第4章 Part 5 因果
【500.5】
嫌な感じがする。
平和的にいこう、平和的に。
返事を返したのはアーサーだった。
「僕はアーサーと言います。
まず聞かせて下さい。
あなた達は何者ですか?」
どうやらフードの男がこの中のリーダー格のようだ。
男が問いに答える。
「俺はレイダー・ノーチス。
ここはスラムに堕とされた人間達の溜まり場、最後の社会だ」
「協力と言いましたが、何が望みですか?」
「金だ。お前達、持ってるか?」
「何に使うんです?」
「俺たちは帝都から見捨てられた民。
明日食うものも、ままならない身だ。
このスラムに1つだけでも、端末が欲しい。
端末を買うには300ゴールド要る。
俺たちは必死に集めているが、まだ50ゴールド足りないんだ」
50ゴールド。
「木材5000個」という数字が一瞬頭をよぎる。
大金だ。
だが、丁度クロウラーの討伐報酬を貰っていた私達は、現金を持っている……。
(ドロシー、みんな。
ここは平和的に解決したい。
大金だけど、渡してもいいかな?)
皆がうなずく。
当初の目的を果たす前に、可能な限り問題事は避けたい。
「分かった。寄付させてもらうよ。
受け取ってくれ」
50ゴールドを袋に入れ、レイダーに投げて寄こす。
問題はこの後だ。
すんなり帰してくれれば良いのだが。
「本物だ……!!
50ゴールドある!
オイ! やったぞ!!」
レイダーの言葉に、周囲の男達が沸き立つ。
私達の警戒をよそに、彼らは一転して感謝し始めた。
ありがとう、ありがとう、と。
話を聞くと、彼らの出自は様々であるらしい。
元から貧乏な者、平民区にいたが、問題を起こして居住権を剥奪された者、ヴェーナ崇拝が見つかり追放された者……。
だが、帝都、特に六大貴族への反感は一致している。
彼らに見送られ、スラムを後にした。
アーサーはスラム行きを提案したことをしきりに私達に謝ったが、それはまあしょうがない。
トラブルを起こさずに解放されただけでも良しとしよう。
拠点に戻り、ベッドに倒れ込む。
ブルータウンの時とは違い、この町はあまり長居したいという気持ちは湧かなかった。
何か……今日は疲れた。
翌日、教会のトロンとの約束は午後なので、午前中は自由行動とし、それぞれが町を見てまわった。
私は、ハンターギルドのレピアの元を再び訪れた。
彼女が最後に発した「帝都の中での魔物退治」という言葉が引っかかったためだ。
「おお!! ドロシー!
よく来てくれた!!」
相変わらずレピアは元気だ。
ノーマンやジキリクは討伐に出て行っているようだ。
「ああ、その件か」
帝都の中での魔物退治について尋ねると、彼女は詳しく話してくれた。
「私にはな、人間と人間以外のモノを区別して感じ取る才能がある。
魔物などが近くにいると、何となくだが、その気配を察知できるんだ」
「魔物を察知できる……?
どのくらいの距離ですか?」
「そうだな。
大体半径1キロくらいだろうか。
それでな、あるとき気付いたんだ。
帝都、それも貴族区の中から、何かしらの魔物の気配がする、と」
これだけ防御が固められた都の中で、魔物の気配?
「最初はそんな筈ないと思ってたんだが、ある日仕事で元老院に呼ばれ、元老院のメンバー、つまり貴族の面々が集合する席で、その感覚は確信に変わった。
大会議室に座る元老院の貴族達、その中に、『それ』は居る」
「貴族の中に?
