第12話 HUMAN SHOW



『……うん、回線も音声も画質も問題なさそうだね。

 誰かさんのせいで時間ぎりぎりになっちゃったけど、間に合って良かった』


「面目ない……」


 トラオ大先生による最終チェックを受けて、俺は情けなさに眉を下げた。

 ……だってしょうがないじゃん。

 ログインするなり『レジェンドロビーが解放されました』と通知が来て、案内されるままに進行したら死ぬほど好みなキャラクターが登場したんだもの。

 子玉さん推しがあからさまに欲望全開でデザインしたキャラクターだった。

 神はいた。

 俺は死んだ。


『というかやり過ぎじゃない? 

 レジェンドってポイントいくつからなの?』


「さぁ……? 

 なんか気づいたらなってたし」


『ハマってるね』


「自分でも引くほどハマってる」


 喋りながら、限定配信を終了しアーカイブ――配信サイト上に保存され、誰でもアクセス可能な過去の生放送の録画である――を削除する。

 すべて……えぇっと、なんて言うんだったか、左腕に装着された端末を介した操作だ。

 感覚としては、AiDのホロディスプレイを扱っているのとほとんど変わらない。

 便利な時代だ。

 ……時代? 


『そんじゃ、招待送るから』


「あいよー」


 ぴろん。

 腕輪型端末の側面に配置された唯一の4文字、『META』が青白く光を放つ。

 タップ。


『[T1GER_MAN]さんから【iVR WORLD】に招待されました。

  合流しますか?               YES/NO』


『【Journey to the El Drado】と【iVR WORLD】を接続します』


『接続完了。

 小径を生成しました』


 映画やゲームの中でしか見ないような古びた石造りの屋内。

 そこに一本、天井から床まで、縦線が走る。


「わっ」


 効果音はなかった。

 滑らかに、いずこかにつながる扉が開く。

 青黒く渦巻き、先は見えない。 


『おー』


 声をあげたのはトラオもだった。

 直後、白い手が青い回廊から伸びてくる。

 手、だけだ。


「これ、トラオ?」


 おそるおそる、しかし好奇心にかられ、掴んでみる。

 システム様に遮られるようなことは――ない。

 温度の感じられない、すべすべと固いアバターの手。 


『すっご、感触あるんだけど』


 声は、通話アプリ越しのものだ。

 どうやら音声は通さないらしく、二重に聞こえているわけでもない。

 俺はいったん手を離し、親指と人差し指でトラオの指先をつまみ上げる。


「ここは?」


『人差し指』


「こっちは?」


『中指』


「じゃあこれは?」


『くす……いや手首!!』


「理想的な引っかかり方するな、おまえ」


 芸術点が高い。

 笑ってしまえば笑うし、あたりまえに指を触れるのだなと、笑いながらに感服した。

 今更ではあるけれど、今更になってようやく気づくこと自体、凄いことなのだ。


 トラオは機嫌を損ねた様子もなく、爽やかに言う。


『素直が取り柄だからね』


「自分で言うなよ」


『自分のことだから自分で褒めるんだよ』


「……深そう」


『でしょ?』


 そうして、くだらなさにふたり、笑った。








◇◆◇








『あー、あーあーあーあーあー、こんばんはー!

 学校終わりの学生連中、ボクの代わりに宿題やったかーっ? 

 仕事終わりの方々は今日もお仕事お疲れ様! 

 人生終わりかけてるニート共は正座してるか? 

 どうも、Delta所属ストリーマーのトラオです!!』


【わこつ

 わこ

 ようクソガキ、来てやったぞ!

 きちゃあああああああああああああ!!

 {240○}どうもニートです、正座してポテチ食ってます】 


 倍々に視聴者数が増えていく。

 比例して、猛烈な勢いで更新されるコメント欄。

 ちょっと目を離すと総入れ替えされるぐらいだ。

 凄いのは知っていたけれど、想像以上の盛り上がりを見せていた。


『ニート君、ボクに渡す金あったら他に使いなよ! 

