父を殺した少年(35)の話

シノザキコウヘイ

第1話 事件当日

2020年4月14日、大阪某所にて殺人事件が起こった。

犯人は35歳の少年。

彼は実の父親を包丁で刺して殺した。


「ちょっと待て、35歳で少年っておかしくないか?」とツッコミが入るかもしれないが、彼はまごうことなく少年であった。

まあそれについては追々説明するとしよう。


彼はその日の夕食を父の家で食べていた。

事件が起こったのは食事を終えた後のこと。

食器を下げた彼はそのままキッチンにあった包丁をスッと手に取り、無言で隣に立つ父の胸にそれを突き刺した。

そこには何の気配も感情もなかった。

刺された父は(えっ、何してるんコイツ?)みたいな顔で少年を見たが、言葉を発する余力は残っていなかった。

そのままバタリと倒れた父を少年は念のため何度か包丁で刺し、ゆっくりと息を引き取るのを待った。

刺した父の顔を彼はタオルで覆った。

醜く苦しむ顔を見たくなかったのだ。

ただ、最後にチラッと見えた父の顔には苦痛というより困惑が強く表れていた。


念のためそのまま10分待ち、父の呼吸の気配が完全に消えてから彼は自分のスマートフォンを取り出し、自ら110番に通報をした。

「あ、すいません、警察ですか?今父を刺し殺しました。・・・ええ、実の父です。住所は・・・」

あたかも職場に仕事の報告をするように、彼は事務的に通報を終えた。

その声はむしろ明るい声に聞こえた。


全てが終わると彼はその場に座り込んだ。

「流石に疲れた・・・」

そう独り言を言うと、突然思い出したかのように彼は自分のスマホを壁に投げつけた。

その時になって彼の身体はブルブルと震え始めた。

大変なことをしてしまった、という自覚が彼を襲ったのだ。


「全部・・・全部コイツが悪いんだ・・・」

呟いて、彼はゆっくりと首を垂れた。

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父を殺した少年(35)の話 シノザキコウヘイ @kimaira_bd

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