第6章 Part 6 再び坑道へ
【500.6】
「さっきガルフォード将軍と話をしてきたんだ。
そこで分かったんだけど、ラザード島へメリールルの龍化で飛んでいくのは、難しそうだよ」
アーサーによると、島の周囲にはかなり強力な魔物が飛び回っているらしい。
私達が氷龍に乗りながら戦うのでは、メリールルも私達も力を十分に発揮できないし、落下のリスクも高い。
つまり、現実的なプランじゃないということだ。
「マジかよ……。
だったらどうするんだ?」
「地下ルートが最も確実らしい。
この町から北レーリア街道に沿って東に行くと、旧王都アイリソニアがある。
この旧王都の地下に、魔物が最初に現れた大洞穴と通じているシェルターがあるらしい。
この大洞穴は、元々ラザード島地下に存在する鍾乳洞の洞穴なんだ。
これを辿っていけば、海底の地下を通ってラザード島の真下まで行けるだろうって」
「また地下か~。
狭くてジメジメしてそうで嫌だなー」
「鍾乳洞はかなり大きく広いらしい。
それこそメリールルが龍化しても問題ないくらいね。
ただ、洞穴内にはソフィア回収で大気中からソフィアを選り分けられた余り、つまり高濃度のウィルが溜まっている可能性が高いんだ。
……要するに、魔物が最も強い場所ってこと」
「洞穴内が広いのであれば、戦わずにやり過ごすことも可能なはずだわ。
できるだけ不要な戦闘は回避しましょう」
「そうだね。
もう1つ、旧王都アイリソニアには、超強力な魔物がいる。
前に少し話した『裁定者』のことさ。
この魔物の脅威は桁外れらしくて、ガルフォード将軍にも絶対に戦うなと念を押されたよ。
撤退戦でも、その後の戦闘でも大勢の兵士が亡くなった。
見つかったらまず勝ち目はないって」
夜になり、拠点での目的も終えたので、戻る前に端末を確認してみた。
すると、メールが1通来ている。
確認すると、ハンターギルドガラム支部の副支部長、ジキリク・カデュラからだった。
送信されたのは今日の午後だ。
〈件 名:至急来られたし 〉
〈送信者:ジキリク・カデュラ 〉
〈突然の連絡、申し訳ございません。 〉
〈このメールを確認いただきましたら、 〉
〈一度ガラム支部を訪ねてほしいのです。〉
〈理由に関しては、ここでは控えさせて 〉
〈いただきますが、大変重要な用件です。〉
〈恐縮ですが、なるべく早くお願いいたし〉
〈ます。 〉
〈 ハンターギルドガラム支部副支部長〉
〈 ジキリク・カデュラ〉
「よく分かんないけど、急ぎっぽいね」
「今日はもう遅いから、明日朝になったら向かいましょう」
翌朝。
客間のふわふわベッドから起きて身支度をする。
軽い朝食を済ませ、すぐにテレポートでガラム帝国へと飛んだ。
「よくいらして下さいました。
さあ、どうぞこちらへ」
ジキリクに出迎えられる。
彼の顔にはかつてのような笑顔はなく、暗い表情をしている。
「実は、昨日の朝以降、お嬢……いえ、レピア支部長の姿が見えないのです」
「……レピアさんが?
一体どうしたんです?」
「昨日の朝、普通にギルドへ出勤し、魔物を狩りに支部を出たきり、帰ってきておりません」
「魔物に負けたってこと?
あの人がそう簡単にやられるかな……」
「どこに行ったか、当てはあるんですか?」
「坑道へ遊びに行くと言っておりました。
いつも魔物討伐は1人で堪能しますから、我々も特に気に止めることなく見送りました。
夕方になっても戻らないので、捜索を始めた次第です。
今朝までは帝都の中を探していました。
たまに酔いつぶれて路上で寝ていることもありますので」
「坑道か……。
レピアの欲求を満たしそうな魔物は?
その辺の雑魚を倒しに行く訳じゃねえんだろ?」
「坑道ですと、有名なユニークターゲットは地竜あたりかと」
「分かりました。
坑道へ探しに行ってみます。
地竜はどの辺りに生息していますか?」
「南門から入って左のルートを道なりに進みますと、道の規模が広くなった部分がしばらく続くようになります。
そこら一帯を縄張りにしておりまして、我々には強敵です。
すみませんが、どうかお願いいたします」
ジキリクから地竜に関する情報を聞いたのち、簡素な地図を受け取り坑道の目的地を目指す。
以前ネステアから帝都へ旅する時に通った経路とは、また別のルートだ。
クロウラーの縄張りだった場所からは、遠く離れている。
坑道に入ってしばらくすると、別の道と交差した。
交差した道は、ジキリクの言っていたとおりに道幅が広く天井が高くなり、明かりの設置間隔が狭くなっている。
どうやらこの辺りはかつてのガラム帝国側の採掘場所であったようだ。
地面には鉱物を外まで運搬するトロッコのレールが引かれているが、その先は大規模な落盤により閉ざされている。
恐らくこのルートが帝国の過去の主要な採掘ルートであり、落盤地帯の先に進めば、別の出口があるのだろう。
奥の暗がりには巨大な水晶の塊が壁から突き出している。
この採掘場所も、水晶を掘り出すためのものらしい。
辺りは静まり返っている。
巨大な魔物の気配はない。
「なあ、この辺だろ?