 でもいつもありがとね、おかげで良い物食べられてるよ焼き肉とか!!』


 声高に謝辞を述べてから、トラオはぺこりとお辞儀する。

 なんだか不思議な感覚だ。

 トラオの声をした、トラオじゃない誰かが、画面の中で喋っている。


 トラオは、金髪のアバターに身を包んでいた。

 いかにもな西洋風の優男だ。

 青い瞳に人並みの身長、現実と同じなのはせいぜい髪の長さくらいのもの。

 俺も人のことはあんまり言えないけれど、恥ずかしくは無いんだろうか。

 特にトラオはオフラインの大会やイベントで面が割れているのに。

 ……エロガキとしてネットのおもちゃにされていたのはつい一昨日のことだ。


『今日はねー、特別企画ということでゲストをひとり、呼んでます。

 ボクにしては珍しくサムネもちゃんと用意して、予告動画まで作って、むちゃくちゃに気合い入れてるコラボ企画なわけで、す、が!!』


【動画見たよ、編集無駄に凝ってて笑った 

 サムネがある!?

 うおおおおおおおおおおおおお!!

 いったいだれなんだろーなー楽しみだなー】


 こいつら人生楽しそうだな。

 どっちつかずに笑いつつ、なんとはなしに姿勢を正す。

 上着の裾をのばしちゃったりして……ぁっ、そういえばこれ、ゲーム内の衣装だった。


 緊張してるのかな。

 別窓に配置した空っぽのダッシュボードを確認する。

 真っ黒の画面、コメント履歴に紫色の配信開始ボタン。


 笑いの発作は収まっていたのに、顔がほころぶ。

 緊張? 

 とんでもない。

 そんな勿体ないことしていられるものか。


『いやぁ……まさかここまでバレないとは思わなかったよね……』


「いやバレるわけないだろ」


 苦笑し、呟く。

 さも心外そうに振る舞うトラオに、聞こえないと分かっていてもつい声が出た。

 頻繁に遊んでいるとは言っても、こちとら無名の一般人だぞ。


 しかし――


【まさかまさかだなぁ

 あれから半年か

 最高に面白い事件だったね……

 つーか本人、まだ知らないの?】


『たぶんバレてない……はず。

 実質縛りプレイでランカーになる変態だから、アイツ』


 話が、噛み合わないような……? 


【縛りって? 

 上に飛ぶ変態www

 カガっちゃんの動画に映り込んでた件本人何か言ってた?】


『あー……、えっと、ボクの知る限りだとTwitterぜんぜん使わないし、Youtubeのアカウントも企業系の公式しか登録してなかった。

 wikiはいちおう使ってたけど、データ乗ってるとこしか読まないって言ってたかな。

 昨日から色々解禁したんだけど、ボクの動画も見てないみたい』


【攻略系の記事とか動画は見ない感じか

 さすがに嘘でしょ

 生態が完全に地底人

 先月の回で本人がそれっぽいこと言ってたんだよなあ

 地底人が上に飛んだら誰だってビビる、俺なんてちびる

 草www】


 本人? 

 上に飛ぶ変態? 

 コメントの流れも、トラオの語りも、明らかに異常だ。

 俺の認識とまるで違う。

 かけ離れている。


 リスナーの全員が、俺のことを知っているような。

 トラオも、知られているのが当然のように。


 まさか。

 まさか――!? 


 ――アイツ、やりやがったな!? 


 天啓が降りたかのように、理解し、確信する。

 気づいてしまえば、なぜ気づかなかったのか不思議になるぐらい、記憶の中のトラオは示唆に富んだ振る舞いをしていた。

 クラスメイト連中も確実にグルだ。

 思えば、『Pilot2』を所持していることが知られた時の追及も異様に軽かった。


 あいつら、あいつら……!! 


『――さて、前語りもこのぐらいにして、人も集まってきたことだし、ゲストの方をお呼びしましょう!! 

 見晒せリスナー!!

