祭事の補佐 2『祭事とは 2人の補佐官』
『補佐役』をすることが決まってから、数日が経った。だけど、あまり変化はなくて、サファはいつも通り、掃除をして過ごしていた。
エミュリエールに呼び出されたのは、それから3日過ぎた午後のことだった。
「君に、この国の事と、祭事について、ザッと説明しておこうと思ってな」
彼は机に座り、仕事をしていた。
結構ですよ、という言葉をのみこんで、見えないからと、
「まだ、そんな事言っているのか?」
「何も言ってませんが」
エミュリエールの後ろにいた、2人の男が
会話を聞いて笑っていた。
彼らは『補佐官』 名前は確か……
「ハーミット、そっちにお茶を用意してもらえるか?」
「はい。レイモンド、これも一緒に頼む」
「ああ」
そうだ、ハーミット様とレイモンド様だ。
「サファは、もうすぐ終わるから、座っててくれ」
彼の指差した方に顔向けて、サファは頷いた。ソファに腰を掛けると、体が沈み足が浮いた。向かい側に見える窓が白い。その向こうの、寒そうな空に、鳥が飛んでいくのが見えた。
眠い……
ついさっき、昼を食べたばかり。胃に入った食べ物の重みで、眠気が
だめだ……
頑張ってみたものの……サファは人知れず目を閉じていた。
「待たせたな。サファ……眠ってるのか?」
パッと、目を開けた。いつの間にかエミュリエールが目の前に座っている。
サファは、ふるふると首を振った。
あぶなかった……
顔が隠れているお陰で、バレなかったみたい。
手を口にあて、こみ上げる
「君は、ここがなんという国か知ってるか?」
「フェガロフォト、ですか?」
「その通りだ。では、王都であるこの土地の名前は?」
「アクティナです」
知らない人なんて、いるの?
サファは首を傾げた。
「ライルは……これをやる時、それすら知らなかったぞ」
「え?!」
エミュリエールは、思い出したのか、苦笑いを浮かべる。
「まぁ、君はそんな事はなさそうだ」
カップを持ち、エミュリエールはお茶を
ちなみに、ここは、『アクティナ大聖堂』といって、お城や国にまつわる、色々な祭事が行われる場所。
他領と比べたら、大きな造りになっていて、わりと知られている。それくらいの事は知ってるんだけど。
「祭事の事は、どれくらい知ってる?」
「行われる時期と、名前くらいです」
「そうか」
エミュリエールが、カップを置くと、カチャッ、という音が軽く響いた。
2の月(4月)に行われる『
祭事で唯一、トラヴィティス(唄い手)を呼び、唄を捧げるのが特徴的な行事である。
3の
5の月半(11月)
今年の行いの集大と、作物などの実り、収穫祝う『
2日間に渡り行われるものである。
「大まかに言うと、こんな感じだな」
「王族……来るのですか?」
すっかり眠気も覚めて、サファは手の甲を軽くつねって言った。
「どれも、参加するのは平民だが、国王陛下から依頼されている
えぇ、やだなぁ……
サファは眉を寄せた。
たぶん、目の前にいるエミュリエール様や、後ろで仕事をしている2人も、貴族なんだろう。
彼らは、ここで何年も平民に接しているから威圧的にならないようにしてくれている。だけど、普通の貴族は、そういうものじゃない。
それに。普段、孤児は、貴族の前に姿を現してはならないことになっている。それは、孤児を守るためだと、エミュリエール様は言っていた。
『祭事補佐役』というのは、祭事に関わる事で、礼儀作法や、読み書き、人々の事を学び、独り立ちできるようにするためのもの。
そのため、『補佐役』だけは、特別にその期間だけ、貴族に姿を見せることを許されている。必要があれば、話したりもしなくてはけない。
「はぁ……」
思わずため息を
「驚いた、割と
「いやだ、と思うのは仕方ありませんよ」
膝に手を置いて、サファは
「最初はそう思うかも知れない、終わったらきっと違うことを思ってると思うぞ?」
「なぜですか?」
エミュリエールは首を
「君のように、嫌々補佐役になった孤児を見てきたからな。みな、よかったと言って役目を終えていく」
「わたしもそうならいいのですが……」
「まず、1つ目の『祈念式』をやってみたらいい。ハーミット、ちょっと来てくれ」
エミュリエールは、補佐官の1人を呼び、横に立たせた。
「ハーミット=グローバー。役の間、君の指導をしてくれる。読み書き、礼儀作法、他色々質問があったら、彼に聞くといい」
「よろしくね」
ハーミット。彼は、男性にしてはピンクの癖っ毛をしていて、体型もゴツくなく、あまり背も高くない。
穏やかそうな
「よろしくお願いします」
座っていたら失礼かな。
立ちあがろうとして、自分がソファに埋まっていることに気づく。
「はははっ」
ジタバタともがくサファを見て、エミュリエールが腹を押さえて笑った。恥ずかしさで彼女はみるみる赤くなっていく。
「エミュリエール様、可哀想ですよ」
「すまん、つい」
ぅぅ……恥ずかしい……
そう言って、エミュリエールは、サファをソファから救い出した。
「サファ、君の最初の任務は、ハーミットと、唄姫のところへ行き、祈念式の依頼をしてくる事だ」
「……あの」
まだ赤くなったままの顔で、エミュリエール様を見あげる。
「システィーナ様、ですか?」
「そうだ。彼女はここ毎年やっているし、そんな大変な事じゃない」
エミュリエールが、ポンポン、とサファの頭を叩く。
「私のような孤児が行っても、大丈夫なのです?」
「ハーミットの付き添いとしてだからな、心配は無いだろう」
ホントかな。
視線を落とすと、彼の飲みかけのお茶が目に入った。
確かに、エミュリエール様からしたら、毎年の頼んでいる相手だし、そう思っても当たり前かもしれない。それに、そういう依頼って、補佐役がやってるものなのかな?
エナの時も、ライルの時も、そんな事は聞いたことがなかった。
エミュリエール様が不思議そうに見ている。
「貴族に会いにいく。それなら、身なりや、礼儀作法も整えなくてはな」
だけど、その顔は、今まで我慢してた事が吹っ切れたかのように、嬉しそうな表情に変わった。
次の日から、サファはそれらを身につけるための練習が始まる。
祭事にを手伝うのも、何かを依頼しにいくのも別にいい。礼儀作法を覚えるのだって嫌じゃない。
けど……身なりだけは。
サファは、この事を考えると、とても不安で仕方なかった。
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