第9章 Part 2 神託を授かりし者
【500.7】
崩壊がおさまり、轟音が止む。
視界は闇に閉ざされている。
氷龍の翼に守られているが、上からの重圧を感じる。
私達は、かなりの量の瓦礫に埋もれたようだ。
「……生きてる?」
「……うん」
「クソッ……! ふざけやがって……!」
氷龍が身じろぎをした。
「グゥゥ……」
かなりのダメージを負っている。
「駄目押しだ……」
はるか上空の声とともに、幾本もの光の矢が降り注いだ。
アデュアの持つ球体が放つ光線だろう。
私達が埋まる場所を瓦礫ごと貫き、地面を穿つ。
「ッガァァア……」
氷龍の体が震え、伏した私の顔の辺りに温かい液体が流れてくる。
今のMPは100とちょっと。
回復が全然間に合わない。
予備のネクタルを持っているのはジャックだ。
ジリ貧の状況を抜け出すには、イニシャライズで傷を治すことより、攻撃から逃れることにMPを使わなければ……。
「みんな、回復はちょっと待ってね」
エクスチェンジを発動。
場所は……ずっと地下。
しかもシェルターとかじゃなく、人が通れる場所から離れた、完全に隔離された空間が良い。
地下5階くらいの深さの地中に、四角い空間を空け、そこにエクスチェンジで移動した。
ここなら、見つからないはず。
もし見つかっても、簡単には近付けない。
体中が穴だらけになった氷龍は虫の息だ。
呼吸音は聞こえるものの、私の呼びかけに答える力はない。
「ジャック、ネクタルをちょうだい」
「ああ……ほらよっ」
静かだ。
MPが溜まるのをじっと待つ。
「溜まったわ。
まずはメリールル」
イニシャライズを発動する。
傷が癒えると同時に、彼女は龍化を解いた。
「サンキュー。
死ぬかと思った」
ズズン……。
地上付近だろうか。
遠くで爆音がする。
「探してやがるのか……」
「アデュアの能力は何なんだろう。
光線を撃つだけじゃなく、自由に爆破もできるのかな……?」
「分からない……。
そもそも、あれは何の魔法なの?」
「魔法じゃない」
!?
声とともに現れたのは、バルチェだった。
「バルチェさん!
……魔法じゃない、って?」
「遅くなってすまんの。
様子を見に来たら王宮は崩壊しとるし、変な男が光を降らせとるし。驚いたぞ。
……あの男が使っている術は、『科学』じゃ」
……科学?
「科学って……まさか?」
「ああ。
どういう理由か知らんが、あのアデュアとかいう男、失われた科学文明の技術で作られた武器を全身にまとっておる」
ズズン……。
さっきよりも音が近付いている。
「おいおい……。
科学って、あんな無茶苦茶なモンなのか?」
「弱点は? どーすれば勝てんの?」
「難しいのう……。
ヤツはかなり準備しておるようじゃし。
……そうじゃ!
助っ人に頼むか!」
…………。
ズズン……。
音はすぐ上だ。
私達が隠れている場所は完全にバレているらしい。
ここまで地面を掘り起こす気か。
「さてと、作戦は立てたし。
そろそろ行くか」
「ええ」
反撃開始だ。
スキャンで位置関係を把握。
そして、メリールルとジャックの2人をエクスチェンジで地上へ転移させる。
メリールルが霞化しつつ、囮役として目立つ場所へ。
アデュアとの戦闘が始まった。
アデュアが使った爆破の技は、バルチェによると設置型の小型爆弾らしい。
好き勝手にどこでも爆破させられる訳ではない。
最初の攻撃は、全てヤツの思い通りに誘い込まれた結果の周到な波状攻撃だ。
事前に張られた罠に、まんまと嵌ったのだ。
つまり、注意すべきなのは、光線の攻撃。
再度スキャン。
地中に埋まった爆弾の位置をジャックに共有し、遠隔攻撃で先に爆破させる。
私はスキャンを継続しつつ、アーサーとともに地下に身を隠し続けている。
アーサーは最悪の場合の、私の護衛役だ。
よし。
これで戦闘の邪魔になりそうな爆弾は大方処分した。
ジャックもメリールルに加勢するため、瓦礫の上へ登った。
ジャックとメリールルは、アデュアとある程度の距離をとりながら戦っている。
……と見せかけて、戦ってはいない。
バルチェによると、アデュアは特殊な機械によりソフィアとウィルの流れを視認している。
つまり、魔法の発動が全部見えている。
前回の戦闘で私達の攻撃がことごとく回避されたのは、そのためだ。
それなら、2人は何をしているのか。
2人には、アデュアにダメージを与えるつもりはないのだ。
積極的に戦っているように見える立ち回りをしているが、実際のところは防御に徹している。
ヤツの意識を2人に集中させるために。
問題は私だ。早く見つけないと……。
スキャンを撃つ。
……見つけた!!
今の残りMPは……210。十分だ。
私のスキャンは全員に共有されている。
ジャックとメリールルも状況は認識できている。
2人はバラバラに離れて戦うのをやめ、互いに近付くように移動した。
2人の位置が近付くタイミングを待つ。
そして、2人が1か所に集まった。
丁度アデュアの目の前にいる。
視線を遮るものはない。
……今だ! エクスチェンジ!!
エクスチェンジで位置を交換する対象の一方は、ジャックとメリールルの2人。
そして、もう一方は――
「ホ……ホギャァァァアアアア!!!」
唐突に転移させられた裁定者が、アデュアを視界に捉え泣き叫ぶ。
反射的にアデュアは後方に飛び退き、裁定者と距離を取ろうとした。
……が、周囲に隠れられる場所はない。
ゴンッ!
心の底をえぐるような、無慈悲な音が響く。
アデュアは地面に落下した。
再度エクスチェンジを発動。
裁定者は私とアーサーが隠れていた地下の閉鎖空間に幽閉された。
地上の状況を確認する。
アデュアは瓦礫の山の中腹に仰向けで倒れていた。
腹部に大きな穴を開け、大量の血が衣を赤く染めている。
間違いなく致命傷だ。
瓦礫の山に近付く。
「ドロシー待って!
あまり接近するのは危険だよ!」
「何故私を狙ったのか、聞きたいの」
アデュアはまだ生きている。
呼吸が荒い。
「あなた、私を『魔女』と呼びましたね?
どういう意味ですか?」
「……ハアッ……ハアッ……ウウッ!」
アデュアが苦しそうに呻きながら上体を起こし、右手を持ち上げる。
ヒュッ……!!
「キャッ……?」
掌から何か飛ばした?
ダメージはない。
もう光線を出す力はないようだ。
アデュアも諦めたようで、再び瓦礫の上に体を横たえた。
「すみません……天使様……。
失敗……しました……」
何だ?
誰に話しかけている? 独り言?
……天使様?
「私は……ここまでの……ようです」
「案ずるな」
何かが応えた。
「お前は良くやった」
私とアデュア、アーサー、そしてバルチェの他には誰もいない。
低く囁くような声。
「死は怖くない」
男が立っている。
瓦礫の山のてっぺんから、アデュアを見下ろしている。
さっきまで、誰もいなかった。
ザッ……ザッ……。
ゆっくりと瓦礫の山を下り、アデュアに近付く。
アデュアのすぐ隣で男はしゃがんだ。
「今、その魂を天に帰そう」
「ありがとう……ござい……ます……。
天使……様」
男はアデュアの胸元に右手をかざした。
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