第32話 私と天使(妹)とユーフォパート




「お姉ちゃん、ほんとっっっうにばかだね」

「まあまあ、みゆちゃん、みーちゃんは純粋なんだよぉ」

「あはは…みことちゃん、なんか、がんばって」


チューバパートのパート練習が終わり、夜の時間になるとユーフォパートのパート練習が始まる。宇佐美先輩に連れられてきた私の天使(妹)に、パート練習どうだった?と聞かれてゆめ先輩とのやり取りを妹に話したら妹は呆れた表情で私に言う。話を聞いていた、同い年の久留美ちゃんは私をフォローするような、宇佐美先輩は私に同情するようなコメントをくださった。


「だって…こう先輩が…かわいそうだったんだもん」

「後輩にかわいそうって思われてるこう君がかわいそうだわ笑」


私の言葉を聞いた宇佐美先輩は笑いながら言う。たしかに…


「お願いだから恋愛のいざこざでチューバパート崩壊させないでよ…去年みたいになるのは嫌だからね」


去年、よほど酷かったらしく、宇佐美先輩は真顔で言う。どれほど酷いかと言うと、合奏中の距離がエグかったらしい。ゆめ先輩は舞台から落ちるギリギリのラインで、こう先輩はユーフォパートと間違えそうなくらいユーフォより…こう先輩とゆめ先輩の間には3メートル以上のソーシャルディスタンスがあったみたいで、指揮者が…「チューバの方見てもチューバ2人がまとめて視界に入ってくれない」と嘆いていたらしい。酷いなぁ……ていうか、こう先輩、よく諦めずに好きでいられるな…すごいわ。


「とりあえず、お姉ちゃんはもっとこうさんにアピールしなさい。お姉ちゃんくらいかわいい子が積極的に攻めればこうさんくらい落とせる」

「たしかに、みーちゃんかわいいもんねぇ」

「いやいや、こう君は死ぬほど一途だよ…不動の要塞を陥落させるのはいくらみことちゃんでも厳しいかもね…」


宇佐美先輩に不動の要塞と言われるこう先輩…どんだけ一途なんだよ……


「こう君はね。がんばってる子が好きだと思うよ。だから、みことちゃんも練習がんばって、こう君に認められれば可能性が出てくるかもね」

「私、練習頑張ります」

「お姉ちゃん…ちょろすぎ……」

「みーちゃんは純粋なんだよぅ」


宇佐美先輩にあっさり乗せられた私に、妹は大丈夫かな…と心配の眼差しを向ける。久留美ちゃんは笑いながらのほほんと私と妹のやり取りを見ていた。

練習、頑張ろう。こう先輩に認められるためだけでなく、チューバ、上手くなりたいから…こう先輩とゆめ先輩と、きちんと対等に吹けるようになりたいから……

今は、チューバパートの足を引っ張ってしまっているが、いつか必ず…こう先輩に、私をチューバパートに誘ってよかった。って思ってもらいたいから…




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る