第16話 レオルド4




 先日の事件の後、レオルドは早速補佐官たちと聖剣の選定に関する規定変更の草案を練り、議会にかけた。

 承認に数日かかったが、反対する者はなかった。神殿の近くを通って実情を知っていれば、あんなものを他国の人間に見られたら恥ずかしいと誰もが思ったようだ。


 細かい取り決めを調整し、対応する人員についても選出した。騎士団や討伐隊にも臨時の派遣を要請した。

 これについては、調整内容にも少し関係がある。


 聖剣の遣い手は、魔物と戦う使命がある。

 ゆえに日頃から魔物と戦う者、討伐は管轄外でも護衛などの任についている者を優先して選定を受けてもらうことにした。

 この規定は聖剣の久しぶりの帰還のために生じた混乱に対応するためであり、次回以降には適応されないものとした。


 他の六国のどこもこんな決まりは作っていないので、継続させるたくなかったのだ。



「だいたい想定通りだな」

「カサルーナ国から魔人が侵入しているという報告は、各所に届いていますから。人間に化けた魔人を見破れるのは、聖剣の力だけですよ」


 会議が一段落ついて執務室に戻ったレオルドは、筆頭補佐官の言葉に少し考えてから気づいた。


「いつもどんな内容だろうと反対する叔父上が同意していたのは、それが理由か……」

「直前に念を押してもらいました」


 誰にとは言わないが、先代の聖王の弟であり、レオルドの叔父である人物に働きかけられる立場の者だろう。

 叔父は幼いレオルドが王位を継ぐことに反対し、自分が次の王になるべきだと主張していた。幼くともレオルドは立太子されていたので、叔父の意見は通らなかったのだ。


 以来レオルドの意見の反対ばかりしている叔父だが、聖剣の遣い手が早く見つからないと困ると感じて、今回、主義を曲げたようだ。


「まずは聖都に在住の者たちからになりますが、他の街から招くには調整が不可欠ですね。聖都に招く代わりの人員を派遣しなくてはなりませんし」

「そうだな。昔はどうしていたんだ?」

「そのあたりの資料も探させています」


 かつては常識だったのだろうが、長らく使われずにいた知識だ。法で定めてあったとしても、掘り起こさないとわからない。


 いくつかの案を検討してから、レオルドはジョーゼスに尋ねてみた。


「ルークセンはどうする?」

「例のアスタリオ国の故事も含めた説話集を編纂させています」

「説話集?」

「遣い手を引退しようとしても聖剣が許してくれなかったという話は、探せばいくつも出てくるのですよ。最有力候補かもしれません」


 ジョーゼスも改めて調べて、危機感を募らせたらしい。

 魔人の件もあるため、よく考えたら遣い手探しは急務だった。


 レオルドも聖剣が戻っただけで十分だと思っていたが、魔人対策は考えていなかった。


「だが当の魔人は逃げまわっているのだろう?武器だけなら用意できる」

「この300年、それでもしのいで来られたとはいえ、被害は増えてしまいます」

「……そうだな」


 ユフィアス国にも300年の間に何度か魔人が現れている。そのたびに甚大な被害が生じていた。


「どの段階でルークセンの選定を行うか、ルークセンの選定を認めさせるか。問題しかありません」

「処刑はいつ行うんだとせっついて来る連中をごまかすのも、そろそろ限界だぞ」

「さっさと選定して、遣い手ではないと証明されれば!でもそうすると次の遣い手がいつ見つかるかわかったものではないという状況に変化がないわけで!」


 ルークセンが遣い手だったら、対魔人の戦力を即座に確保できる。

 ルークセンが遣い手ではなかったら、魔人が現れても打つ手がないかもしれない。


「……なんだか聖剣を利用することばかり考えているな。存在してくれることに感謝だけしていたいのに」

「綺麗事は神官たちにまかせましょう。汚れ役も必要です」


 聖王を汚れ役扱いするジョーゼスを他の補佐官たちが怒っていた。

 けれど被害を抑えたいと思うなら、王は聖剣すら利用しないと誰も守れないのかもしれない。


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