第44話 私と天使(妹)と大切な楽譜




「みゆ、今日一緒にホール行かない?」


休日のお昼、バイトのシフトもなく暇だった私は天使(妹)に提案する。


「え!行きたい!お姉ちゃん、ユーフォ教えて!」

「いいよ。ユーフォ吹きたかったし、みゆがどれくらい上手くなったか見てあげないとね」

「うん!」


今日は、今は…チューバを吹く気分にはなれない。だから、今日は…ユーフォを思いっきり吹きたい気分だった。


満面の笑みで微笑みながら出かける準備をする妹を見ながら私も出かける準備をして、部屋の隅に置いてある楽器ケースを手に持つ。最近、チューバばかり持っていたからユーフォがすごく軽く感じる。


出かける準備が出来たので、部屋の鍵を閉めて妹と大学に向かう。大学の受付でホールの鍵を借りてホールの扉を開ける。


私が、楽器ケースからユーフォニアムを取り出していると妹が楽器庫から楽器ケースを持ってくる。妹も楽器ケースからユーフォニアムを取り出す。姉妹2人で同じ楽器を吹ける。幸せだ。


「ロングトーンやろっか」

「うん!」


さっそく、私は妹と一緒に基礎練習をする。高校時代、毎日のように繰り返していた基礎練習をまさか、妹と一緒にできる日が来るとは夢にも思っていなかった。


「みゆ、上手じゃん!」

「えへへ。お姉ちゃんほどではないよ」


始めて間もないとは思えないくらい妹は上手だった。久留美ちゃんが言っていたことは大袈裟ではなかったみたいだ。


「お姉ちゃんがいつも吹いてた曲教えてよ!」

「いいよ」


さすがに、まだ、早いとは思うが…私が妹とユーフォを吹ける機会は少ないだろうから。今のうちに教えたい。基礎とかはたぶん、宇佐美先輩が嫌というほど仕込んでくれるだろうしね。


私は楽器ケースに常に入れている1つの楽譜を取り出す。私が1番大好きな思い出の曲だ。


「みゆ、これあげる」


私は楽譜を妹に渡した。今は、私より、妹に持っていて欲しかったから…

だが、妹は躊躇った。私の大切な楽譜だと知っているから…クリアファイルに挟んではいたが、少し皺が寄っていて、メモとかで一部音符が見えなかったり…すごく、見にくい楽譜…その下にもう一枚、何も書かれていない楽譜がある。その両方を妹に託したい。


「お姉ちゃん、見なくても吹けるからさ。みゆが持ってて、みゆが将来、もっと上手になって、その楽譜が必要なくなったら、私がメモしてある方を返して欲しいな」

「じゃあ…借りるね。みゆがもっと上手くなったら…一緒に吹いてね」

「もちろん」


私が妹に大切な楽譜を託した理由、妹に持っていて欲しかった他にもう一つ。お手本にして欲しかったからだ。将来、妹はもっと上手くなる。吹奏楽で合奏に参加するようになったら、楽譜にはいっぱいメモを書いたりする。その、お手本にして欲しい。そういう思いも込めていた。私が、妹に教えられそうな数少ないことだから。




「みことちゃん。と…みゆちゃん…だよね?えっと、お疲れ様」


私が妹とユーフォニアムを吹いていると、ゆめ先輩がホールにやって来た。








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