第6章 Part 7 地竜の殺し方

【500.6】


 翌日。

 再び地竜に挑む。

 1日かけて準備は整えた。


 穴の開いてしまった魔動盾は置いてきた。

 代わりに私達が坑道に持ち込んだのは、大量の爆薬。

 昨日の作戦会議で決まった地竜攻略の要だ。




「ふむ……。

 皆さんの話を聞く限り、地竜は操作魔法を用いて水晶を射出しているのでしょう。

 そして、体表の水晶がジュエルと同じ働きをして威力を増大させていると予想します」


 作戦会議には、ギルドから副支部長のジキリクさんにも来てもらった。


「ドロシー様の魔動盾を見るに、強化された水晶弾の威力はかなりのもの。

 メリールル様が龍化されても荷が重いかも知れません」


「何か策はないかしら?

 例えば、背中のジュエルを無効化するとか」

「確か、ジュエルを魔法で傷つけることは出来ませんでしたよね?」


 ……え? そうなの?


「はい。

 ソフィア感応水晶に魔力を加えてジュエルに変える工程――錬晶と呼ばれるものですが――これを経ると、水晶は魔法攻撃に対して強い耐性を得るのです。


 同時に物質を透過するソフィアやウィルがジュエル中を伝播する速度も遅くなります。

 ジャック様やドロシー様の操作魔法では、傷をつけるのは難しいでしょうね」


「じゃ、龍化したアタシの爪で引っ掻くのは?」


「メリールル様の龍化は、ソフィアとウィルの塊とは言え、それ自身はほぼ物質化した存在です。

 効果はあるでしょう」


「……とすると、アーサーとメリールルの斬撃だけか。

 どうだ? やれると思うか?」

「うーん……。

 正直言って厳しいなあ。

 あの速度の水晶弾を避けつつ、背中のジュエルを1個ずつ破壊するんでしょ?

 ジュエルを斬るなら双剣も刃こぼれするだろうから、途中で研ぐ必要もあるし」


「いっそのこと、坑道ごと爆破しちゃえば~?」

「何言ってんだ?

 そんなことしてもレピアの手掛りごと吹っ飛ぶだけだろ……いや待てよ?

 使えるかもな」




 ……というわけで、今ジャックは大量の爆薬を背負っている。


 昨日の地竜の縄張りに到着。

 地形を良く観察し、最終的に爆薬を仕掛ける場所を決める。

 崩落した部分の逆、地竜のねぐらとも離れた最も奥の袋小路だ。


 幸い地竜は寝ているのだろうか、こちらに気付く様子はない。

 今のうちに爆薬を設置する。


「この戦いは作戦重視。連携が大事だ。

 昨日のイメージのとおりやろう」

「ええ」


 アーサー、メリールル、そして私の3人は爆薬を仕掛けた場所に固まって待機、そしてアイソレートを発動する。


 アイソレートの壁は私達3人のいる爆薬を設置した空間と、その他の空間、つまりジャックやまだ眠っている地竜のいる空間とを隔てるように生成した。


 こちら側はそんなに広くない密閉空間だ。

 そこから通気孔のようにアイソレートの壁面に小さな穴、ウィルの通り道を開ける。


 バトラーズ・ハイの恩恵はないものの、しばらく待って私のMPが200近くまで回復する。


 これで準備は万端だ。


「アイソレートを張り終えた。

 MP残量も問題ないわ」

「よし、じゃあ俺が囮をやる。

 一撃加えてくるぜ」




 ジャックが気付かれないように地竜に近寄りながら、水筒からありったけの水を出す。

 これまで寝ていてくれてありがとう、地竜さん。


 ジャックの水の刃が地竜の右目の辺りを深く斬りつけた。


「グゥワ!!?

 ギャアアーーー!!!」


 大きな悲鳴が坑道に響く。

 ジャックはまだ退かない。

 こちらに誘引するまでが彼の役目だ。


「オラオラどうしたーーー!?

 地竜さんよォ、俺はここだぜ!!」


 ジャックが続けざまに水の刃を2発当てる。

 ようやく地竜が怒りの形相でジャックを捉える。

 ジャックは私達の方へ走り出した。


 同時に新たに水の刃を何発か生成し、射出する。


 地竜は水晶弾を放つが、片目が傷ついているせいか、上手くジャックに当たらない。

 坑道内をビリビリと震わせる咆哮を放ちながら、がむしゃらに四足歩行でジャックを追跡しはじめた。


「誘引には成功したね。ここからが勝負」


「早くしてよ~。アタシも戦いたいよ~」


 ジャックは地竜の追従を確認してから、今度は残りの水を霧状に拡散させた。

 これは水と空気のどちらも操れるようになった彼の新技である。


 辺りが霧で白く煙る。

 ジャックは私達のいる「爆薬地帯」のすぐ手前、壁面の窪みに身を潜めた。


 そろそろ霧から地竜が姿を見せる。


 もう少し……来た!


 地竜が霧の向こうから現れた。

 アーサーが爆薬の導火線に炎属性魔法で一斉に点火。


 今だ! エクスチェンジ!!


 カッと閃光が放たれ、私達3人と地竜の位置が入れ替わる。


 地竜は爆薬地帯へ、私達はその外側へ。

 すかさずアイソレートを発動し、エクスチェンジを発動させるために開けていた通気孔を塞いだ。


 地竜は走りながら位置が変わったため、すぐ奥の岩壁に鼻を打ち付けた。


 その次の瞬間。




 ドンッ!! ドドドンッ……!!




