第2章 Part 3 自由の町
【500.4】
ヴェーナの語り部を出た後向かったのは、行政府の次に大きな建物で私達の目を引いた、「ハンターギルド」だ。
道中メリールルに聞いてみる。
「ハンターって何か知ってる?」
「ハンターってのはねえ、魔物をぶっ倒してお金を貰ってる奴らのことだよ。
いいよな~。楽しそうだよな~」
メリールルはハンターギルドに入りたいらしい。
ハンターギルドの建物は、繁華街のカジノに隣接していた。
建物の壁には「ハンターギルド 南レーリア支部」と書いてある。
扉を開けると受付があり、分厚い眼鏡をかけたローブ姿の女性が座っている。
「よよよようこそ、ハ、ハンターギルドへ。
まま、魔物の討伐依頼でしょうか……?」
声小っさ!
しかも聞き取りづらい!
いま何て?
「興味があったんで、寄ってみただけだよ。
てか、あんたもハンターなわけ?」
メリールルが単刀直入に答える。
すると、奥の机から1人の中年男性が立ち上がり、こちらに歩いてきた。
体は引き締まっており、歴戦の戦士という風貌をしている。
「おや、ようこそいらっしゃいました。
ハンターギルドに興味がおありのようで。
わたくし、ハンターギルド南レーリア支部で支部長をしております、エルビス・クランと申します。
こちらは受付のマイム・マイムです」
「ドロシーです。こっちはメリールル。
ハンターギルドというのは、どのような仕事なんですか?」
「ハンターギルドは、魔物討伐専門の傭兵、いわゆるハンター達により9年ほど前に結成された同職組合です。
北レーリアに本部、ガラム大陸とここ南レーリアに支部を置き、国家や団体、個人からの資金援助により活動しています。
我々の活動理念は「国家防衛で手一杯な正規軍に代わり、民の生活、商売、交易の安全確保のため魔物を討伐する」というものです。
つまり「塀の内側」を守る正規軍と、「塀の外側」を守る我々は、一種の役割分担をしているというわけです」
「ふーん。
ハンターギルドって、ぶっちゃけ儲かるの?」
「ギルドの仕事のみで生計を立てている者もたくさんいますよ。
この支部に常駐している人間、今は2人ほど討伐に出かけていますが、彼らを含めて私達4人もハンター専門です。
しかしどちらかというと、思う存分魔物との戦いを楽しみたい、と思っている者が殆どですね」
その言葉を聞いて、メリールルが明らかに嬉しそうな顔をする。
「ギルドに加入することで得られるメリットも、資金を稼ぐというよりは戦うための準備の方がより充実しています。
例えば、こちらの専門ショップでは戦闘で役立つアイテムや装備などがメンバー限定で安く購入できるほか、ハンターギルドが立入りを制限するギルド管轄地域への立入も許可されます。
勿論、魔物を倒すことで、その魔物にかけられた賞金を受け取ることができますので、利益もありますよ」
なるほど。メリットが大きい。
それに赤字生活から脱出できるかも。
「是非ハンターギルドに加入させてください」
クラン支部長から詳しい説明を受け、私が代表してハンターギルド証を受け取った。
このライセンスはジュエル製で、別名「カウンター」とも呼ばれている。
戦い、討伐した魔物が日付とともに自動的に記録される優れものだ。
倒すとその殆どが蒸発してしまい残骸が残らない魔物の、討伐数をカウントするために考え出された知恵だとか。
これで討伐内容に応じた報酬を貰うことができる。
そして、私はハンターギルド内で通じる称号「ビギナー」を与えられた。
ハンターギルドは称号という緩い階級制が敷かれているようだ。
その1番下、入りたてという意味だそうだ。
実績を上げれば、称号も上がっていくのだろう。
町内を回っているうちに、いつの間にか時間が経っていたらしい。
空はもう夕焼け色で、道行く人も家や酒場を目指し始めている。
「結局フラーレンは見つけらんなかったね~」
「しょうがないよ。
明日も地道に探そう?」
「1日の締めくくりは……当然酒場でしょ?
行くっしょ?」
「お金が……」
「いやいやいや、これ情報収集だから!
情報は酒場に集まる! これキホンだから!
そのついでの飯だから!」
一理ある。
仕方ない、行くか。
良い香りの漂い始めた繁華街で、西門の近くに居を構える酒場「雨宿り」。
中は既に結構な人数が飲み食いをしており、ブルータウンの人口の多さを感じさせる。
メリールルと2人でカウンターに座り、食事を注文した。
「あんたも飲むだろ?」
「え? お酒?
……私はいいかな」
「あそ? じゃアタシは遠慮なく……」
メリールルが何かを注文している。
程なく大きなビールジョッキと、グラスに入った葡萄ジュースが運ばれてきた。
「メシは適当に頼んどいた。
これは酒じゃないから。どう?」
勧められたジュースを一口飲んでみる。
口の中に葡萄の甘酸っぱさと濃厚な香りが広がり、鼻に抜ける。
「何これ、おいしい!!」
「えへへ……」
見ると、私が一口すする間に、メリールルはもうジョッキ1杯を飲み終え、お代わりを注文している。
彼女の身体能力には驚かされるばかりだ。
やがて、食事が運ばれてきた。
肉、肉、魚、肉、スープ、肉、肉……。
「ちょっと! どんだけ頼んだのよ。
情報収集が目的だって……」
「まあまあ、慌てなさんなって。
ちゃんと全部食うから。
今はさ、まだメシ時で忙しいっしょ?
