電話

「元気?」

 電話越しでも君の声を聞くとほっとする。胸の中がじんわりとあったかくなる。勇気を出して「電話をしたい」と言ってよかった。

「うん。元気。君は?」

「俺も大丈夫」

 話したいことは数え切れないほどある。小さなことでも君に話したいと思っていた。大切にしているこの気持ちも君に話したいと。君のことも聞きたい。

でも、何故か言葉にならない。気持ちばかり溢れて、口から声が出ない。沈黙が首を締め付けるようで、少し苦しい。

「どうしたの?」

 君が聞いてくる。

「言いたいことはゆっくりでいいからね」

 私がどうして黙っているかわかっている、とでも言うかのように君は優しく言う。

「あの、ね」

 途切れそうになる言葉を必死に紡ぎながら君に話し始める。散らばっているものをかき集めながら、並べながら。

「大丈夫、ちゃんと聞いているから」

 どんな話も君は真剣に聞いてくれる。上手く話せない時も、待っていてくれる。

 もしも、これが君の隣にいる時なら、その沈黙さえも心地よいのに。

 声を聞くと安心するけれど、やはり、君と話す時は君の隣がいい。わがままだってわかっているが、君に会いたい。

 一通り私の話を聞いてから、君は話し始めた。

「俺、決めたことがあるんだ」

 真面目なその声につられて私も少し背を伸ばす。

「うん、聞くよ」

 君の将来の話。君と私の将来の話。

 君は一つ一つ言葉を選ぶように、ゆっくりと話す。電話越しのその声が、すとん、と、私の中に落ちてくる。

「だからね、次の春には一度戻ろうと思うんだ」

 君に会えるんだ。嬉しくて、嬉しくて、飛び上がりそうになる。嬉しさで零れそうになる涙をこらえて、返事をする。

「うん。待ってる」

 次の春が待ち遠しい。ああ、君に会いたい。

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