第4章 Part 3 ソフィア教会へ

【500.5】


「ただいま~……って、お客さん?」

「お、帰ってきたな!」


 どうやらガラム支部の他のメンバーらしい。

 魔物の活動が活発なだけあって、人数も南レーリア支部より多いようだ。


「おい! マイルズ!!

 ちょっと来てくれ!!」


 最後に入ってきた眼鏡をかけた男をレピアが引き止めた。


「何だ?

 用件なら手短に済ませてくれよ?

 私はシャワーを浴びたいのだ」


 マイルズと呼ばれた男は少し不満そうだが、レピアは気にしない。


「この女の子な!

 メリールルって言うんだけどな!?

 何と! 龍に変身できるんだ!!

 凄くないか!?」


「ッはぅあ!!!

 それは本当か!!」


 マイルズの態度が急に変わる。

 メリールルの元に駆け寄り、いきなり興奮気味に手を握ってきた。


「女!! 私の研究対象になってくれ!!」


 メリールルは思い切り引いている。


「大変貴重な症例なんだ!!

 魔法学と医学の発展のために、私のモノになれ!!」

「ざけんな!!」


 同時にメリールルの拳がマイルズの左頬にヒットする。

 しかし、マイルズは顔面でメリールルの渾身の一撃を受け止め、尚も笑っている。


「早速始めよう! ほら!

 何ならここででも構わん!!」

「これ、マイルズ、落ち着かんか!

 客人に失礼ですぞ!

 まず状況を説明なさい」


 ジキリクが止めてくれた。




 マイルズが言うには、メリールルの症状は過去数例しか発症事例がなく、その中で生きている者は大変貴重なのだという。


 ガラム支部所属のチーフ、グレゴリオ・マイルズは、魔法と医学を修めた魔導医師という職の人間であり、体内のソフィアの流れなどを診察し、特殊な病気を治療した経験のある、結構凄い人なのだそうだ。


「それなら構わねえじゃねえか。

 診察してもらえよ、メリールル」


 ジャックは他人事なので、少し楽しんでいるようだ。

 だが、確かにメリールルの症状は、その原因を含めて分からないことも多く、一度専門家に診てもらった方が良い。

 初対面の時のような暴走も、もしかしたら抑制できるかも。


 話し合いの結果そう結論が出たが、メリールル本人は抵抗を続けている。


「絶対やだ!! 絶対!!」


 メリールルが喚いているうちに、マイルズが何かに気がついた。


「お前、何でフィルターが機能していないんだ?」

「フィルター?」

「お前の体内のソフィアの流れがおかしい。

 フィルターを経由してはいるんだが、これは……」


 どうやらもう既に診察とやらを始めているらしい。

 マイルズの行う診察は、彼の特殊な魔法能力で人体の様々な情報を得る事のようだ。


「え? 何?

 何してんのよ!?

 勝手なことすんな!!」


 暴れるメリールルをなだめる。


「女。お前の神臓はフィルター機能が正常に働いていない。

 フィルターというのは、空気中のエネルギー体、つまりソフィアとウィルの中から、ソフィアのみを選別して吸収する分別機能のことだ。

 普通の人間は、このフィルター機能によって、体内にはソフィアしか入らない。

 だが、お前の体内にはソフィアとウィル、両方が同じくらいの分量入り込んでいる」


 体内に大気中のウィルが入ってきている?


「そ、それが降魔とどう関係があんのさ!?」

「分からん!!

 そして、これは現代の魔法医学ではどうすることもできん!

 恐らく先天的なものだろう。

 俺の診察で分かるのは、ここまでだ!

 それにしても、初めて見た……!

 体内を巡るウィル……!

 ムフフフフ……!!

 素晴らしい……!!

 もうちょっと見ていよう……」


「ふざけんな!!

 気味ワリー笑い方してんじゃねえ!!

 ぶっ殺すぞ!!」


 メリールルは顔を真っ赤にして半泣きで怒っている。




 結局メリールルの症状と降魔との関係はよく分らなかったが、1つだけ解けた疑問がある。

 インジケーターの表示だ。

 メリールルのMPは、最大MPの半分までしかカウントされなかった。


 恐らく神臓のキャパは一杯で、残りはウィルが占めているのだろう。




「ああ、そうだ!

