第14話 イノリ

 話の冒頭ではありますが、父についてお話させてください。

 かつての父は才色兼備だったそうです。

 学生時代はモテモテで、頭脳も良かったそうなのです。

 成人になってからは、私の母と結婚して長年の年月を懸けて母と親密を深くして、私を産んだそうです。

 私は、そんな父が好きではありません。

 その理由の一つとして、父は私を見てくれないのです。

 父はずっと、私ではなく私と顔のよく似た母を見るのです。

 誰も信じない話なのですが、父が私を見なくなったのは中学生になって、初めて生理というものが私にきた時でした。

 父は私のその報せに喜んで、抱締めてくれました。

 中々父からスキンシップをされる事がなかったので、その時は私も嬉しくて、嬉しくて。涙が出たんです。

 父は泣いてしまった私の涙を掬うと愛おしそうに私の唇にキスをしました。

 とても、とても驚きました。

 何が何だか分らなくて、でも私は父からキスなんてされた事がなかったので、少し不思議な気持ちでいました。

 でも唇を舐められた時に、その感触の気持ち悪さに私の思春期が発動しました。

 嫌がって体を押すと父は怒って私の肩を痛い程捕まえてより一層キスを深くしました。

 その時をもって、私は父の事が嫌いになりました。

 信じられない話ですよね。でも、起きてしまったんです。

 父は私を母として扱い、セクハラ行為を毎晩行うのです。

 性的虐待として扱われる事を沢山されました。

 痛いと泣いたら、痛くないよと優しく撫でられます。

 助けてと叫んだら、怒って胸を叩きます。

 キモチイイと嘘を吐けば、笑って抱締めてくれます。

 父の手の動きを阻止しようと掴めば、手首にキスをされます。

 私は、愛されていないことを沢山思い知らされました。

 何故母は私を置いて出ていったのか、今なら分ります。

 こんなにも、ケダモノな父から産まれた私はさぞかし母にとってお荷物だったのでしょう。

 高校の進路は父から離れた生活をしようと企てましたが、全部父はお見通しで、私の引越し先もバイト先も把握されて、強制的に実家に帰って来させてまた私にセクハラ行為をします。

 何をしたら、父から逃れるか考えました。

 父を殺したら私は救われます。

 ですがそのリスクとして父親殺しのレッテルと、淫行娘としてゲスに捕まって、同じ事を繰り返されるのを酷にも深夜のドラマで見てしまいました。

 なので、私は自殺を考えました。

 お風呂場でひっそりと。

 父は何故かお風呂場まで侵入しませんでした。

 静かに息を殺してシャワーの音を響かせて。

 お湯を張った浴槽の中で、剃刀を持って、沈没する。

 痛くない。

 こんな痛みは父から与えられる痛みよりもマシだ。

 痛くなんかない。

 苦しいだけ。

 大丈夫、あともう少しで、私は自由なの。

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