第38話 いつの間にやら遠くへ来たもんだ
般木道真という嵐が吹き荒れたことで、俺はとても重要なことに気が付いていた。それは水谷が怪我もしていないし、すぐに無差別殺人を再開してもおかしくないということだ。しかし、前回の件で俺たちを殺すことに失敗してるわけで、相手も警戒するだろう。
「これから偽りの英雄の一人、水谷の顔面に泥を塗る作戦を開始するつもりだ」
駄菓子屋二階の部屋で、俺はそう宣言した。コージと六さんだけでなく、理沙や流華、鬼婆まで揃ってるもんだから少し気まずかったが。
「コージ、囮役を頼む」
「へい、もちろんでやんす!」
「六さんはカメラで決定的な瞬間を撮ってくれ」
「了解っす」
相手が腐っても英雄ってことで多少の心配はあるが、コージと六さんなら上手く乗り切れるだろう。
「真壁庸人君っ、あたしも行っても……?」
「別にいいよ」
流華のやつ、どうせ拒否しても勝手についてくるくせにな。
「な、何よ、少しは心配しなさいよねっ!」
「あの……ダンジョンですよね? 真壁さん、私も行ってもいいですか?」
「え……」
理沙がとんでもないことを言い出した。さすがにそれは……。
「やめときな、理沙ちゃん。ダンジョンなんてもんはね、かよわい女の子が行くようなところじゃないのさ。あたいもそうだけどね……って、あんたたち何白い目で見てんだいっ!」
鬼婆から、俺を含めてみんな全力で目を逸らすのがわかった。
しかしさっきの理沙の顔、俺たちについていきたいっていうより、何か……懐かしそうな眼差しをしていたように感じた。故郷を思うような感じで、ダンジョンを少しも恐れているようには見えなかったのだ。まるで上級者みたいな……って、いや、さすがにそれは気のせいだろう。さあ、準備を始めるか。
『――真壁兄貴っ! やつが、水谷のやつがダンジョンへ入った模様でやんす……!』
情報通のコージからボイスメールで連絡を受け、早速変装した俺たち――コージ、六さん、流華、俺――の四人で、前回攻略した86階層の氷の神殿からスタートした。
「「「「……」」」」
無言でどんどん先へ進むも、水谷が出てくる気配はない。
「やつがダンジョンの中へ入ったのは間違いねえでやんすが、どこの階層までかは不明でありやして……」
「そうか……」
重い空気を察したのかコージが申し訳なさそうにつぶやく。というか、水谷のやつが近付いてきた場合気配でわかるし、ダンジョンにいるなら問題ない。ほかにターゲットがいるようには見えなかったし、いずれ俺たちを標的にしてくるだろう。
ただ、水谷がもっと先のほうまで進んでるケースは普通にありえそうだ。何故なら、1~100階層まである氷の神殿でやつは殺しを重ねてきたわけで、そろそろ全然別のステージに乗り換えようとするかもしれないし、俺たちもそれを想定しておくべきじゃないか。
俺たちはやがて100階層、すなわちボスのいる階層まで到着した。ここも今までの階層と変わらないが、ボスを倒さないと先にある扉が開かないようになっている。
かなりゆっくり進んだのにまだ英雄の気配すら感じないってことは、101階層以降に潜った可能性が高そうだ。一応、1~200階層までは初心者の探求者が通うダンジョンって言われてるからな。
「あっしを舐めてもらっちゃ困りやすぜ!」
「あたしもねっ!」
コージのジャイアントナックルによる連続攻撃、流華の《風刃》がことのほか強くてずっと敵なしの状態だが、ボスは俺がやるつもりだ。
『――ウゴゴゴゴッ……』
「「「「あっ……」」」」
やがて俺たちの前に、比較的広い通路を隙間なく塞いでしまうほどの巨大なモンスター、ブリザードゴーレムが出現した。いよいよボスのおでましだ。それにしても、こんな化け物を倒せるかどうかより、何を盗めるのかを気にしてる時点で俺もいつの間にやら遠くへ来たもんだとしみじみと感じるのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます