幼馴染

第11話 ミユキ

 冬は辛抱、夫にも辛抱。

 そう言われて生きた。

 だがこの四十七歳になってからは、その辛抱も耐えれなくなった。

 夫と出会い、娘を授かり都会に巣立たせた。

 あとはもう夫と二人で過ごすのかと思っていた。

 夫は都会に魅せられて会社を大きくした。

 それから夫はおかしくなった。

 細かった身体も酒と脂で大きくさせた。

 冴えない顔もふくよかになり、照り輝かせた。

 そして夫は単身赴任になった。

 娘のユキは毎年十回は顔を見せに来てくれるが、夫はそれをしなくなった。

 ちゃんと生活費、食費、ローン、年金も払えるだけのお小遣いはもらっているので寂しい思いはせど辛抱した。

 夫は私が四十路になった時に命を絶った。

 娘から、夫はスキャンダルの被害によって自害したと聞かされた。

 夫が居たから、耐えられたものは沢山ある。

 それがなくなって耐える所まで耐えたなと、私は思っている。

 冬の寒さと共に、深い所まで落ちて死にたいと思ったら、最期に会いたくなる人が増えてくる。

「今日飲み会しない?」

 二日後にがすぐ集まった私の最期に会いたい人達とグラスを鳴らした。

 とても楽しかった。

 お酒も入って、皆で笑って少し涙を流して三時間が過ぎた。

「そう言えばさ、ミユキの旦那殺されたんだっけ?」

「チョット…!」

 右側から聞こえたそんな言葉に酔いが醒めた。

「え…?それ、なに?」

 食いついたら私はその話題を離さないから。加川さんが続きを話してくれた。

「言いたくないけどさ、ミユキの旦那殺されたんだよね」

「違うよ自殺だよ」

「えぇ?自殺?殺されたんだって聞いたよ?」

 突如舞い降りた夫の他殺疑惑。

 その場が凍りついたが、私の心は燃えていた。

 夫の死の真相を追及して、相手が生存していたら殺して死ぬ。

 死んでいたら私が死ぬ。

 私の最後の辛抱を貫く時が来たのだ。








「いらっしゃい」

「おじゃましまーす」

 家に招いたのは幼馴染のフユカ。

「今日は何で呼んだの?」

「昨日のこと」

 フユカは目を見開く。

「大雅の事?」

「うん。 追及したいの」

「してどうするの?仮に他殺だって証明されたとして、誰か知ってどうするつもりなの?」

 本気で心配している。

「その人を殺して、私も死ぬ」

「……ミユキ」

「フユカにはその犯人捜しを手伝ってほしいの」

 フユカは暫く黙ると分ったと小さく呟いてくれた。

「ありがとう」

 フユカは深呼吸をしてから、私に夫の他殺疑惑について話し始めた。

「最初、ミユキは誰から大雅が死んだか聞いたんだっけ?」

「電話で……娘のユキから」

「私の考えなんだけどね。ユキちゃんは、誰かからその自殺情報を聞かされて伝わったんだと思う。そして、その自殺情報を知った人が、大雅の死に関与していると、…思う」

「そう……なんだ。それじゃあ、それを基に捜してみる」

「うん…あと他には、大雅が死ぬ前に会っていた誰かが、その死に関与していたり………とかさ」

「成程ね……。フユカは冴えているね」

「ねぇ。その人も殺して自分も死のうなんて…考え直して。ユキちゃんだってとても悲しむし、私だって、嫌よ。今まで一緒に居た幼馴染が死のうとしてるのに止められないなんて」

「…………」

「わ、私が言えた義理はなくてもさ、やっぱりこんな事してほしくないよ。ミユキ…」

「私はやるったら、やるの。それに、ユキはもう成人よ?東京の銀行員として頑張っている。私が居なくても辛抱強いあの子ならやっていけるわ」

「ミユキ………」

「それじゃあ、この話は皆には秘密ね」

「………うん」

 その後は何事もなくフユカと世間話をして三十分で帰ってもらった。


「もしもし、ユキ?久し振りね。どう?元気?ご飯はちゃんと食べてる?

ふふ、そうか。うんうん……うん。大変だったね。…………あのね、今日はねユキに訊きたいことがあるんだけどいい?」

















 寒い山の麓。雪で踏みしめる未開の道で私は犯人を待つ。

 あれから頑張って探って、訊いて、考えて、鬼になって、決行するまでに至る。

 犯人は、必ず来る。私はそう信じているから。

「そんなとこに居たら危ないよ!早く、家に戻ろう」

 私は犯人の好意を裏切ったのだ。

「……ミユキ?」

 犯人の顔をしっかりと見た上で、私は言った。

「…貴女なんでしょ?私の夫を殺したのは」

「…そうだよ」

 本当はそんな言葉聞きたくなかったが、彼女はすんなりと答えた。

 酷いね。貴女も私も。

「ごめんね」

 悲しい気持ちと、殺意で隠した怒りで咎めようとしたが、彼女は山麓だというのに、すぐ傍は崖なのにも関わらず、そっちへ跳んだ。

「!?」

 その突飛な行動に吃驚したが、私も彼女には死んでほしくはないので、腕を掴んで、落ちる寸前で留まった。

 雪の冷たさに耐えながら、彼女に声を掛けた。

「何をしているの?!」

「ミユキに殺されるくらいなら!自分で死んだ方がマシよ!」

「嫌!離さない!大雅の次がフユカが死ぬなんて嫌よ!フユカが大雅を殺したって言ったとしても、絶対…!殺さないから、フユカっ」

「ミユキ…!手離して!ミユキも巻き込んで死んじゃう!」

「なら、生きて!私に、全部話して!」

「…ミユキ!早く手を!」

















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