第9話 * 水無月蒼斗は曖昧に笑う
僕と葵と楓は三階の二年一組へ。胡蝶は隣の二年二組へ。カンナは一応二階で分かれる。というのも、カンナは気紛れに一人屋上へ向かうことも少なくないからだ。今日は大人しく二階の教室に入るのを見届けた。
僕の席は窓際の後ろから二番めだった。席に着き、友達との他愛のない談笑もそこそこに物思いにふける。相談するべきか迷ったけれど、これは結局のところ僕自身の問題だ。放課後までに、誰を選ぶか僕が決めなくてはならない。
誰かを選ぶということは、誰かを選ばないということだ。誰かの期待に応えるということは、誰かの期待を裏切るということだ。そして誰も選ばないということは、誰もを傷つけ続けるということだ。
大切な誰かを傷つけるなんて、そんなカッコ悪い真似したくない。でも、誰かは傷つけなければならない。
ホストみたいだと茶化されるこの名前にも意味がある。
蒼斗の蒼はサファイアの蒼。サファイアの意味は〈誠実〉、斗は〈大きな器〉。誠実というのは、私利私欲を交えず真心をもって人や物事に対すること。現状の僕は名付けてくれた両親に申し訳が立たない。
僕だって本当は、名前に恥じないような誠実な人間で在りたい。
じゃないと、あの人も報われない。今の僕のこんな在り方をあの人はどう思うだろう。あの人は幻滅するだろうか。
アスターはいった。
いかなる望みも叶えてみせる、と。
でも、どうやって?
頭の片隅で、僕には及びもつかないカッコよくて誠実な答えを出してくれる可能性に縋ってしまいたくなる。
そんな風に悩んでいたら、あっという間に放課後だった。約束の時間が来てしまった。すべての授業が終わり、清掃の時間が過ぎ、ホームルームも終わって人も
遠く眩い黄金色から目を逸らした。降り出した五月雨に揺れる
瞬間、僕の世界から光が消えた。放課後を告げる荘厳な鈴とアスターの声が黄昏時を彩る。
こうやって。
とでも言わんばかりに。
僕の望みに答えを出した。
「さっそくですが皆さんには殺し合いをして頂きまーすっ!」
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