第31話 私と先輩と恋話




「みことちゃんってさ…こう君のこと、好き…だよね?」


パート練習の休憩時間、こう先輩が飲み物を買いに行き、私とゆめ先輩が2人きりになったタイミングでゆめ先輩が私に尋ねた。


「はい…たぶん…そう、だと思います」

「そっかぁ。こう君にもついにモテ期が来たかぁ…」


ゆめ先輩はほっとしたような表情をする。ゆめ先輩が何故、このような表情をしたのか、私には理解ができなかった。


「ずっと…心配だったんだよね。こう君のこと、苦手って思っていても……こう君は私の後輩だからさ、いろいろ心配だったんだよね。自分で言うのもあれだけどさ…こう君、私に夢中で…私、以外の子を見れていないって言うか……このままずっと…私を想い続けても辛いだけだろうからさ……」


ゆめ先輩は、複雑な表情をしていた。私がこんなことを言っていいのだろうかとか…そういう感じの、少し自分を責めたような口調で…申し訳なさそうに、私に言った。


「私はね。こう君のことを好きになれない。あ…恋愛対象として。ね。私…恋はしない。って決めてるから…だからさ、私に夢中なこう君を…振り向かせてあげて欲しい。こう君も私なんかより、みことちゃんを好きになったは方がきっと幸せになれるよ。みことちゃん、すごくいい子だからさ…こう君を幸せにしてあげて欲しい」


ゆめ先輩は真剣な表情でそう、言い切った。

なんでだろう。安心…する場面…ゆめ先輩はこう先輩を好きになることはない。と聞いて……安心する場面だと思うのに…なんか、ムズムズする。なんか、違う。それはなんか…嫌だ。


「ゆめ先輩…」

「ん?」

「生意気なこと言っていいですか?」

「言いたいことを言って、私は怒ったりしないし、受け入れるから」


ゆめ先輩は優しく、私に言ってくれた。あぁ…もう。私とは…考え方が違うだけで…きっと…すごく優しくていい先輩なのに…


「こう先輩の気持ち…考えてあげてください。こう先輩、本当にゆめ先輩のこと…好き。って思ってますよ」

「知ってるよ。それに…私も、何も考えてなかったわけじゃない。こう君を信じて…好きになってみようとしたけど、無理だった。私に恋はできない……だから、お願い。こう君を幸せにしてあげて」


私に、こう先輩を押し付けようとしているのではない。こう先輩のことを考えて、ゆめ先輩は私に言ってくれている。

でも、私は…こう先輩の気持ちを……ないものにはしたくない。私がすぐに気付けるくらい、こう先輩はゆめ先輩のことが好きだから……


「私は、こう先輩を諦めたくないです。でも、こう先輩にはゆめ先輩を諦めて欲しくないです」

「めちゃくちゃだよ…」

「ごめんなさい」

「いいよ。こんなにいい後輩を持ててこう君は幸せだなぁ。みことちゃん、今の話はなかったことにして…」

「はい」


生意気なことを言ってしまったにも関わらず、ゆめ先輩は笑顔で私に接してくれた。ゆめ先輩はすごく、いい先輩だった。






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