第2章 Part 2 フラーレンを探して
【500.4】
強烈な筋肉を見せつけられた後、私達は今日の情報収集を諦め、拠点に戻った。
端末に届いていた書物を取り、ベッドに沈みながらパラパラとめくってみる。
すると、予想に反して『世界歴史書』が現在の世界の状態を知る上で優秀な資料であることが分かった。
世界の歴史は、その流れから大きく3つの時代に区切ることができる。
一国期、独立戦争期、そして混迷期だ。
一国期は、最初の国家エルゼ王国が、世界の全ての大陸を支配した時期だ。
その後、独立戦争期に東のガラム大陸がガラム帝国として独立、その頃魔法の概念が広く普及した。
異なる宗教を旗印にした二大国間の争いが続く中で、反宗教戦争を掲げたガラム大陸南部が自然神教国ネステアとして帝国から独立。
西のエルゼ王国、東のガラム帝国、そしてその緩衝地帯に自然神教国ネステア、という現在の国家関係が定着した。
現在は混迷期と呼ばれ、水晶鉱脈の奪い合いなど、新たな火種が燻っている。
現在私がいるのがエルゼ王国の南部なので、歴史書によると、かつては凄惨な戦争の最前線だったようだ。
現在は魔物がいるとは言え、平和になったものだよ。
確かにこの資料には魔物の発生やネットワークの普及、女神ヴェーナの降臨など、最近の出来事は記載されていない。
それでも、今に至る経緯を大まかにでも知ることができたのは、思わぬ幸運だ。
そう言えば、もう一冊貰ってたな。
『現代三賢者の謎』。
読んでみたところ、こちらはそんなに興味を惹くものではなかった。
何でも、現代三賢者と呼ばれる歴史学者、魔法科学者、そして生物学者がおり、彼らの出自が不明だったり、失踪扱いになっていたりと、そういう謎だそうだ。
疲れていたせいもあり、読んでいるうちにいつの間にか寝てしまった。
翌日、あの筋肉と戦いたいと言うメリールルを説得した上で、ジャック・フラーレンの捜索をすることに決まった。
まずはカジノに顔を出してみる。
繁華街の一画に大きな店舗を構えるカジノ「黄金城」。
「こんな娯楽施設……。
王都や帝国には無かった」
メリールルが驚き見回しながら呟く。
それだけこの町は他と違って安全で平和だと言うことか。
ジャック・フラーレンの人相を聞いてこなかったので、とりあえず常連そうな人間に声をかけてみる。
「ちょっとすみません。
ジャック・フラーレンという人を探しているのですが、心当たりはありますか?」
「んー?
何だ嬢ちゃん。こんな所で、ママはどうしたの?」
何だコイツ?
私ってそんなに子供なの?
頭を撫でようとしてきたので、一歩後ずさった。
「オイ、連れに気安く触んじゃねーよ。
ブチ殺すぞ」
怖い怖い怖い!
落ち着いてよメリールル!
「あーん!? テメーやんのか?
表へ出ろ!」
喧嘩が始まった。
そしてすぐに終わった。
「すんません! すんません!
ジャック・フラーレンは顔見知りです。
今日は来てませんけど!」
「で? 何処にいそうなんだ?」
「はいっ!
あいつは元々船乗りなんです!
だからここに居ないときは港にいると思います!」
「ほー、港。
フラーレンてのは、どんな奴なんだ?」
「あいつ、一昔前は名の売れた船乗りでした!
海運業を1人でやってたんです!
船乗りはゲンを担ぐから、出航前に軽い賭け事に興じていたみたいです!
海で魔物が悪さするようになって、マトモに出航できなくなっても、その習慣だけが残っちまった……。
今じゃ何でも運を試そうとする変人です!」
「よく知ってんだな。
見た目の特徴は?」
全部やってくれるなあ、メリールル。
「エメラルドブルーのボサボサ髪に、バンダナを巻いてます!」
「よし。許してやろう。
とっとと失せな!」
ひぃぃぃー、と情けない声を出しながら、男は逃げていった。
「ドロシー、港だってさ」
この町の港は、魔物が現れてから閉鎖されてしまったようだ。
現在は行政府、つまり役所が管理しているらしい。
それだけ、海の魔物は格段に強いという。
地域によって魔物の強弱は変わると言うが、海は境界が無い。
強力な魔物達が海流に乗って移動するのだろう。
行政府は繁華街と住宅街のちょうど間、町の中心部に位置していた。
飾り気の無い建物に入り、受付嬢に尋ねる。
「すみません。
港に入りたいのですが」
受付の女性が申し訳なさそうに答える。
「港の利用ですか?
大変申し訳ございません。船舶の運航は行っておりません。
海路は現在、魔物の発生によりハンターギルドが立入を制限するハンターギルド管轄地域に指定されています」
「いや、船を利用したい訳ではなく、ちょっと港を見てみたいなと……」
「一般の方の立入はご遠慮させていただいています。
すみません、規則なものですから……」
「役所らしいな~。
そこを何とかって頼んでんじゃん?
金か?」
メリールルが割って入ってきた。
「うぅ……。
申し訳ありません、規則なんですー」
受付嬢が泣きそうになっている。
可哀想なのでメリールルをなだめて退散する。
当てが外れたので、少し町を見て回ることにした。
繁華街の外れに、民家とさほど変わらない小さな建物がある。
表札の所に「ヴェーナの語り部」と記されている。
「なんだろうこれ。
女神様に関係あるみたい」
「へぇ~。ちょっと入ってみる?」
扉を開ける。
建物の中は壁という壁に貼り紙がしており、大きな机の奥に数人の男女が座っていた。
「ようこそ、ヴェーナの語り部へ」
代表らしき男性が声をかけ、机の手前に2人分の椅子を用意してくれた。
とりあえず座る。
「ここは、女神ヴェーナを崇拝する者たちが集まる場所です」
「教会のようなものですか?」
「正にそうです。
ただし、ヴェーナ崇拝に教祖や代表者はいません。
現世に降臨されし実体を持つ女神、ヴェーナ。
その力により救われた者たちが、自発的に集まり組織したのが、このヴェーナの語り部です。
私はこの町の代表、ビスティ・グラハムといいます。
以後お見知りおきを」
壁に貼ってある紙には、女神ヴェーナが降臨されて行った「奇跡」が記されている。
それだけの人間を救っていると言うことか。
「貴方は、女神ヴェーナにお会いしたことがありますか?」
「はい、一応私も救ってもらった1人です」
「何と!
是非経験したことを教えてください!」
メリールルにも話してあるし、まあいいだろう。
あの日の出来事を、メリールルではなく龍のような魔物ということにして、簡単に説明した。
「それは、どのような輝きでしたか!?」
「その時の貴方の気持ちは!?」
「ほう……なんと……、なんと美しい……!!」
興奮して根掘り葉掘り聞いてきたかと思うと、今度は涙を流し始めた。
忙しいな、この人。
「大変参考になりました。
有り難く頂戴し、飾らせて頂きます。
つきましては、我らがヴェーナの語り部に、貴方も参加しませんか?
女神ヴェーナの御技を、皆に広めるだけで良いのですよ!」
面倒くさいので、やめた。
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