雨がしとしと降っている。銀色の細い糸が、薄暗い部屋の中に時間と私を閉じ込める。灰色の重たい空は今にも落ちてきそうだ。

 君のいるところは、ここと同じような雨が降っているのだろうか。だとしたら、君は傘を差しているのだろうか。君は大雨にならないと傘をささないから、よく体を冷やして風邪をひいていた。だから、こんな雨の日は君のことが心配だ。

 それでも相合い傘なら入ってくれたな、と、君と初めて相合い傘をした日を思い出す。

 それは君とでかけているときのことだ。電車に乗るまでは雨は降っていなかったのだが、窓の外の雲はだんだん厚さを増して、電車から降りたときにはポツポツと雨を降らせていた。

「俺、傘持ってないな」

「差すつもり、あったの?」

「いや、これくらいなら平気だからあっても差さないかも」

「差さないと風邪を引くよ」

 がさ、ごそ。かばんの中を引っ掻き回す。家を出るときに折りたたみ傘を入れたはずだ。

「一緒に入る?」

 自分から誘うのは少し照れくさかったから、折りたたみ傘で君のことを突っついた。

「いや、これくらいならいいよ」

 君は目を逸らして言った。しかし、傘を私から取り上げて、開いた。

「やっぱり、一緒に入るよ」

 水玉模様の折りたたみ傘は二人で入るには少し狭く、濡れないようにするにはいつも以上にくっつくしかない。数センチ隣りにいる君がどんな顔をしているか、見上げることができずにいた。でも、このいつもより近い距離が嬉しくて、目的地で君と楽しみたいのに、目的地に着いてほしくない自分がいた。

 こんな雨の日には君と一緒に傘を差したい。

 君に会いたい。

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