第24話 レオルド7
様々な事後処理に追われていたレオルドだが、一番の問題は聖剣の遣い手の件だった。
遣い手を選ぶのは聖剣自身で、かつての遣い手が未だに現役だったというだけの話だ。
しかし理解できない者、認めたがらない者が予想以上に多かった。
魔人討伐隊の話も、ルークセンが二人目の被害者を見て、発見された場所を指摘して「聖王陛下のいらっしゃる所から離れすぎている。これは囮かもしれない」と意見したので、魔人はこの近くにいると意地になって主張したらしい。
レオルドにはくだらない理由としか思えないが、当人たちは「この感情は理屈じゃないんだ」と言い張っていたそうだ。
尋問したジョーゼスが「仕事に私情を持ち込むな!」と怒っていたものだ。
近くにいる者たちは、まだ話をして説得する余地がある。
けれど大多数の国民はそうもいかない。
聖都の民なら演説を聞かせる機会を作れても、国内の他の民にはどう伝えたら良いのか。
代理人を派遣するとして、レオルドの意志に賛同してもらうところから始めないとならない。いつになったら伝わるのか。
「僕はジョーゼスに理路整然と説明されたからルークセンの立場について考え直した覚えがあるけど、ジョーゼスの説明を聞いても理解しない連中のことはわからない……」
「聞いているふりをして、自分と違う意見など聞いていないんですよ。自分が正しいから相手の意見は間違っている。そう思い込んでいるのでしょう」
「話し合いって難しいな」
「話し合いにすらなっていないんですよ!」
人間の相互理解の道は長く険しかった。
「討伐隊のほうはどうだった?」
「隊長や副隊長あたりは良いのですが。私情を殺して協力できるでしょう。ですが血の気の多い隊員が多いんですよ……」
討伐隊本部に根回しして来たジョーゼスが、脳筋どもめとぼやいている。
荒事が苦手なジョーゼスは、以前から討伐隊を苦手にしている。ただし話し合いの相手はジョーゼスも評価している人物たちなので、この仕事を任せても文句ひとつこぼしていない。
「しかも討伐隊では聖女サマが人気なんです」
「ではイサリアに頼んで」
「逆効果です」
レオルドもイサリアが討伐隊内で人気だという報告は、前から聞いている。
人を癒やして世界を救え、と師匠に言われていると言って討伐隊に協力していた。
牢屋掃除より良いとレオルドも思って、便宜をはかるように言っておいた。
「若い娘の治療師で、金や名誉など求めず、ただ人助けがしたいと言って、治療費の追加要求もせずにそれ以上の治療を請け負う救国の乙女ですから」
「話だけ聞いていると立派な聖女なのに、本人に会うと聖女だと思えないのは何故だろうな」
「あれを見ても聖女だと思える脳筋ばっかりなんです」
レオルドが『聖女』というものに過剰な期待をしているのだろうか。
聖女にふさわしい雰囲気とか、言動とか。
「ルークセンのことを
「聖女だと思い込んでいるからだな。さっきの話、同じ構造か……」
「そうですね。そして、聖女サマにはふさわしくないと言い出す者も出てくるでしょう」
「矛盾していないか?」
「当人は気づかないものらしいので」
レオルドもどこかで間違えて、思い込みを信じているかもしれない。
だが自分のことは見えなくても、他人のことは分かるものだった。
「しかしルークセンも、イサリアくらい居てくれないと、この国では生きにくいだろう」
聖剣の遣い手だろうと、国民たちは憎み続けてきたルークセンを許せないだろう。
レオルドの中にも、割り切れない感情はある。
だから、記憶がなくこの国の民かどうかもわからないイサリアだけが、ルークセンと他意なく付き合えるのだ。
「そういえば、イサリアは旅に出てないだろうな」
「もちろんです」
強制する権利は誰にもないが、イサリアに去られると困る。ルークセンのことがなくても、引き留めておきたい。
そして聖剣を取り戻した方法を、どうにか思い出して欲しかった。
Fin.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます