとしてしまった。


「私なんかで良ければ。教えるよ。いくらでも…」

「ありがとうございます」


ひとまずは…最悪の場合からは抜け出せた。次にしないといけないことは……





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