 一斉に爆薬が炸裂する。

 透明な壁の向こうは、たちまち爆煙で見えなくなった。


「よっしゃ!!」


 ジャックが歓声を上げる。




 煙が少しずつ収まってきた。

 2つのアイソレートを解除し、血だらけの地竜を視認する。


 よし、かなりのダメージが通っている。


「メリールル、出番だよ!

 暴れてくれ!」

「待ってましたァ!!」


 私とアーサーがジャックの所へ隠れるとともに、メリールルが龍化し、地竜と対峙する。


 飛びかかり、地竜の喉元に噛みつき、首の辺りを凍らせる。

 地竜は水晶弾の攻撃はして来ない。

 背中のジュエルも爆発で破損しているのだろう。

 代わりにその場で体を回転させ、重い尻尾を振って氷龍に打ち付けた。


 氷龍は前足でガードしつつ受け止め、彼女の側に顕になった地竜の右腹部めがけて前足を振り下ろす。


 ブシュッッ!!


 氷龍の鋭い爪が地竜の腹を割き、鮮血が飛び散る。

 内臓が外にはみ出して、すぐに凍る。


 この一撃で地竜の動きは目に見えて遅くなった。


「すっげーー。大迫力だな……」


 氷龍が前足で地竜の頭部を掴み、地面に叩きつける。

 そのままベキベキと音を立てながら冷気を送り込み、遂には地竜の頭を完全に凍らせた。


 地竜はピクリとも動かなくなった。


「ウオォォォオオオ!!!」


 氷龍が天に向かって勝ちどきの叫びを上げる。

 それは正に野生の獣のごとき迫力で、私達の下っ腹を鈍く震わせた。






「お疲れさーん!!」


 地竜の攻撃を食らったものの、メリールルは元気だ。

 降魔を解除してもピンピンしている。


「お疲れ様、メリールル」

「連携もバッチリ決まったな!」

「うん。完全に格上の敵だったけど、何とかなったね。

 僕たちの作戦勝ちだ」


 地竜の巨大な肉体がボロボロと崩れ、霧散していく。

 ライセンスには、地竜の討伐成功が刻まれた。




「けどよ。

 それでも、レピア1人で勝てない相手か?」

「僕もそれを考えてた。

 作戦を立てずに体術のみで戦ったとしても、レピアさんが楽しみながら倒す様が想像できるんだよね」

「あの人ならさ~。

 水晶弾とかフツーに避けそうじゃない?」




 地竜のねぐらの辺りを探すと、確かに細身のサーベルが地面に刺さっている。


「レピアが使っていた剣に見えるね。

 その他に手掛りはないかな」

「血痕とかは残っていないわね」


「やっぱりやられたのか? 丸呑みとか……」


 他に手がかりは無い……しょうがない、やってみるか。


 時渉石は見当たらないが、自力でビジョンを。


 時渉石はあくまでもジュエルと同じはず。

 ビジョンを発動させる能力は私に備わっている。

 ただ、時渉石なしだと、一体どれだけのMPを消費するのか……。


「ビジョンを発動するの? 大丈夫?」

「分からないけど、やってみる。

 MPは全快してるし」


 残された剣を見つめ、魔力を込める。

 よし……いけそうだ。


 ビジョン発動!


 いつもどおり、白い光に包まれる。

 ただ、今回は時渉石を使わなかったせいか、日付は現れて来ない。


 しばらくして、坑道内部が写し出された。

 だがそこに写っているのは、剣の周辺を調べる私達。


 何か変だ……。


「あ、逆再生!」


 姿の見えないアーサーが声を上げる。

 そうか。

 再生する時間が指定されていないから、現在から遡っているわけだ。


「なら、2日前の午前中だからもっと前ね」


 意識すると、少しずつ遡るスピードが速くなる。


 地竜と戦う私達(2回目)、眠る地竜、地竜と戦う私達(1回目)、眠る地竜、水晶の塊を食う地竜……。


 そして、遂にレピアの姿が写った。


 丁度来たばかりの、このタイミング!


 映像が停止し、そこから通常再生になる。




 レピアが眠る地竜のもとを訪れ、腰の剣を抜いた。

 しかし、地竜を攻撃する様子はない。


 そのまま剣を地面に刺した。


 ……何をしているんだ?

 レピアが1人呟いた。


「よし」


 そして、突然消えた。

 跡形もなく。


 再生は続いている。


「……消えたね」

「テレポート?

 レピアさんも使えるの?」

「これ以上は何も映らねえか」

「解除するわよ」




 光が収束する。


 直後、強烈な目眩と吐き気を覚える。


 え、何?


 気持ち悪いっ……!

 だめ、吐いちゃう!


「う、おえぇぇ……!」


 バシャバシャと、胃からせり上がった液体が我慢できずに口から出てくる。


 何だろう……お腹痛い。頭痛い。

 視界が霞んで色のないモノクロになる。


「ドロシー?

 ……おい!! 血じゃねえか!!

 どうしたんだ!!?」




 ジャックの声が妙に遠い。


 血? なんのこと……?


 嘔吐が止まらない。




 みんなの前で吐いちゃった……恥ずか……しいな……。

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