第9章 Part 6 結晶島

【500.7】


 海面上では氷龍がリヴァイアサンと格闘を続けている。

 アーサーも氷塊を渡り、リヴァイアサンの体表へと飛び移った。


「MPが回復したらボイドを撃つわ。

 ジャック、サポートをお願い」

「待ってろ……。

 今、水を集めてる」


 ジャックは海水を吸い上げ、巨大な球状にして浮かせている。




 氷龍がリヴァイアサンの喉元、鱗が最も柔らかそうな場所に噛み付き、ミシミシと音を立てる。

 同時にアーサーがリヴァイアサンの頭頂部に双剣を突き刺した。


 周囲の海面はリヴァイアサンの傷口から流れ出した体液で赤黒く染まってきている。

 リヴァイアサンの動きを観察すると、戦闘開始時よりは攻撃に対する反応速度が落ちているように見える。

 2人の体を張った戦闘のお陰だろう。


 リヴァイアサンがアーサーを振り解こうとのたうち回り、海面へ自らの体をめちゃくちゃに叩きつける。

 その直前にアーサーはリヴァイアサンの体表を蹴って飛び降りた。


 落下するアーサーを氷龍の背中がキャッチする。




 MPは……178。

 もどかしい。


 アーサーは再度リヴァイアサンへの攻撃を試みる。


「また近くまで寄ってくれ!」


 氷龍はリヴァイアサンを目がけて矢のように滑空してゆく。

 リヴァイアサンは水流を射出して撃ち落とそうとするが、氷龍はそれをヒラリと躱した。


 その直後。


 氷龍が一瞬光に包まれた。

 メリールルの姿に戻っている。


「ウソッ!?

 MP切れた!?」

「えっ!?

 このタイミングで!?」

「ゴメ~~ン!!

 夢中になってた~……。

 落ちるわ!」


 メリールルとアーサーはそのまま海面に落下していった。


「くそっ……!!

 間に合え!」


 ジャックが海面付近の空気を操作し、落下の衝撃を和らげる。

 間一髪。2人は無事着水した。




 でも、マズい……。


 私の方は、もうすぐMP溜まるんだけど……。

 リヴァイアサンの動きを止めるには、メリールルのブレスが必要だ。


 今のMPは……221。


「ドロシー、あとどのくらいで溜まるんじゃ!?」

「1分くらいです!」

「1分じゃな!? わかった!」


 バルチェがメリールルの方へ飛んで行った。




「アーサー、メリールル!

 時間が無いぞ。

 それに2人でここに浮いていても、リヴァイアサンに食われるだけじゃ」

「バルチェさん……。

 メリールルのMPが切れたんです」

「霞化じゃ!!」

「え!?」

「ドレインでアーサーからMPを貰え!

 今はそれしかない!!」

「いや……でも……」

「いいよ! メリールル!

 やって!!」

「ホントに言ってんの?」

「加減はしてね。

 殺さないでくれると有り難い」

「……わかった!」


 消えた氷龍を探していたリヴァイアサンが海面に漂うアーサーとメリールルを発見した。


 波を巻き上げながら2人に近付いてくる。




「ジャック!! 今じゃ、やれ!!」

「おう? おう!!」


 いつの間にかバルチェが戻ってきていた。


 ジャックは大量の水を凝縮させた球体を操作し、リヴァイアサンに向けて加速させた。


「やっちまうぞ!!

 アーサーとメリールルは何とかなるんだな!?」

「大丈夫じゃ!!」


 リヴァイアサンの鼻先で水の球が弾けた。

 大量の海水がリヴァイアサンの頭部を覆い尽くす。




 カッ……!!


 それとほぼ同時に、海面に閃光が走った。


 直後、海面を蹴って氷龍が姿を現し、ありったけの冷気のブレスをリヴァイアサンへ浴びせる。


「よし!! ドンピシャ!!」


 隣でジャックが叫んだ。

 リヴァイアサンは大量の氷に頭部を覆われ、動きを止めた。


 私のMPは……270。

 溜まった!!


「ボイド!!」


 キューーーーン……。




 ギュボッッ!!




 氷に覆われたリヴァイアサンの眉間の辺りから脳にかけて、立方体状に肉がえぐれ、陥没する。


 バキィィーーンッ!!


 破裂するように氷が割れた。


 リヴァイアサンの頭部からブシュッ……ブシュッ……と鮮血が飛び散る。


 リヴァイアサンの胴体がゆっくりと傾いていき……。



バシャァーーーン…………。




 特大の水しぶきを上げながら、リヴァイアサンが水面に崩れ落ちた。


 赤く染まった渦を作りながら、リヴァイアサンの体が海中に沈んで行く。


「やった……!