 今宵のミエクローはおまえらを見ているぞ!!!!』


 怒りに打ち震える俺の前に、青く強調された『META』の一語。

 衝動に任せ、ぐりぐりとボタンを押し込んで、青のゲートに飛び込んだ。

 寸前、欠片ほどの理性を総動員し、自分のチャンネルでの配信を開始したのは――はたして良かったのか悪かったのか。


 回廊を抜ける。

 飛ぶように。

 泳ぐように。

 全身の感覚が遠くなって、また戻ってくる。


 その次の瞬間、俺は、実プレイ未遂なぞ比較対象にもならない悪逆無道を為したクソガキの前にいた。


「てめえトラオ!!

 通話の音声配信に乗せてやがったなあ!!!!」


「気づかない方が悪いんだよ馬鹿め!! 

 おかげさまでYoutubeTwitchどっちも無茶苦茶好調に伸びてるよありがとね!!」


「人をネタにして食う飯は美味いか!?」


「超美味しい!!!!」


「ふぁっきゅーっ!!」








◇◆◇








 俺は『伝説の始まり』と名付けられたクリップ――視聴者が生放送の一部を切り抜いた動画だ――を再生した。


『ということで朝活やっていくわけですが、早朝ランクを一緒に回してくれる人がいません。

 ボク友達少ないので』


【ぐすん

 ;_;

 いつもの

 悲しいなあ】


『ということでログインしてるフレのパーティーに潜り込もうと思います。

 ……おっ、ミエクローのヤツやってんじゃん!』


【1秒で矛盾するの止めろ

 知ってた

 ミエクローさんがオンラインなの見てから配信始めたまであるだろ

 ここはカップルチャンネルですか?】


 ここまではまあ、良くあることだ。

 俺がマッチを終えてロビーに戻ってくるとトラオが待っていたり、逆に俺がトラオを待つパターンだって何度もあった。

 それが、俺たちの間で言う遊びの誘いだった。

 ボイスチャットをつなぐかどうかは、トラオが決めることになっていた。

 配信の都合があるから、と。

 俺の音声は乗っからないようにしているという話だったのと、そちらの方が勝てるという理由で、誘われる度ほいほいと繋ぎっぱなしにしていたのだけれど……。


 トラオ曰く、その日はアップデートの関係で設定がリセットされていたのだという。

 寝起きでぼんやりしたままなんとなくで配信を始めたから、そのことに気づくのが遅れたのだと。


 ……なんの言い訳にもなってないからな、それ。

 特に、その後の所業について。


[おはよ

 通話入っとくから]


 いつもの定型文を、トラオがゲーム内のチャット欄に打ち込む。

 ohaぐらいまで打ったところで変換候補が表示されていたから、入力は一瞬の早業だった。

 まあ、1年間、2日に1回くらいのペースで遊んでたしなぁ……。


 ぽろん、入室音。

 この通話アプリは便利な代物で、ユーザーはサーバー上に個室を借りるような形で通話を行うことが出来るのだ。

 どちらかが電話に即応出来ない状況にあっても借りた部屋で待機しておけるし、3人以上での通話も思うがまま。

 その上、基本無料で利用可能なのである。


 数秒後、またぽろん。

 入室したのだ。

 半年前の、何も知らなかった俺が。


『おはよう。

 ……死ぬほど追加課題出されてた癖になんでこんな時間からゲームやってるんですか?』


『あとで答え教えて♪』


『絶対に嫌だ』


【!?

 ヤバくない? 

 ミエクローマジで同級生だったんだな

 声、声!!

 通話の音声配信に入ってますよー!】


「ちなみにこの後頼み直したら手伝ってくれました」


「だってラーメン奢ってくれるって言うから……」


 俺は自分の迂闊さとトラオの悪辣さに溜息を吐く。

 むしろ足りないぐらいだ。


『あっ……』


『どしたん?』


『……いや、なんでもない。

 コメントがちょっとね』


『あー配信してるのな。

 じゃあいつも通りの感じで』


『お願いねー。

 ……一瞬ミュートにするから』


『?

 おけ』


『……面白いからこのまま行こうと思います』


【!?

 ???

