第4章 Part 2 六大貴族

【500.5】


「何だ……!

 あんた達もハンターだったのか!?

 すまん!

 通行証あげるから勘弁してくれ!!」


 レピアが私たちに平謝りする。

 先ほどのヒーラーの老人が、レピアを諫める。


「お嬢。

 だから常日頃から思慮深く動きなさいと……!」

「でも、ずっと賊だと思ってたんだよ!!」

「賊だと思っていたなら、なぜここまで運んだのです!?」

「いや、こいつら見込みあるからウチの支部に入れたいなーって……。

 そしたら、もう南レーリアの支部に所属してるって言うじゃないか」


「お嬢……!

 あなたはお強いんですから、もっと自覚を持って行動なさい!」


 レピアはずっと老人に叱られている。




 最後まで伸びていたジャックの意識が戻った。

 私たちは会議室に案内され、互いの情報共有を図ることにした。


「改めて、私がハンターギルド、ガラム支部の支部長!

 レピア・カヴォートだ! よろしく!!

 あと、私以外も自己紹介が必要だな!

 ジーさん!!」


 さっきまで私たちの治療をしていた老人のことのようだ。


「副支部長を務めております。

 チーフのジキリク・カデュラと申します。

 先程は、我々の長がご無礼を働き、申し訳ございませんでした」


「結果オーライだろう!?

 こうして帝都に入れたんだしな!!」

「お嬢!!

 同胞に大怪我を負わせておいて、反省が足りませんぞ!」


 一応こちらからもフォローは入れておく。


「いえ、支部長さんの仰るとおり結果的に良かったと言うか……。

 あのまま賊として騒ぎが大きくなるよりは良かったです。

 致命傷は避けて頂きましたし」


「ほらな!!

 相手もこう言ってるんだから、そんなに怒るなってジーさん!

 血圧上がるぞ?」

「むむぅ……」


 同席しているもう1人の男が気だるそうに自己紹介した。


「俺は、エルダーのノーマン・ヒンギス」


「おいノーマン!! 元気ないぞ!?

 腹から声出せ!!」


 すかさずレピアが元気と声量を要求した。


「……うるせーな……。

 半分にしろよそのビックリマークの数……」


 ノーマンはブツブツと文句を言っている。


「メリールルでーす!

 てかさ~、レピアさんクッソ強くない!?

 何であんな速く動けんの!?」


 意識が戻ってから、メリールルはずっと興奮している。


「あれはな……地面を凄く蹴るんだ!!」

「そんだけ!? マジかよ~!」

「君も凄い能力を持っているじゃないか!

 私は感動したよ!!

 本当にうちの支部に欲しい!

 私の遊び相手になって欲しい!!」


 2人は気が合うようだ。




 話の収集がつきそうにないので、アーサーが自己紹介を続ける。


「アーサーです。

 よろしくお願いします」


 国家間の関係が良くないので、アーサーが王家の人間であることは伏せている。


「ジャック・フラーレンだ。

 船乗りをやってる」

「ドロシーと申します。

 南レーリア支部の一員で、ビギナーです」


 私の言葉で何故か向こうの3人はピタリと動きを止めた。


「ビギナー?

 お嬢はかなり活きのいい人材だと仰いましたが……」

「ビギナーはないだろ!!

 少なくともエルダー相当の実力はある!!

 君たちのライセンスを見せてくれ!」


 ライセンスを渡すと、3人は魔物の討伐履歴を見始めた。


「シーハンターやウミクイを倒しているのか!!

 て言うか、君ら海路を横断したのか!!!

 ……おい見ろ!

 坑道のクロウラーを倒している!!

 これユニークターゲットだったよな!?」

「本当ですな!

 クロウラーには、ガラム、ネステア両国から賞金がかけられております」

「すげー……!

 俺はまだ無理だなぁ」


 レピアが私に向き直って言った。


「さては君たち、定期的に討伐報告していないだろ!?」

「確かに……。

 ずっと長旅を繰り返していますので」


 私たちは、この町まで来た経緯を大まかに説明した。




「なるほど。それなら仕方ない。

 各地のハンターギルド受付では、所属が異なるメンバーでも討伐報告や報酬の受け取りができる。

 今やってしまおう」


 レピアはそのまま端末とライセンスをリンクさせ、出てきた賞金袋とともに返してくれた。


「これが今まで未受領だった討伐報酬だ。

 あと、ライセンスを良く見てみてくれ!!」


 ライセンスに記された称号が、ビギナーからエルダーに変わっている。

 そして、受け取った金額は、何と120ゴールド93シルバー。

 大金だ。


「その調子なら、次の称号『チーフ』に昇格するのも時間の問題かもな。

 まずは、その賞金でいいアイテムでも買ってくれ!

 ここのショップを使ってもいいぞ!!」




 その後、レピアからガラム帝国の状況について教えてもらった。


 魔物の襲撃が激しく、先月帝都より北にある砂漠の町サグサラが壊滅し、避難民が大勢押し寄せたという。


「審査に通らず、帝都に入れなかった者も少なくないと聞く。

 彼らは身寄りがなく、東門の外のスラムに住むしかない。

 いよいよこの国も混沌としてきたな」


「門の外のスラム……?

