第45話 私と天使(妹)と先輩





「ゆめ先輩……お疲れ様です……」

「お、お疲れ様です……」


意外な人物がホールに現れて、私と天使(妹)は反応に困った。特に、妹は…戸惑って、私とゆめ先輩の顔を交互に見つめている。


「……みゆちゃん、だよね?」

「は、はい」

「ユーフォニアム、上手に吹けてるね。凄いよ」


ゆめ先輩は笑顔でそう言って妹の頭を撫でていた。妹は、戸惑った表情をしながらも微笑んでいた。


「その調子で頑張って上手になりなよ。そうしたら、もっとユーフォニアムが楽しくなるよ」


ゆめ先輩は笑顔で妹に言う。自分が、そうだったから。と言うような表情で……


「ゆめ先輩、私、チューバ上手くなりたいです。だから、教えていただけませんか?」


気づいたら、そう口にしていた。


「ごめんね。私、この前忘れた荷物取りに来ただけだから…マウスピースとかお手入れ道具とか……」

「お願いします」


折れなかった。まだ、諦めきれていないから。3人で吹くことを…


「み、みゆも、ゆめさんのチューバ聞いてみたいし、お姉ちゃんとゆめさんと一緒に楽器吹いてみたいです」


私をサポートするように妹がゆめ先輩にもう一押しをしてくれた。気の利く妹で助かる。


「ゆめ先輩、お願いします」

「………少しだけだよ」

「ありがとうございます」


ゆめ先輩はチューバを取りに楽器庫に向かう。私も、ユーフォニアムを一旦片付けてチューバを取りに楽器庫に向かった。


「………ありがとうね」


楽器庫で、私とゆめ先輩が2人きりになった時、ゆめ先輩は私に言った。


「え、何がですか?」

「何でもない……今日で、最後……だから、みことちゃんにいろいろ教えてあげる。こう君に教えた基礎とか、私に教えられること全部伝える。それで、悔いはない。忘れものはそれでなくなる」


ゆめ先輩は泣きそうな表情で私に言って、チューバケースを開いた。


「もう一回だけ、よろしくね」


チューバケースを開けて、姿を現したチューバにゆめ先輩はそう声をかけてチューバをチューバケースから取り出して、妹が待っている舞台に向かって行く。


「もう一回だけ、よろしくね」そう言った時のゆめ先輩の表情、ゆめ先輩の儚げな声を、私は忘れることができなかった。


「やっぱり、諦められないよ……」


楽器庫で、私は1人、そう呟いた。そして、私もチューバケースからチューバを取り出してゆめ先輩の後を追いかけてホールの舞台に向かった。








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