 これは紛れもないクソガキ

 さすがにヤバいだろ

 でもいつ気づくかちょっと気になる

 ホントにヤバいところは音消せよな!】


 ……。

 そこでクリップは終わった。

 同時に、俺の配信のコメント欄に貼り付けられる複数のurl。

 どれも同じ形式の――過去に作成されたクリップを表す物だ。


 10を数えたところで、すべてを把握することは諦めた。

 代わりに、隣でへらへら笑っている外道をどつく。


 ……が、iVRシステムを利用したソーシャルアプリに過ぎない【iVR WORLD】の世界ではノックバックなど発生しないし、ダメージの概念も無い。

 薄膜を突き破るようにして、俺の拳はトラオの体を貫通した。


「えっ」


「えっ!?」


「どうなってんのそれ」


「んー……、なんにも感じない。

 虚無だね、虚無。

 ……ほら、こんな感じで貫通したまま動けちゃう」


 ぬるりぬるり、腰を振るトラオ。

 俺の腕が出たり入ったり、質の悪いホラー映画か、あるいは――

 ……俺の方が身長を高く設定していて本当に良かった。

 これで現実のチビさに絶望したトラオが2mの巨漢にでも変身していたら大惨事だ。

 間違いなくアカウントをBANされる。

 RTAじゃないんだから。


 トラオがしゃがむ。

 貫通部位が鳩尾から顔面に移動する。


「うっわきっも」


 あまりにも悍しいビジュアルに、俺は腕を引き抜き逃げ出した。

 ばっちぃばっちぃ、右腕を払う。


「辛辣!!」


 トラオが何やら喚いているが……丁重に取り扱ってもらえるような立場だとでも? 

 睨み付けると腰が引けた様子で後ずさり、上目遣いでえへへと笑う。


 俺は無言で次のurlをクリックした。


「渾身の媚び媚びポーズスルーすんのやめて!?」


「……恥ずかしいならやらなければ良かったのでは?」


 というか、どうせ3Dモデルのアバターなんだし、それこそ全裸になってもなんとも無いだろうに。

 見せパン的な。


【なんだろう、新人の配信を見てるはずなのに実家のような安心感がある

 これだよこれ

 今気づいたんだけどミエクローさんのキャラ出来良くない?自作?

