第41話 私と2人の先輩




「こう先輩、申し訳ないですけど、先に控え室に行っていてもらっていいですか?すぐに行きますから」

「うん…ごめんね。みことちゃん…全部任せちゃって…」

「大丈夫ですよ」


小声でこう先輩とそんなやり取りをした後、こう先輩は控え室に向かって行く。こう先輩の姿が見えなくなって、私はまだ、蹲って泣いているゆめ先輩に声をかける。


「ゆめ先輩、こう先輩連れてきました。話せそう…ですか?」


私に声をかけられて、ゆめ先輩は顔を上げて私の顔を見てくれる。


「本当に連れて来てくれたんだね…」

「はい」

「少しだけ…なら、大丈夫だと、思う」

「じゃあ、行きましょう。こう先輩、待ってますから…あ、でもその前に涙ちゃんと拭いてください。泣き跡が残っていたらゆめ先輩のかわいい顔が台無しですからね。ゆめ先輩が、薄化粧で助かりました。今からお化粧直しとかしてたらこう先輩すごく待たせちゃいますから」


私がそんなことを言いながらゆめ先輩にハンカチを渡すと、ゆめ先輩は少しだけ笑ってくれた。





「こう先輩、お待たせしました」

「こう君…迷惑かけてごめんなさい」


こう先輩を待たせてしまったことを私とゆめ先輩が謝るとこう先輩は気にしないでください。と言ってくれた。


「…………」


3人でテーブルを囲んで座ったのはいいが、ゆめ先輩も、こう先輩も何も話そうとしない。2人を連れて来たのは私だが、何て話を切り出せばいいのかわからない。


「こう君、こう君が辞めるの、私は認めない。辞めるとしたら……私、こうなった責任は私にあるから…それに、みことちゃんも私よりこう君の方がいいでしょう?」

「ゆめ先輩…それは嫌です。僕は…ゆめ先輩に楽器吹いて欲しいです」

「あの、まずですけど、どちらかが辞めるみたいな雰囲気で話すのやめません?」


ゆめ先輩とこう先輩のやり取りを見て、私はそう口にしていた。

私の意見を聞いたゆめ先輩とこう先輩は黙り込む。それができたら、こんなことになっていないよ。と無言でゆめ先輩は語っているような気がした。


「ゆめ先輩、僕、ゆめ先輩に辞めて欲しくないし、僕も辞めたくないです。みことちゃんとゆめ先輩と3人でチューバパートとして頑張りたい。これが、僕の本心です。ゆめ先輩はどうですか?ゆめ先輩が本当に望むことが、3人でチューバパートとして頑張りたい。以外ならこの話し合いに意味はない。って思います。ゆめ先輩の気持ち、教えてください。僕の気持ちは、今、言った通りです」


こう先輩が声を震わせながらゆめ先輩に言うと、ゆめ先輩は少しの間黙り込んでしまう。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る