付録 『現代三賢者の謎』
※これは作中で登場する文献の抜粋です。
ストーリーには大きくは影響しませんので、特に読む必要はありませんが、世界観をもっとよく知りたい方は読んでも良いかもしれません。
序
世界広しと言えど、賢者とまで呼ばれる偉人は少ない。
ましてや現代においてはこの3人のみであろう。
そう、歴史学者アルマート、魔法科学者ストレイ、そして生物学者シーナ・レオンヒルの3名である。
世間で「現代三賢者」と並び称されるほど有名な彼らであるが、その知名度と業績の認知度に反して、彼ら本人の情報が共通して極端に少ないことは、大変興味深い事実である。
本書では彼ら3人の業績を紹介し、その謎に迫る。
1 歴史学者アルマート
言わずと知れた、『世界歴史書』の著者である。
『世界歴史書』は上下巻から成り、世界暦元年にあたる火神教の発祥から現代に至るまでの人類の歴史が記述されている。
本書が有名になったのは、過去の戦争や災害によって文献が残っていない、所謂「失われた過去」の事実に関しても、詳細に記述されていることが最大の理由である。
この『世界歴史書』は、上巻が出版されてから瞬く間にガラム大陸と北レーリア大陸で反響を呼び、それまで無名であった歴史学者アルマートに世間は注目した。
そして、大きな論争を引き起こした。
『世界歴史書』最大の争点として挙げられるのは、その真偽の程である。
根拠が付されていない失われた過去の記述は学問的見地に立つと信頼性のある資料や文献を元に編集されているとは考えにくく、「史実に近い創作物語」と評価する学者もいれば、現存するあらゆる歴史資料との矛盾が認められない以上は、何かしらの矛盾点が発見されるまでは暫定的な正史として認めるべきだとの肯定意見も存在する。
歴史書の内容が真実ならば、一体どのようにして過去の事実を知り得たのだろうか。
謎は深まるばかりである。
また、アルマートは生まれた場所や年齢、性別、素顔に至るまでことごとく知られていない人物であり、彼がどのような人物なのか、その素性についても興味をそそられる。
2 魔法科学者ストレイ
次に紹介するのが魔法科学者ストレイである。
彼は古くから提唱されてきたエネルギーサイクルに関する理論の証明に成功した。
彼は大気と生物の間をソフィアが循環するというエネルギーサイクルの一連の理論を科学的見地から立証したことによって、それまで検証されていなかった魔法の世界に論理的なメスを入れるというすばらしい功績を残した。
彼はその後も研究を継続し、4年の間に計6本の論文を世に発表した。
彼の人生が再度大きな転機を見せたのは488年。
通算7本目の論文を発表する直前に、ストレイはガラム帝国の皇帝に謁見し、その後帝国への反逆罪で指名手配されると同時に姿を消すというショッキングな出来事を起こした。
論文は発表中止となり、謁見の際の皇帝とのやり取りも明かされること無く、デノシスが帝国内のどこかに隠れ潜んでいるという噂のみが一人歩きする結果となった。
今となっては彼を探す者はいなくなったが、人知れず帝国のどこかで研究を続けているのかもしれない。
3 生物学者シーナ・レオンヒル
人体に眠る長年の謎を解き明かした若き天才生物学者シーナ・レオンヒル。
彼女は人間が誰しも持っている、存在理由や機能が不明であった数種類の臓器について研究し、そのうちの1つの機能を解明、「神臓」と命名した。
彼女の研究によれば、神臓は大気中のソフィアを体内に吸収し、即座に消費されない余剰分を貯蓄する働きをしている。
そしてその機能は人それぞれ個人差があり、ソフィアの貯蓄可能量が、魔法を扱う素質に影響する。
この理論をベースに個人の魔力量を数値化する「インジケーター」が発明されたことは、記憶に新しい。
人が魔法を使うメカニズムの一端を解明した彼女の功績は非常に大きなものであったが、この論文を発表した489年のうちにレオンヒルは突如失踪、消息不明となる。
同じく三賢者の1人であるストレイの後を追うようにして姿を消したことから、世間では様々な憶測が飛び交い話題となった。
彼女は470年、ネステアにて厳格な自然神教徒の家に生まれ、若かりし頃は教会の後継者の道を志していたことが最近の調べで判明している。
彼女は如何にして生物学者となったのだろうか。
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