友人
第5話 マキナ
「立花さぁん。こんばんはー」
「こんばんはマキちゃん。今日もよろしくね」
「はぁいー」
堕落した末路ってきっと、こんななんだって思う。
あの頃は良かった。ギャルとか、JKとかいう肩書を掲げて友達と往来するあの日々がとても楽しかった。
心地が良かった。
神様は、幸せな思いを過ごした私に呆れてこんな風にさせたんだ。
笑っていた友達も、この歳になればすぐにギャルを止めて会社員になった。私はずっと、ギャルを捨てられないままこの堕落した人生を過ごして生きている。
「いらっしゃいませぇー」
「やあ!マキちゃぁん。今日はウチの秘書も連れて来てしまったよ」
「きゃーマキ嬉しい!よろしくね秘書ちゃん」
「……お久しぶりです」
「?」
こんな綺麗な友達いたっけ?
小学生の頃の友達?だっけ?
あれ?忘れちゃった。
「おや、知り合いかい?」
「え?あー……」
「すみません。私の勘違いだったようです」
すみません。と頭を下げる女性は特に悲しむ様子もなく、ニッコリと笑う。ヤッバ。私、ヤバいんじゃない?
「お久しぶりです。マキナ」
「え?」
やっぱり、私記憶力なくなってる。
誰だっけ、この人。
「ユミだよ。忘れちゃった?マキナ」
「うん……ゴメン」
社長さんを放っておいて、この秘書ちゃん、ユミは私に声を掛けてきた。
「いいよ。仕方ないよ何年も経ってるんだから」
「そうだね」
「ね、久しぶりに会えたんだから連絡先交換しようよ。それと、お茶しに行かない?久しぶりにいっぱい遊びたいんだ」
「うん!いいよ」
ユミに関する記憶はもう忘れているのに、他人って感じがしなかった。
やっぱり、彼女も友達だったって実感しちゃう。
「決まり。ごめんね休憩中に」
「ううん。言ってくれて、ありがとう」
今日はとてもハッピーデイだ。
久しぶりの友達に会えたし、連絡先も交換した。おまけに近いうちにお茶して、遊ぶことが決まった。
もしかして、これって神様がくれたご褒美なの?
ねえそうなの?そういうこと?
なんだぁ。
それなら早く欲しかったよ。
でもいいや。
楽しみだ。
「社長、そろそろ時間です」
「ぉおん?………そうかぁ。では、私たちはこれで」
「ありがとうございましたぁー!」
本当に楽しみ。
友達と遊ぶってこんなに楽しいんだって、今まで忘れていた。
カフェでお茶して、タピオカミルクティーを飲んで、アップルパイを食べて、UFOキャッチャーをして、カラオケをして、なんでこんなに楽しいものをここ最近やってこなかったんだろう。
やっぱり、忙しい友達を気遣っていたからかも。
少し強引に誘ってでも、楽しみたいかも。
とても楽しい。とっても楽しい。
楽しい!
楽しい!
楽しい!!
「はぁ……疲れたね」
「そう?まだまだ楽しみたいよ!ねぇ、もいっかいカラオケしない?」
「それよりも、お仕事は良いの?」
「ヘーキ!休みもらったからっ」
「そうなんだ。ならさ、ホテル行かない?」
「え?ラブホ?」
「違うよばか」
「ビジネスホテル。一度そこで休んで、また深夜遊ぼうよ」
「そうだねっ!」
ホテルに行ったってつまんないと思ってたけど、ユミと一緒に綺麗な白いベッドに横になって、お店の愚痴や最近の悩みを聞いてもらったら、私何だか、何でもユミに話しちゃって、何だか、眠くなった。
疲れたんだろうな。女の子二人同士で寝るなんて、初めて。
「ふわぁ………?」
朝の日差しはとても目覚めが良かった。良い朝だ。
何年振りかの良い朝。
「……ユミ?」
だけど、ユミは居なかった。テーブルに小さなメモがあって、先に仕事へ行くという内容だった。
そりゃあ、朝からせかせか働く人間なんだから仕方ないか。
けど、現実ってのを感じさせられて、少し寂しかった。
また、遊びたいな。
「立花さぁん。こんばんはー」
「あ。マキちゃん………」
今日から堕落した生活に逆戻り。あーあ。パッとしないな。
「これ、どういうことかな?」
「え?」
店長からもらった一冊のスキャンダル雑誌。
何なのか分らなくて固まった。
「この記事の中に、君によく似た女の子と大企業の社長が寝たってのがあるんだけどね。マキちゃんに似てるんだよね」
「え……………」
雑誌の中身を見る。パラパラ捲った中に、私がいた。汚い顔のオッサンと寝てる私の姿、しかも、裸なんて。
「店長、違いますコレ」
「でもさ、コレはマズいよ。暫くさ、ウチに来ないでくれるかな」
「違います……」
「違うんだろうけど、店側としてはね、そういう記事出た時点でマキちゃんの事匿いきれないんだよね。だからさ、ね?」
間接的なクビを言い渡された。
私はその日のうちに店を辞めた。
何で、こんな事になるの……?ユミ。
そうだ、ユミなら、たすけてくれるハズ。
ユミ、たすけて。
私のこと、友達なんだよね?
ユミ、たすけてよ。どうして出てくれないの………?
「はぁ…あー。あ……」
全人類に見放された。
そんなスゴい体験をして一年が経ちました。
貯金したお金も消えて、私は死のうと思います。
その前に、私の事を助けてくれなかったユミに会いたいな。
電話、出てくれるかな。
「…………………」
『もしもし、マキナ?』
出た。
「久し振り。…ねぇ。今、話したいんだけどさ、中学校のさ、近くの川でさ、話さない?」
『いいよ』
何で、こんなすぐいいよと言ってくれるのかな。
すぐに電話は切れるのに。
今って、夕方なのに、ユミはお仕事終わったのかな。
「……行かなきゃ」
寒いな。ジャージ一枚でもやっぱ、あれか。
風が寒いと寒いんだな。
当たり前か。
「ユミ…………」
先にその場所にユミはいた。
笑ってる。
「ざまぁみろ。夢川マキナ」
「………」
「今まで私の事は忘れてのうのうと生きた生活は楽しかった?私は、アナタの所為で毎日毎日!苦痛な生活で嫌だった」
あー。そういうこと。
全部、私に、復讐する為に、友達のフリしてたんだ。
クソ女。
許さないわ。
殺してやる。全部お前の所為だ。
「沈めてやる」
体育の柔道の成績良かったのはどうしてだと思ってた。
それは私の運動神経が良かった訳ではない。
全部、ユミにぶつける為だったんだ。
ユミ、思い出した。
お前はアイツだ。
気に食わなかった身体の小さいあざとい女。
「死ねぇぇ!」
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