 あ、アーサーは!?」


 海面付近を探す。


 低空をゆっくり飛びながらこちらに向かってくるメリールルの姿が目に入った。

 全身の龍化は解除し、翼のみを部分龍化させている。

 両腕で重そうにアーサーを抱えていた。


 2人とも無事のようだ。




 壁の上に浮いた魔動船の上で、5人が集合。


 ハンターギルドのライセンスを取りだし、討伐記録を確認する。

 そこには、「リヴァイアサン」の文字が刻まれていた。


「やった……!」

「ああ!

 俺達、リヴァイアサンを倒したんだぜ!!」

「よっしゃ~~!!」




 再び溜まったMPでイニシャライズを発動、船の損傷を修復し海面に浮かべる。


 道中最大の懸案事項は解決した。


 航海を続けよう。






 海路7日目。

 遂に私達は3大陸の中心付近の海域に到達した。


「もうちょい北じゃ。

 いずれ見えてくるじゃろ」


 一度偵察に行き、目的地の場所を知っているバルチェが船を先導する。




 やがて、水平線の彼方に太陽を反射する陸地が姿を現した。


 結晶島。


 バルチェがそう名付けたアルマートの拠点は、彼女の水晶生成の能力を活用して作られた人工島だった。

 島の直径は500メートルくらいだろうか。

 その全土が水晶とジュエルでできている。


 見るだけで、アルマートの水晶生成能力の高さがうかがえる。




 結晶島の形状を改めてよく見てみると、水晶でできた土台の上には目立った起伏もなく、設備なども見当たらない。

 深い緑色に輝く平らな地面が続いているだけだ。


「何か真っ平らだね~。

 ソフィア結晶、どこにもないじゃん」


 そうなのだ。

 もし、ソフィア結晶やワールドダイブのための装置などが視認できれば、奇襲でそのどれかを破壊するだけで「ワールドダイブの阻止」は達成できるのだが。


「大事なものは、全部地下に埋まっておるんじゃろ。

 用心深いことよ。

 ま、予想どおりじゃがな」


「で、どうするよ?

 どこまで近付いて良いんだ?」

「この辺りで止めておくか。

 わしが近付いて状況を確認してくる」


 島の50メートルほど手前で魔動船を停止させる。

 バルチェは結晶島へと飛んで行った。




「待ってたわ」


 島の中心付近から声がした。

 ユノ・アルマートだ。

 ゆっくりと岸壁まで歩いてくる。


 ラザード島で見た黒いローブ姿ではなく、全身を身軽そうな鎧で覆っている。

 そして、以前は後ろで三つ編みにしていた長い髪を短く切り整えている。


 まさに、戦闘態勢。

 外見からもそんな印象を強く受ける。

 やる気満々、か。




「……!?

 バルチェ……さん……?」」


 アルマートが復活したバルチェの姿を見て驚きの表情を浮かべた。


「ご無沙汰じゃな。かつての教え子よ」


「……どういうわけで貴方がそこにいるのかは知りませんが、むしろ好都合です。

 私の目的はすべて彼らに話したのでしょう?


 大人しくラザード島のソフィア結晶に施した結界を解きなさい。

 そうすれば、危害は加えない」


「一方的じゃのう……。

 久しぶりの再会じゃ。もっと話さんか?」


「今更話すことなんて……。

 バルチェさん、貴方との対話には5年前に答えが出ています。

 それとも、この場所の情報を探るための時間稼ぎ?」


 バレてる……。


「ハッキリさせましょう。

 ドロシー、私の要求に従いますか?」


「……いいえ」


「なら、戦うしかないですね」

「待って!!

 ワールドダイブなんてやめて!

 こんなこと誰も望んでいないわ!!」


「無駄じゃ!!

 来るぞドロシー! 備えろ!!」


 アルマートは目を閉じた。


「望んでいるのは私。

 それだけで十分。

 世界は力を持つ者の意に沿って動かされてゆくのだから」




 ズンッ……!!




 殴られたような強い衝撃を感じる。


 気がついたら、空中に放り出されていた。


 背後を振り向くと、今さっきまで乗っていた魔動船が海面から突き出る巨大な水晶の棘で串刺しにされ、真っ二つに割れるところだった。


 前方に投げ出されたのは私とアーサーの2人、後ろにはジャックとメリールルが一緒に吹っ飛ばされている。


 このまま海面に落ちるのはマズい。

 絶好の的になってしまう。


 落下が始まる直前、咄嗟にアイソレートで空中に足場を作る。


 メリールルが翼を出すのが見えた。

 後ろの2人は何とかなりそう。


 アイソレートの足場に着地する。

 アーサーは足場を蹴り、一気に前方に跳んだ。




 ソフィア結晶を持っている以上、持久戦は相手が有利。

 なので、まずは可能な限り早期決着を目指す。

 そう事前に作戦を立てていた。




 アルマートは両手を合わせ、祈るような格好で自身の周囲に水晶をいくつか生成しはじめている。

 ジュエルを作るつもりだろう。


 そこにアーサーが、弾丸のように一直線に飛びかかる。

 勢いのままに渾身の一閃を浴びせた。

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