第37話 思考が停止しそうだ
「わあぁ、高いですー♪」
「あ、あたいは高いところが苦手だってばよぉー!」
「……」
そこにいたのはあの大男の般木道真であり、岩のような両肩には理沙と鬼婆が乗っていて両極端な様子を披露していた。般木は会心の笑みを浮かべてるし、どうやら知り合いっぽい……って、当初の予想通り生きてたんだな。
「よー、真壁庸人じゃねーか。お前もいたのかー」
「般木道真……よく生きてたな……」
「んー? 当然よっ」
さすがに彼の規格外の図体だと駄菓子屋の中に入れないので、このまま外で事情を聴くことになった。なんとも目立つため、通りすがりの人間から好奇の視線を浴びる羽目になったが。
「――ってわけだあ」
時折欠伸を挟みながら船木が今までの経緯を説明してくれたんだが、やはりスケールが違っていた。
般木は英雄の一人である水谷と戦うべく、自宅前で散々挑発を重ねたあとダンジョンに向かったそうだが、五十階付近をうろついていたところで見えない状態の水谷に何度も斬りつけられ、全然痛くも痒くもなくて戦う意欲が一気になくなるほど失望したんだとか。
それで寝不足気味なこともあり、しばらくダンジョンで寝てしまっていたとのこと。気付くとモンスターに囲まれ、血まみれになって意識が朦朧としていたものの、そいつらを朝食代わりに食べて地上へ帰還し、趣味のパチンコに興じていたらしい。
「色んな意味で壮絶だな……」
「でもよー、眠くなるのもわかるだろ? 内臓がはみ出て骨が幾つか折れるくらいの激しいバトルを期待してたってのによー。水谷ってやつは棒きれみたいな剣で痛くもねえのに何度も斬ってくるし、しかも透明のまんまだしで、一気に眠気が来ちまったってわけよ……」
「やつはそれで師匠の仇を討ったって勘違いしたみたいだぞ?」
「まー、ある意味やつに倒されたみてえなもんだな。弱すぎて眠気が来ちまったし! ふわあ……」
「……」
まだ眠いのか、般木はしきりに欠伸を繰り返し、目を擦っていた。
「しかし、大量のモンスターに囲まれて寝るってだけでも凄いのに、よくそれで死なないもんだな……」
「あぁ、このS級アイテムの鬼の腕輪があるから治りも超早いぜ。ただまあ、これがなくても唾つけて包帯巻いときゃなんでもねえがなっ」
真っ白な歯を出して陽気に笑う般木。なるほど、元々化け物染みた強さなのが、鬼の腕輪によってさらに桁外れになってるってわけだ。まさに異次元の怪物ってところだな……。
「それで、何をしにここへ?」
「俺はよー、この駄菓子の常連客なのよ。そんで家に帰る途中に立ち寄ったってわけ。おーい、婆さん、イチゴの飴玉1000粒、ラムネも1000本貰うぜー!」
「あいよー」
「え……」
般木のやつ、パーソナルカードのアイテム欄に収納するかと思いきや、そのまま大量の飴玉を口に入れてバリバリと噛み砕いてしまった。ラムネなんて瓶ごとだ。
「うちは現金のみだかんね!」
「わかってらー。釣りはいらねえぜ!」
般木が分厚い札束を婆さんに渡してて仰天する。行動がいちいち派手すぎて思考が停止しそうだ。
「ふー、おかげさんですっきりしたぜ。ラーメン100杯食ったあとだから油ギッシュでよー」
「……」
この男なら器ごとラーメンを食っててもなんらおかしくないな……。
「さーて、軽く一カ月くらい寝てくるぜー! あばよっ!」
船木が理沙と鬼婆を下ろして手を振りながら帰っていくが、そのたびに強い風が吹く怪力っぷり。
「――ま、真壁兄貴、やつは一際怪しいっす……」
「ああ……」
コージもわかるんだろう。般木道真がせがれの仇かもしれないってことを。
あの大雑把な性格なら普通にありえそうだからな。まあ誰であれ、殺された息子はグレーカードのBランクなわけで、それを殺せるようなやつと戦ったらコージも死ぬことになるかもしれないわけだし、般木が仇であるかどうかは抜きにして一層鍛えてやらないとな。
「ふう。あたい、久々に死ぬかと思ったよ……」
「般木さん、本当に力持ちですねえ」
「おいどんが聞いた話によると、般木道真はあれで一度も筋トレどころか、本気を出したことすらないみたいっす……」
「そりゃもう、化け物としか言いようがないでやんすね……」
「……」
俺は全身の血が滾るように熱くなっていた。般木道真……やつといつかお互いに本気でやり合ってみたいもんだな……。
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