 ごついイケメンの表情がくるくる変わる感じ、良いよね

 やっぱVRって観るコンテンツとしては完成されてるよなあ】


 ふと確認したオーバーレイ表示には、コメントが途切れること無く書き込まれていく。

 トラオに向けられたものではない。

 俺のチャンネルで、俺に向けられた声だ。


 視聴者数、573。

 始まって十数分の新米配信者には過ぎた数字だ。

 ……実感は、まだ湧かない。


 俺は微笑み、動画を再生した。

 【伝統の一戦】と名付けられたそのクリップで、俺とトラオは対峙していた。

 格闘ゲームとパーティーゲームの合の子みたいな対戦ゲーム。


 速い弾と遅い弾と溜められる弾を駆使して遠距離から戦うのが俺で、デカくてごつい亀を操るのがトラオ。

 3機制の10本先取、9対9で迎えた最終戦だ。


 つい先週のことである。

 毎月月末の恒例行事として飯を賭けた勝負をしていたのだが、この時点で俺は6連敗を喫していた。

 対戦相手は同年代の日本一、仕方ないと諦めてしまえれば良かったのだけれど、頭に血が昇った俺は恥も外聞もかなぐり捨てて全力で勝ちに行ったのだ。


 使用キャラクターを変え、対策を練り、ゲームプランを構築した。

 言葉にすれば単純だが、トラオと比べ技術習得に時間がかかる俺からすれば大仕事だ。

 今にして思えば、ここ1週間の気怠さや焦燥はこの後遺症でもあったのかもしれない。


 ともかく、1ヶ月、全力で研究し、どうにかこうにか9対9にまでこぎ着けた。

 最後の3機の奪い合い。

 2人ともあらゆるリソースを戦闘に注ぎ込んでいるから、通話は繋がっているけれど声はない。

 カチャパチカチャパチ、ボタンとスティックが鋭く響く。


「キミ、勝つためならホントなんでもやるよね」


「……どーも」


 ぼそりと、トラオが言った。

 俺は低い声でに応える。


 実際、それは対人ゲーマーに送る褒め言葉としては最高峰のものなのだ。

 似たような言葉には『性格が悪い』、『キショい』などがある。

 ……ろくな人種じゃないな。


 先週の俺は、足場の外に吹っ飛ばされた鈍亀に対し爆弾を雨霰と浴びせかけていた。

 トラオは回避に一手割くしか無くなって、移動経路を制限されて……避けようがなくなったところに回し蹴りが突き刺さる。

 撃破。

 先に1機ずつ交換していたから、これで残りは2対1。


 しかし、その直後、復活した亀のドロップキックがオレンジ色のパワードスーツを吹っ飛ばす。


「これなー……、50は稼いどきたかったよなぁ」


「珍しい当たり方してたけど何かあったの?」


「いや、普通に集中切れてただけ」


「そういうとこあるよね。

 ちょっと余裕できると遊んじゃう感じ」


「癖になってる?」


「なってるね」


 溜息をひとつ。

 悪癖もいいところだ。

 巨大亀は体格そのままに土俵際での粘りが凄まじい。

 3機制でも5機あるように感じられるほどの耐久お化けを相手にして、せっかく有利を築いたのにそのままドブに捨てるようなしょうもないミス。

 ……まあ勝ったんですけどね!!


「第2形態出すの止めてもらっていいですか?」


「えっおまえ持ってないの第2形態、おっくれってるー!!」


「これだから生まれたときからゲームに囲まれてたようなヤツはよお!!」


 追い込まれたことで燃料が再充填されたのか、地上に降り立つなり複数のフェイントを重ねて掴みからの最大コンボを叩き込み。

 一度引いて遠距離戦を展開する……と見せて打ち上げ攻撃から対空・対地の読み合いを強要して。

 崖外に追いやって、復帰阻止の強さを最大限に活用しアドバンテージを広げる。


 完璧な序盤戦を終えて、他のキャラクターであればあと一発重めの技を入れれば撃墜できるほどのダメージを蓄積させて。

 まだまだやれると炎を吹く最重量キャラに、チャージショットを見せて黙らせる。


 そうして都合の良い間合いを作り出し、焦って飛び込んできたところを叩き返したのだ。

 撃破。

 『GAME SET』の文字がデカデカと画面を占領する。


『ッシャオラアアアアアアアアア!!!!』


 ホロディスプレイから俺の絶叫が轟いた。

 あまりの喧しさに、苦々しい笑みが顔に浮かぶ。


 やや遅れて、バァンと机をぶん殴ったような音が響き……そこで動画は終わった。


 なんとも言えない気分で、俺は隣に立つトラオの顔をのぞき込んだ。


「いやあ、熱くなっちゃって」


 トラオは頬を赤らめていた。

 その声には気恥ずかしさこそあれど、怒りや恨みは感じられない。


 ……どのコメント欄を見ても、ネガティブなワードは見つけられなかった。

 GG、ナイスファイト、88888888、ラストホントに理想的、この試合面白すぎて何回も見てる。

 ただただ、健闘を称える声だけが、あった。


 ……終わり良ければ、だなあ。


 どこまで分かってやっていたのか、何も考えずにやらかしただけか。

 どちらにせよ、なにもかもが良いように転がっている。

 つい一昨日までの悩みが馬鹿らしくなってくるぐらいだ。


「そういえばさ……」


 俺は普段より長い髪の毛をくるくるやりつつ、言った。

 功績一つ分、刑を減じてやろうじゃないか。


「まだこんときの焼き肉奢ってもらってないんだけど」


「初動キャリーでまからない? 

 今月厳しいんだよね」


「JOJOで勘弁してやるよ」


「それ一番上だからね!?」


「なんて言ったっけ、もう一個上あるらしいよ」


「そーいう問題じゃ無いから!!」


「来週末とかどう?」


「話聞いてくれません!?」


【#トラオ奢れ

 {10000○}焼き肉代

 こんだけ好き放題しといて奢りの約束まで反故にするのは……ねえ?】

【いいぞもっとやれ

 焼き肉配信希望

 投げ銭できないんだけどバグ???】














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