第4章 Part 8 青色の鍵
【500.5】
その鍵は、銀色の剣先部分に続いて、持ち手部分は細長い円筒形の青い宝石でできている。
拠点内を確認したところ、この鍵は廊下の奥の5つの部屋の1つを解錠する鍵だと判明した。
5つ並んだ部屋の、左から2つ目がそれだ。
扉を注意して見ると、鍵の持ち手部分と全く同じ青色の宝石が鍵穴のすぐ上に嵌められている。
他の4部屋も同様だ。
色は左から緑、青、黄色、紫、赤。
それぞれに対応する色の鍵があるのだろう。
改めて5つの部屋を見渡して気付いた。
5つの部屋と、5人のメンバー。
恐らく、これらの部屋は、5人の個室なんだ。
「じゃあ、開けるよ?」
3人に見守られる中、青色の鍵を扉に差しこみ、時計回りに回す。
カチャン……。
解錠した瞬間、扉の目線あたりの高さに、今までなかった表示が浮かび上がった。
〈ナターシャ・ベルカ〉
やはり。
この部屋はナターシャ・ベルカのもの。
小さな部屋だ。
机と椅子が1組、簡素なベッド。
そして、本棚には難解すぎる専門的な記述に溢れたノートの山。
恐らくネットワークシステム制作過程の研究や実験に関するものだろう。
何とか読めそうなものを見つけた。
彼女の日記のようだ。
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492年6月2日
ファラブス魔導師会が正式に発足した。
メンバーはストレイさん、ダルク・サイファーさん、シーナ、ユノ、それに私。
これからストレイさんの構想を元に、革新的なシステム構築が始まる。
……シーナは、まだあの約束を覚えているのかな?
マリアを治すって、昔は口癖のように言ってたけど。
でも、怖くて聞けなかった。
あの戦争から8年の月日が流れ、私達3人はそれぞれ大きく変わった。
マリアを失った私達が、あの日のように笑って話すことはないのだろう。
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492年7月25日
ストレイさんはやっぱり凄い。
この壮大なプロジェクトに参加できていることに、大きな喜びを感じる。
私は勝手にストレイさんを「師匠」と呼ぶことにした。
あの人こそ、研究者の鏡だ。
システムの概要を決める作業は、順調に進んでいる。
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492年10月11日
システムの初期案がようやく固まった。「ソフィア対流観測システム」。
これで、今までにない地球規模での実証研究ができる。
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493年1月18日
研究拠点をディエバに移し、大規模な施設を作ることができるようになった。
これも、出資をしてくれたマルテルさんと、この場所での研究開発を後押ししてくれたガウスさんのお陰だ。
彼らへの感謝も込めて、システムの機能をもっと拡張し、人々の役に立つものにしようとシーナが意見を言い、会議が行われた。
私は大賛成だ。ユノも賛成している。
だが、ストレイ師匠は難色を示した。
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493年5月4日
何度も会議が行われたが、ストレイ師匠とシーナの間の溝が埋まらない。
ストレイ師匠はシステム全体にかかる負荷の増加と、機能拡張に伴う使用ソフィアの増加を懸念しているが、肝心なその根拠を教えてくれない。
あの人らしくない……。
私は、引き続き特殊魔法の発動システムの構築を続けている。作業は楽しい。
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493年9月27日
各地に配置する端末の試作品が完成した。
実装されているのは情報交換機能のみだが、これで遠隔地とのコミュニケーションが可能だ。
試作品のモニターを兼ねて、今後はそれぞれの研究拠点で独自に開発作業を進め、定期的に情報交換機能で会議をすることが決定した。
ストレイ師匠は、最後まで暗い顔をしていた。
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493年12月1日
これまで長く続いていたストレイ師匠とシーナの確執は解決され、システムの機能拡張の方向性が決まった。
それに伴い、私の仕事も大きく増える。
ここからが正念場だ。
それにしても、この「端末」は凄い。
初期モデルと言っても、基本的な情報交換や大気中のソフィアとウィルの観測、データの蓄積も5地点間で実施できる。
これほどの機能を、一体どうやってこのサイズに?