 君たちに1つだけ言っていなかった。

 頼みたいことがあったんだ!!」


 帰り際にレピアが呼び止めた。


「この帝都の中での魔物退治について、本当は君たちに手伝って欲しいんだけど、今はまだ準備が整っていなくてな。

 実は私達も貴族区の通行証の発行待ちなんだ。

 もし手続きが進んで実行段階になったら、是非君たちにも同行して貰いたい。

 その時はメールで連絡するから!!」


 私達は、ハンターギルドを後にした。






 ハンターギルドを出て、改めてこの町の景色をよく眺めてみる。


 とにかく規模が大きい。


 四角く区画整理の整った都で、南半分が平民区、北半分が貴族区に区分けされている。

 そして北側に見える貴族区と平民区を仕切る壁が、かなり遠い。

 平民区だけで、ブルータウンの5倍の広さはあるだろう。

 人通りもかなりの多さだ。


 だが、治安の面では、ブルータウンに遠く及ばない。

 魔物などの外敵の襲撃を知らせる警鐘が、私達が到着してから2回は鳴っており、その度に門を守るため兵隊が詰め所から出動している。


 レピアの話では、城壁の外にスラムが形成されており、魔物だけでなく彼らによる帝都への違法行為も増加しているという。

 最初に門番が外から来た私達を信用しなかったのも、そのような事情のためだろう。




 私達はしばらくこの町の市場をまわった。


 武具屋、魔法道具屋、薬屋……。

 魔法関係の商品を取り扱う店が多い。

 さすがは魔法の生まれた地。


 一通り平民区の状況を見たのち、はじめに通った南門の内側付近、ちょうど人目の少ない場所に空渉石を見つけた。


 もう夕方だ。

 今日は拠点に戻り、明日教会を訪ねることにした。






 拠点で改めて全員のインジケーターを確認すると、皆の最大MPが上昇していることが分かった。


 特に上昇が顕著なのが私。

 インジケーターを最初に装備した頃は150に満たないくらいだったのが、現在は201。

 他の3人も、個人差はあるが全員上昇している。

 現在メリールルが585、アーサーが212、ジャックが339。


 アーサーは、「ソフィアを使用した戦闘などの経験の成果」だと言っていた。


 確かにブルータウンに到着した頃と比べると、最大MPだけでなく、操作魔法の精度や威力も大分強化されている。

 元が弱かったという点で、伸びしろが1番あるのが私なんだろう。

 今後も成長し続ければ、アイソレートなどのMP消費が多い大技も、気にせず撃てるようになるかな……。


 そんな希望を胸に、眠りについた。






 青白い光の柱……。

 また、あの夢だ。




 自分の身体が光に覆われ、溶けてなくなる。




 青白い光の一部となり、世界に広がってゆく。




 やがて光は収まり、静寂が訪れる。

 長い長い、静寂が……。






 今日は教会を訪ねる日だ。

 全員で支度をした後、接続空間からディエバ平民区に飛ぶ。


 ガラム帝国の国教は、ソフィア教。

 そのものズバリな名称だが、魔法を発生させる源であるソフィアに神の意志が込められていると解釈し、崇拝する宗教だ。


 魔法の普及により独立を勝ち取ったこの国に相応しい宗教と言えるだろう。

 国民の殆どはソフィア教徒なのだそうだ。




 教会は、住宅街にほど近い大通りに面して建っていた。

 建物の屋根の上に、長い杖を持った老人の象が設置されている。


 これが彼らの「神」だろうか。


 大扉を開けて中に入ると、丁度礼拝が終了したところのようだ。

 大勢の信者が扉から出てゆく。


「そちらの方々、どうされましたか?」


 教会に勤める人だろう。

 私達に話しかけてきた。




 ここで、どうするか。


 実は、私達は今朝、どうやって彼らを通じて貴族区の通行証を手に入れるか、その方法を話し合った。


 ぶん殴って奪う(メリールル案)

 隙を見て盗む(ジャック案)

 正直に話して交渉する(ドロシー案)


 そして、宗教観について議論を持ちかけ、気に入られる(アーサー案)




 一番平和的であり、成功の可能性が高いであろうアーサー案に決まったのだ。


 当然話をするのはアーサーに任せられた。


 アーサーが話しはじめた。

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