 なぜ同じ帝国国民なのに、帝都に入れないんです?」


 アーサーが驚いて訪ねる。


「そりゃ、全員入れたい所だろうが、そんなことをしたらこの町が機能を維持できなくなるからさ!

 良くも悪くも、この国は六大貴族のために存在する国だからな」


 レピアが苦々しく答える。


「六大貴族……?」


 私の疑問にジキリクが説明してくれた。


「六大貴族とは、250年以上昔にガラム帝国建国の原動力となった6つの有力な貴族の家、つまりトワ家、マルセス家、メネラニカ家、カスキス家、モンロゥ家、クラン家のことです。

 建国以来、彼らの血筋は帝国の政治、軍事、信仰に関する権力を握っており、歴代の皇帝も全てこの家々から選出されているのです」


「正直言って、六大貴族は帝都ディエバを自分たちの庭くらいに思ってるよな……。

 民のことなんて二の次なんだよ」


 ノーマンの悪態にレピアも同調する。


「そういうことだ。

 残念ながら我々ハンターは外様扱いだからな。

 政治には口出しできん。

 貴族区への通行証も、許可が出ないくらいだ」


「貴族区?

 貴族が住んでいる場所ですか?」


「そうだ。

 今君たちがいるこの場所は平民区。

 平民階級の人間が生活する区画だ。

 この帝都の北半分は貴族区といって、六大貴族のために存在するエリアなんだ。


 貴族区には皇帝の宮殿があり、元老院――皇帝の指示のもとで様々な政策を決定する機関なんだが――その議会があり、軍の本部があり、そして、六大貴族の巨大な豪邸がある。


 貴族区と平民区も外壁と同じ巨大な壁で仕切られていて、貴族区に入るには、平民区側の北側の門、通称中央門を通る必要がある。

 そこにも通行証が必要になるわけさ。

 貴族区専用のな」


 何だか窮屈な国だな……。

 今はブルータウンの自由と平和がいかに貴重で尊いものであったか、私にも理解できる。

 それを守っているル・マルテルの偉大さも。


「私達がこの町に来た目的の1つが、ファラブス運営本部を訪ねることなんです。

 平民区と貴族区、どちらにあるんですか?」


「ファラブスの運営本部?

 そんなの帝都にあったか、ジーさん?」

「聞いたことはありませんな。

 少なくとも平民区にはそのような建物はございません。

 あるとしたら、貴族区でしょう。

 あの中に何があるか、我々も詳しくは承知しておりませんので」


 ということは、貴族区の通行証を入手するところから始めないといけないのか。


「貴族区か。

 なら、どうにかして貴族と接触しないとな。

 君たちは部外者だから、通常の手続きで貴族区に入るのは厳しいだろう。

 何かいい案ないか、ジーさん!!」

「貴族と接触ですか。

 そうですな……教会はどうでしょう?

 平民区に大きな教会が建っておりますが、あそこは貴族区から神務官が派遣されて管理をしております。

 貴族に会うことは自体は容易にできるでしょう」

「なるほど、教会ですか。

 明日あたり、訪ねてみます」


「聖夜の大虐殺について、何か情報は無い?

 アタシは12年前のあの事件について調べてんだけど」


 メリールルが自分の出身地で起こった事件について質問した。


 聖夜と呼ばれる成人式の日の夜、住民の虐殺が行われ、シェレニ村は地図上から消滅した。

 生き延びた村人はおらず、実行したのはガラム帝国の軍であるとされている。

 細かい経緯や何故シェレニ村が滅ぼされたのか、その理由は明らかになっていない。


「聖夜の大虐殺か……。

 正直私はこの国の出身ではないから、詳しいことは何も知らない。

 ジーさん、何か知らないか?」

「私も噂程度しか。

 シェレニ村の一族は、最大MPが突出して高い者が多く、魔法戦力として大変優秀でした。

 当時戦争準備を進めていた帝国軍の協力要請に対し、シェレニ村の民が戦力の供出を拒んだとの噂が飛び交いましたが、真偽のほどは分かりません。

 あとは、軍を率いたのが、当時の筆頭軍務官――つまり、元老院の中の、軍を指揮するトップですな――その男が直接指揮を執った、と。


 そして皇帝は国の内外からその責任を厳しく問われ、現在のスラムと貴族の確執にも繋がっています」


「その筆頭軍務官だった男は、今どこにいるのさ!?」

「死にました。

 事件の翌朝、首を吊って自殺しているのを元老院の他の職員が見つけた、ということが一時期話題になりましたから」

「……そう。

 情報ありがとね。

 町でも聞いてみるよ」


 最大MPが高いという点はうなずける。

 メリールルも私達の中では一番だ。

 ただし、その半分しか活用できていないのが実情だが。


 その時、扉が開き、数人の男女が入ってきた。

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