『ジソンシン』

雨が降ってきた。洗濯物を取り込みながら、わたしは晩御飯の献立を考える。



一通りハンガーにかけ終え、靴下を洗濯ばさみに挟んでいく。



泥のしみがとれてない靴下を見る。娘の小春は4歳になった。



匂いを嗅ぐ。洗剤のいい匂いがした。雨の匂いも感じてみる。



ベランダの下では大家さんが水やりをしている。雨が降っていることに気づいて、早々に水やりを終えた。



アスファルトの上には雨がしみては消えしみては消えを繰り返す。次第に灰色のアスファルトは潤いを増して黒くなってきた。



昨夜、ラインで友達から結婚式披露宴の案内が来た。迷ったがいかないことにしようと思う。


 

雨に迷った鳥の声が響く。


 

雲はみるみるうちに立体的な灰色なっていく。


 

わたしの服の裾が引かれ、振り返ると小春がなんとも言えない顔でわたしを見る。


 

わたしはごまかすように微笑みかける。


 

小春は寄り添うように微笑みかける。


 

「雨、降ってきたね」


 

子供は正直だな。



「そうね」


 

「ねぇ、お母さん、ジソンシンってなに?」


 

「ジソンシン?」


 

「うん」


 

「ジソンシン?・・・小春、そんな言葉どこで覚えたの?」



「けんたくんがね、教えてくれたの」



「すごいね」


 

「うん。けんたくんがね、小春はジソンシンがあるって」



「うん」


 

「じゃあお母さんもジソンシンあるね」


 

「え」


 

「だって、お母さんは小春のお母さんでしょ。だからお母さんもジソンシンあるって」


 

「えへへ」


 

「すごいね、お母さん」


 

「すごいの?」


 

「うん!ご飯作ってくれるし、はみがきしてくれるしぃ、おやすみって言ってくれるし。あ、あと、おはようとかいってらっしゃいも言ってくれる」



雨が強くなってきた。


 

小春と一緒に昼寝をした。小春の寝顔。気づいたら日が暮れていて、そっと布団を抜け出した。


 

夕飯の支度をする。ふと、もう一度ラインを開いたわたしは、披露宴参加のボタンを押してみた。


 

 


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