第39話 私と先輩の泣き顔




私がホールに戻ると、ホールは静まりかえっていた。


「みことちゃん、今日はこの後、個人練習でいいかな?」

「あの、こう先輩は……」

「私がこんなこと言っていいのかわからないけど、今はそっとしてあげておいて欲しい」

「何が…あったんですか?」


ホールの入り口近くの隅で体育座りをして涙目で私を見上げて言うゆめ先輩に私は恐る恐る尋ねる。


「私って…ダメな先輩だよね」

「そんなことないですよ。私は、ゆめ先輩のこと、すごくいい先輩だと思いますよ」

「後輩に辞めたいです。って言わせる先輩は…いい先輩なんかじゃないよ」

「え……」


ゆめ先輩は、私に泣き顔を見られないように顔を足に押し付けて表情を隠した。だが、鳴き声や体の震えは隠しきれていない。


「みことちゃん、こう君のこと…支えてあげて」

「ゆめ先輩…何、考えているんですか?」

「今のパートがこうなった責任は私にある。去年、パートリーダーだったのに解決出来なくて問題を先延ばしにした私の責任…だから…」

「ダメです!」


ゆめ先輩の言葉を、私は最後まで聞かずに遮った。それ以上は、何も聞きたくなかった。嫌だ。それ以上は、絶対に聞きたくない。そう、本気で思った。


「私かこう君、どちらかがいなくならないと解決しないよ…」

「嫌です。せっかく、3人で同じパートになれたのに、こんなの嫌です。私、こう先輩にもゆめ先輩にもいろいろ教えていただいて3人で一緒に演奏したいです。こう先輩だって…ゆめ先輩と一緒に吹きたがっていましたよ。ゆめ先輩は……どうなんですか?」

「私は……もう、疲れたよ。それに、傷ついてしまうこう君を見たくない。こう君とみことちゃんが楽しく楽器を吹く場所を奪いたくない。だから…」

「1回だけ…1回だけでいいですから、3人で話しましょう。私、こう先輩連れてきますから…待っていてください」


私は泣いているゆめ先輩をその場に残してスマホを手にしてホールを出る。ホールを出て大学のキャンパス内を走りながら何度も何度もこう先輩に電話をかける。



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