第9章 Part 5 リヴァイアサン
【500.7】
私達もネクタルを飲む。
まず、船が破壊されては活動出来ない。
船の安全確保が最優先。
高度100メートルくらいでいいか。
あまり高過ぎると魔法の射程圏外になる。
えい! アイソレート!!
自分達のはるか頭上に透明な壁を生成する。
海面と並行、直径10メートルくらいの円形の壁だ。
「移動するよ!
みんな船につかまって!」
次は、船ごと私達をエクスチェンジ。
場所は今作った壁の上へ。
透明の壁を足場にして、魔動船を空中に固定した。
「ひえぇ~~。 怖ええ~」
「足場の上に降りてもいいけど、行き過ぎて落っこちないように注意してね!
足場の形はスキャンで共有するから」
これで取りあえず準備は完了。
リヴァイアサンが幾ら巨体でも、ここまでは上がって来られないはず。
しかも、壁は下方からの攻撃に対しては絶対の盾になる。
「じゃ、いいね!? 戦闘開始ィ!!」
メリールルが部分龍化の翼を出し、アーサーを抱えて飛び立った。
生き生きしている。
リヴァイアサンは私達の真下まで来てこちらを見つめている。
しかし、視線を切り、一度海底に潜った。
あくまで船を狙っている……?
まさか……。
嫌な予感は的中した。
水面下で加速したリヴァイアサンの頭部が再び海面を割ったかと思うと、そのままこちらへ飛び上がってくる。
「マジかよ!!
ジャンプでここまで来るつもりか!?」
咄嗟にジャックが応戦する。
特大の水の刃をリヴァイアサンの顔面にぶつけた。
私は船を守らないと。
再度上空にアイソレートで足場を生成。
そしてそこへエクスチェンジ!
今度は海面から300メートルほどの高さに足場を作り、そこへ移動。
ギリギリ間に合った。
リヴァイアサンには傷1つついていない。
大顎が最初の足場にぶつかる。
「ほぉ~~。
凄いデカさじゃの~~」
バルチェはリヴァイアサンを見るのは初めてのようだ。
その巨体に目を奪われている。
獲物を逃したリヴァイアサンは海面へ落下していった。
これで私のMPはほぼカラ。
「今だよ! メリールル!!」
「ハイよッ!!」
アーサーがメリールルに指示を出す。
メリールルがリヴァイアサンに物理防御弱化の魔法をかけた。
アーサーは最初の壁に着地。
「足場を頼む!」
「分かった!」
メリールルが巨大な氷の塊をいくつも作り出し、海面に浮かべた。
アーサーは氷塊を足場にしてリヴァイアサンに接近し、斬りかかる。
ザシュシュッ……!!
堅い鱗をアーサーの研ぎ澄まされた剣撃が切り裂いてゆく。
ダメージが通った!
リヴァイアサンの体表に乗り移り、続けざまに連撃を繰り出した。
リヴァイアサンの鱗が裂け、赤い体液が飛び散る。
リヴァイアサンがアーサーを振り払おうと身体を揺するが、既にアーサーはそれを察知し、氷の浮島に移動していた。
リヴァイアサンは再び海中に潜った。
「よーし。アタシも!!」
メリールルが全身を龍化させる。
再浮上したヴァイアサンが海面から顔を覗かせると同時に、顔面を目がけてブレスを放った。
「グォォオアアッ!!」
リヴァイアサンが苦しみながら氷龍に噛み付こうとする。
氷龍はそれをかわしながらもブレス攻撃を続ける。
リヴァイアサンはめちゃくちゃに空中を噛みながら暴れ始めた。
「おっとっと……」
波が立ち、氷の浮島が揺れる。
アーサーが合図をすると、氷龍は旋回しながらアーサーの頭上に近付き、浮島のアーサーを回収した。
リヴァイアサンはやっと顔面の氷を振り払い、3度目の水中潜行に入った。
「ダメージは与えられているね。
でも僕達じゃ決定打にならない」
氷龍の足に掴まりながら、アーサーがリヴァイアサンの次の動きを注視する。
その頃、私はMPの回復を待っていた。
さっき船を避難させてから、まだ150程度しか溜まっていない。
ボイドを撃つにはMPが足りない。
隣ではジャックが水を帯状にして私と船を囲んでいる。
「潜り始めてから長いな。帰ったか?」
「だと良いんだけど……」
突如、リヴァイアサンが水面から顔を出した。
大きく息を吸い込んだかと思うと、アーサーと氷龍を目がけて海水を射出した。
そのスピードはジャックの水刃の比ではない。
相当な圧力で放たれた水流により、2人は後方へ吹っ飛ばされた。
「やべえ!
メリールルはまだしも、アーサーは生身だぞ!」
リヴァイアサンは尚も止まらない。
もの凄い勢いで水流を放ちながら首をこちらに向けた。
水は船の真下を打ち付けるものの、アイソレートの見えない壁によって船が傷つくことはない。
すると今度は、まとまった水量を上空へ向けて撃ち上げだした。
放物線を描いて水弾がいくつも発射される。
「曲射か!
器用なことしやがる……!」
水弾ははるか頭上へ登った後、足場の上へ落下してくる。
よく見ると、その中にはさっきメリールルが倒したシーハンターの死骸まで混入している。
ジャックが水の壁を作って最初の1発を受け止めた。
しかし、あまりの重量にシーハンターの死骸を支えきれず、死骸は船の上へと落下してしまった。
ベキベキと音を立て、甲板が曲がってゆく。
続けて水弾が落下してくる。
「これ以上は無理だ! すまんドロシー頼む!」
再度最初の足場へエクスチェンジ。
戦闘が終わったら、船をイニシャライズで修理しなければ。
そこに氷龍につかまったアーサーが合流した。
「アーサー! メリールル!
大丈夫だった?」
「何とか。
直前でメリールルが盾になってくれたからね。
メリールルの方がかなりダメージ受けてる」
氷龍は肩の辺りから血を流している。
翼も所々穴が開き、ボロボロになっている。
だが、闘志はいささかも衰えていない。
全力でストレートに力を発揮できる戦闘。
世界意志とやらが課した『闘争の呪縛』だとしても、バトラーズ・ハイは精神を高揚させるのだ。
「この程度は問題ないって言ってる。
治している余裕はないよ。
ドロシー、MPは今どのくらい?」
「今……129」
「何とか僕とメリールルで相手するから、その間にボイドを頼む」
「ええ。
正確に頭部に攻撃を当てるには最低3秒くらいは動きを止める必要があるわ。
お願い」
「分かってる。
動きは最初より見えるようになってきた」
アーサーは再度氷の浮島へ降りていった。
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