後でここのマスターに話は聞くけど、この時間に話しかけても迷惑なだけ。
逆に今のうちにメッチャ注文して好感度上げてたら、仕事が一段落したときに情報聞きやすいってわけよ」
ダメだ。
メリールルの食事を止められない。
約2時間後。
メリールルの周囲に築かれた空き皿とジョッキの山。
マスターが話しかけてきた。
「よう嬢ちゃん達。
初めて見る顔だ。旅人さんかい?
良い食いっぷりだねえ!」
「ああ。
いくらアタシでも、料理が不味きゃこんなに食わないよ!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。
ブルータウンは良い町だろ?
魔物に蹂躙され、破壊に向かう世界で、最も安全な場所だ。
正に最後の楽園だよ」
メリールルが私に向かって親指を立ててサムアップのサインをした。
「アタシは食うから、後はあんたが上手くやれ」という意味だろう。
機嫌のいいマスターに話しかける。
「この町以外は、そんなに酷いんですか?」
「ああ。
王都アイリソニアが魔物の襲撃に陥落して以来、魔物達の被害は留まるところを知らねえ。
国王は断腸の思いで歴史ある古都を捨て、北レーリアで比較的安定している城塞都市ラスミシアに遷都なさった。
それでも今は王都ラスミシアだって危ねえって噂だ。
他の国も似たり寄ったりらしいぜ」
「この町が最も安全なら、ブルータウンに遷都すれば良かったのでは?」
「そういう訳には行かねえんだ。
この町はエルゼ王国に属してはいるが、自治領だ。
だから「自由の町」って呼ばれてる。
外から来たんなら、門に書かれてたろ?
自由の町って」
ああ、確かに。
「自由の町ってのは、生き方を縛られねえってこと。
生き方って言うのは、つまり宗教のことさ。
この町ではエルゼ王国の国教である火神教を拝む必要はねえし、町の中で宗教を一致させる必要もねえ。
ヴェーナ崇拝だって自由だ。
そもそも、南レーリアは火神教に対して熱心じゃねえ。
心のあり方の自由ってのが、一番大事なんだ。
分かっただろ?
だから、いくら安全とは言え、王様はこの町に遷都はできねえ。
火神教の親玉だからな」
「心のあり方、ですか……」
「そう。
この自由を守るには、受け入れなきゃならない不自由もある。
税とか、兵役とかな。
でも、それらは俺たちにとって最も重要で譲れない自由を、守るためなんだ」
メリールルは、まだ食べている。
こっちの話には興味がないようだ。
「その、自由というのは、どのようにして守られているんですか?」
「一番大きいのは、商人ギルド長のマルテルさんだな。
あの人のお陰でこの町は自立していられる」
「商人ギルドの長が? なぜ?」
「あの人はこの町の実質的な支配者さ。
この世界で生きてくのに必要なものを全て持ってる。
金、力、知識、権力……」
力……。
昨日の筋肉が脳裏に浮かぶ。
「あの……もしかして、ル・マルテルさんって、筋肉ムキムキのお爺ちゃんですか?」
「そうだよ。会ったのかい?」
「人を吹っ飛ばしている所を、偶然見かけまして……」
「ああ、多分それは、端末の利用料金が高過ぎるとか、素材の買い取り価格が安すぎるとか、そういうクレームを力で解決しようとしたユーザーの末路だな。
たまに見る光景だよ」
やっぱりアレだったか……。
ふーー危ない。
値段の交渉はナシだ。
「あの人は元々億万長者で、ネットワーク計画に莫大な資金提供をして、商人ギルド長の地位に就いたんだ。
それから端末契約者に安値での物資納入を約束させ、また一儲けしているらしい。
だが、あの人はこの町の人間に対しては優しいんだ。
マルテルさんが仲間でいてくれれば、こんなに安心なことはねえよ。
あの人に従わねえのは、よそ者だけさ」
確かに……。
「私達は、ジャック・フラーレンという人を探しています。
心当たりはありませんか?」
「ああ、ジャックね。
アイツはなぁ。悪い奴じゃないんだけどな……。
昔はこの店にも外国の珍しい酒とか、仕入れてくれてたんだよ。
ただ、魔物が海に溢れて、船乗りの職を失って以降はなあ。
カジノでなけなしの金を張ってるか、港で自分の船を整備してることが多いかな」
「今日はカジノには来ていないようで、港に入ろうと思ったら、役所に止められてしまいました」
「ま、普通はそうだろうな。
元々の港の関係者でもない限り、今は港には入れねぇよ。
カジノに来るのを待つしかねえんじゃねえか?」
やっぱりそうなるか……。
「ねえ、どうしようメリールル。
目新しい情報、なさそうなんだけど」
「まあ、そればっかりはね~。
しょーがないんじゃね?」
まだ食べている。
「あのう、ちょっと良いですか?」
意気消沈の私に話しかけてきたのは、顔の整った金髪の青年だった。
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