どういうことなんです?」
「ここからはあくまで推測だが、今まで知られていなかった新種の魔物だ。
姿を人に似せ、人に化けることができる個体がいるのかも知れない。
メリールルはその逆だよな。
でも彼女から感じる気配は間違いなく人間だ」
「人に化ける魔物……。
それで、どうするつもりなんですか?」
「当然、魔物なんだから討伐だな。
だから、魔物に関する調査として、帝国軍に対して協力を求め、貴族区の通行許可を申請してるんだ。
だが、これが結構揉めているみたいでな。
彼らも自分たちが疑われているわけだから、気に入らないんだろう。
しかし、被害が出てからでは遅い。
早めに許可が出れば良いんだが」
「その魔物と人間を見分けるのは、レピアさんの感覚だけですか?」
「それは実際に対峙してみないと分からない。
だが、私の感覚は、対象との距離が近ければ近いほど正確になる。
人と間違えることはないよ。
……それだけ、そいつが禍々しい気配を放っているってことだ。
と、いうわけで、許可が下りたら、手伝い頼むよ!?
うちの支部の人間は、通常の討伐業務がある。
私と、君たち4人で討伐に向かおうと思っているんだからね!!」
午後、教会のトロンの元へ向かう。
彼は外にでて、扉の前で私達の来訪を待っていた。
「今日はよろしくお願いします。
これは、皆さんの分の貴族区の通行証です」
やった。
目的のアイテムをゲット。
あとは、アーサーに適当に頑張ってもらい、この通行証をしばらく貸してもらうだけだ。
教会から北に歩き、貴族区と平民区を隔てる城壁の唯一の門、中央門にやってきた。
トロンの先導で門をくぐる。
その先の景色は、平民区とは一線を画していた。
荘厳な建造物、金とクリスタルのきらびやかな装飾、奥にそびえる巨大な宮殿……。
「教会本部はこちらです」
道の幅が大きい。
平民区の倍くらいある。
これが貴族区のメインストリートか。
奥の宮殿まで一直線に道が続いている。
宮殿の前では大勢の人間に護衛され、位の高そうな男が何やら述べている。
「あれが、我らがガラム帝国の皇帝、シガマナル・トワ様ですよ」
あの人が……。
やはりというか、何か凄そうなオーラのようなものを感じる。
平民区の教会と同じ老人の像が置かれた建物の前に来た。
しかし、その豪華さは平民区のそれとは比較にならない。
鮮やかなステンドグラスが、1人の人物をかたどっている。
純白のドレスに身を包んだ青い髪の女性だ。
「このステンドグラスは、始祖たる魔導師シャルナ・マルセス様が、神の啓示を受け、初めて魔法を使った時の光景を描いたものです。
美しいでしょう?」
「きれい……。
この人が魔法を考案したんですか」
「はい。
シャルナ様は多様な魔法を編み出し弟子達に教え、ソフィアとウィルの循環を通した神との対話の重要性を説かれた後に亡くなられた、まさに伝説の御方です」
重厚な扉を通り、建物の中に入る。
巨大な吹き抜けの礼拝堂のほか、研究を行っている部屋や資料庫など、沢山の部屋が並んでいる。
廊下の最も奥に一際豪華な扉があった。
筆頭神務官執務室と書かれている。
「失礼します、トロンです。
昨日申し上げました、アーサー様とそのお仲間の方々をお連れしました」
「入りなさい」
筆頭神務官、つまりソフィア教のトップは、40歳前後の女性だった。
「私がガラム帝国元老院の筆頭神務官を務めます、ダラリア・カスキスです。
よくいらしてくれました。
さあ、お掛けになって」
ふわふわの生地の椅子に座る。
お尻が沈む。
柔らかすぎて逆に居心地が悪い。
「貴方達のことは、昨日トロンから聞きました。
私も是非貴方達と意見を交換したいと思ったのです」
「身に余る光栄、ありがとうございます」
アーサーがそれらしく答える。
「アーサーさん、貴方は女神ヴェーナの存在が本当に神なのかどうか、懐疑的だとおっしゃったそうですね。
とても興味深いです。
もう少し詳しく聞かせて下さらない?」
「はい……」
アーサーが話そうとしたその時、警鐘が鳴った。
「敵襲ーー!! 賊だ!!」
「陛下をお守りしろ!!」
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