ユノの設計とサイファーさんの錬晶技術には感動すら覚える。
この機能を全世界に展開するには、これらを統括する中枢装置が必要だ。
現在は管理中枢の開発が進んでいる。
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494年2月2日
プロジェクトの最終的な方針が固まった。
名称をソフィア対流観測システムから、「ネットワークシステム」へと変更し、情報だけでなく物質の転送機能を付加することが決定した。
正に画期的だ。
これがあれば、遠隔地間の物資流通が格段に効率化する。
魔物が出現した現在、これほど便利な機能はない。
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494年2月21日
管理中枢の魔法発動回路の設計がどうしても上手くいかない。
人を介在させずに回路のみで魔法を発動させるには、ネットワークシステムは規模が大きすぎ、そして、機能が複雑すぎる。
当初ストレイ師匠が反対した理由はこれか……。
でも、どうしても物資流通機能は実装したい。
人々の希望になる。何とかならないか。
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494年3月29日
管理中枢の設計に関して、既存の障害を全て克服する方法を思いついた。
人を介在させればいいんだ。
私が管理中枢の一部になり、特殊魔法の制御系を担えばいい。
偉大な技術に犠牲はつきものだ。
ネットワークシステムには、物質流通機能には、それだけの価値がある。
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494年4月9日
例の方法を用いて管理中枢を作成することが、会議で可決された。
ストレイ師匠も、私の熱意と覚悟を理解してくれたようだ。
最終的に、特殊魔法の出力と制御を担うために私、そして私だけでは足りない管理中枢のキャパシティを拡張するためにシーナを、回路の一部とすることが決定した。
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494年4月17日
サイファーさんの錬晶技術をもっとよく見たい。
端末の重要機構があるのは台座の中だが、その中身を、一度開けて見てみたい。
私の設計した魔法の発動回路がどうやって実装されているかも気になる。
そもそも魔法の発動自体は端末で行っているはず。
1つの場所に留めておくことのできないソフィアを、どうやってエネルギー源として保持しているんだろう?
明後日、作業が一段落する。
こっそり分解して、台座の中を見てみよう。
どうせ直すことはできるんだから。
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次のページは、それまでと異なり、書き殴られたような、震えるような文字に変わっている。
……何かあったのか。
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494年4月19日
こんなの聞いてない。
台座の外装を外し、中身を見てみたが……。
このまま計画を進める訳には行かない。
シェレニ村に対する所業は許されるものではない。
師匠はこのことを知っていたんだろうか?
師匠は真っ先に反対するはずなのに。
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日記はここで終わっている。
「おい、どういう事なんだ……?
最後にシェレニ村って……。
なあ、メリールル?」
「アタシだって知らないよ!
でも、聖夜の大虐殺と、ネットワーク計画が、何か関係あるってこと……?」
これだけでは分からない。
他のメンバーの残した記録も見てみる必要がありそうだ。
鍵は一体どこにある?
再びナターシャ・ベルカの部屋の中を探したが、他の鍵は見つからなかった。
その代わり、無機質な文字がしたためられた、1枚の紙を発見した。
内容は……私達にはさっぱり意味不明だった。
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第4次創造記録 1
サードはその機能を果たさなくなった。
システム維持のため、彼らをベースに新たな担い手を創造することにした。
しかし、それには1つ問題が存在する。
サードは進化による自己変革が驚異的に進んだ種だ。
よって、私自身が創ったサードの初期タイプと、私の手を離れ独自に進化した彼らとは、特にその知性において別種と言っていいほど異なる存在となっていた。
つまり問題とは、サードのデータを元に新たな担い手(フォースと呼ぶ)を創る場合、クロニクルに保存されているデータバンクでは古すぎるため、最新の生体情報を入手する必要があるということだ。
そこで私は、データバンクを再構築するための情報収集装置を製造することにした。
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