地竜の縄張りは」
「そのはずなんだけど、姿が見えないね」
「ちょっと待って。
スキャンで辺りを探してみるわ」
自分の位置を中心にスキャンを発動する。
私のスキャンによって得られる情報は、他の3人にも共有される。
最近はその精度も格段に上がり、また探知半径も広くなった。
スキルを使いこなせているってことだろう。
「……!!」
私のスキャンを同期している4人全員が、一度に同じことに気が付いた。
すぐそこにいる。
私達が立っている場所の奥、さっき大きな水晶の生えた壁だと思っていたものが、地竜の背中らしい。
よく見ると固い鱗に覆われた肌だと分かったが、周囲の壁と保護色になっているため見逃していた。
……だとすると、今のスキャンはマズい。
そう思った瞬間、予想どおり地竜がゆっくりと動き始めた。
魔法を使ったため気付かれたのだ。
「起きたのならしょうがない。
回避重視で地竜の動きを観察しよう!」
アーサーの一声で、皆が臨戦態勢をとる。
地竜は前足だけで起き上がり、首をこちらに向けた。
茶褐色の体表には、いくつもの水晶が付着している。
体の一部なのか、体から生えているのかは定かではない。
顔は巨大なトカゲのようで、小さな目がぎょろぎょろと動いている。
私達は自分からは攻撃せず、地竜の様子を見ている。
地竜も私達を認識しているようだが、行動を起こす気配はない。
ジキリクが言うには、縄張りに入った者に突進して攻撃する習性があるらしいが、今のところそんな様子はない。
互いに何もしない膠着状態のまま、1分ほど時間が過ぎた。
どうするの……これ?
「あまり好戦的な魔物じゃないのか?
ユニークターゲットのくせに、そんなに危険性が感じられねーな」
「もういーじゃん。
先に仕掛けようよ」
「そう慌てんな。
ギルドが強敵に指定してんだ。
何かあるはずだ」
やがて地竜は、首だけでなく体全体をこちらに方向転換した。
そして、首を少し縮めたかと思うと、急に口を開いた。
カーーーーン……。
同時に私の魔動盾に何かが当たった大きな音がした。
石か何かを口から飛ばした?
やや遅れて脇腹の辺りに痛みが走る。
見ると出血している。
「うっ――……」
何故? 盾で防御したはず……。
「ドロシー!!」
メリールルが駆け寄り、倒れそうになる私を支える。
魔動盾を見ると、表面が大きくへこみ、へこみの中心に3センチほどの穴が開いている。
「おい! これ貫通してるぞ!!
何を飛ばした!?」
他の3人に怪我はない。
メリールルとアーサーが私の両肩を支え、元来た小さな道まで引き下がる。
ジャックは私の魔動盾を拾い、私達の正面でとりあえず構えるが、これでは攻撃を防げない。
何とか意識を集中しろ。
アイソレートで道を塞ぐんだ。
アイソレートが発動し、音もなく透明な壁が私達と地竜の間を遮断した。
地竜は気付かずに、再度首を縮める。
アーサーが私の負傷部位に治癒魔法をかける。
傷口はパックリと開いているものの、内臓までは達しておらず致命傷にはなっていない。
……ヒュン!!
再び地竜の口から何かが高速で発射された。
今度は見えた。
盾の穴と同じくらいの小さな水晶の欠片を飛ばしている。
水晶は見えない壁で止まり、ポトリと地面に落ちた。
「水晶だ!
多分地竜が操作魔法をかけて、加速して飛ばしてる!」
「そこらに埋まってる水晶や鉱物を腹に溜め込んでるってのか……。
ここまでスピードと貫通力があると厄介だぞ」
「これだけ広ければ、アタシも龍化できるよ!
殴り合ってみようか?」
「そうだな……おい、ドロシー。
メリールルを出すためにアイソレートを一度解除できるか?」
「できるけど……イタタ……もう1回発動するのはMPがギリギリだよ?
何とかなる?」
「解除してもう一度壁を作ったとして、メリールルがタイマン勝負で勝てそうになかったら、撤退用にもう一度解除・発動の必要があるぞ?
厳しくねーか?」
「危険だね……。
よし、一度撤退しよう。
対策を考えて臨んだほうがいい」
「えーー!?」
「今回は討伐が目的じゃない。
情報は収集できたよ。
地竜の寝ていた場所の近く、折れた剣が地面に刺さってたのがスキャンで分かった。
もしかしたらレピアさんの物かもしれない。
いずれにせよ、地竜を倒さずにじっくりと調査するのは難しいよ」
アーサーはスキャンでそんな情報を得ていたのか。
私は地竜に気を取られていて全然気付かなかった。
私達はアイソレートを盾にしつつそのまま後退し、ディエバへと生還した。
「そうですか……剣だけが」
ハンターギルドに戻り、ジキリクから更に手厚い治療を受ける。
その間にアーサー達が状況を説明した。
「それにしても、地竜にそんな攻撃方法があったとは。
私達は皆すぐに攻撃してしまいますから、初めから地竜を怒らせていたのかもしれませんね。
水晶を飛ばす攻撃は、地竜にとっても様子見なのかも……はい、治療が終わりましたぞ」
すっかり傷が塞がっている。
さすがは治癒魔法特化の魔法使い。
「ありがとうございます」
「今日は地竜を倒す方法を考えて準備しよう。
攻略はそれからだね」
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