モノクローム14
高槻は、後悔と罪悪感に苛まれていた。
不意に繋がれた竜平の温かい手を、なぜあんなふうに振り払ってしまったのだろう。
抑えきれない竜平への思いを、何とか誤魔化そうとしていた自分。
それでも竜平と一緒にいることで浮き足立ってしまう自分。
竜平は駄目なのだと、そう心に思い込ませていた真っ最中の出来事だった。
咄嗟に、これはいけないと、そう感じた。
この手を繋いでしまったら、いろんなものが崩れ落ちてしまいそうで。
竜平を守りたいと、ただそう思っていただけなのに。
隣で竜平は俯き、震える両手を握りしめている。
悲しませるつもりなんてなかった。
こんなふうに、傷つけてしまうとは思わなかった。
どんな思いで、竜平が自分と手を繋ごうとしたのかはわからない。
ただ、幼い子が父親の手を求めるような、そんな思いかもしれない。
手ぐらい繋いでやれば良かったのではないか。
そう後悔する。
自分さえ我慢すれば、それでよかったはずなのに。
あんなふうに、冷たく振り払う必要なんてない。
(違う。あれは、俺を守るためだ)
竜平を守るためだなんて、ただの詭弁だ。
本当に守りたかったのは、高槻自身。
こうして突き放してしまわなければ、無防備に近付いてくる竜平を牽制しなければ、自分に歯止めがきかなくなってしまう。
それを、恐れたのだ。
自分の弱い心が、竜平にあんな顔をさせている。
そんな罪悪感でいっぱいだった。
けれど、わかっていても、その手を繋ぎ直してやることも出来なければ、竜平の悲しみをやわらげるようなことも言ってやれない。
十以上も年下の子供に辛い思いをさせなければ、自分の心もコンロトール出来ない不甲斐無さが、あまりにも情けない。
(俺は、酷い奴だ)
心の中で何度も詫びる。
口にしなければ何の意味もないとわかっていながら。
口にすれば、全てが溢れてしまうから。
ふたりは黙って歩き続けた。
それぞれに思いを秘めながら。
目的地に到着する頃、先に気持ちの整理を付けたのは竜平の方だった。
「どれにしよっかなー」
店内に入ったのをきっかけに、竜平はいつものように元気いっぱいの姿に戻る。
気まずい雰囲気を打破しようと無理にテンションを上げているのは明らかだったが。
この上、竜平に気まで使わせてしまうのか。
ほとほと自分に呆れ返る。
これでは、どちらが大人なのかわからない。
大きく深呼吸をひとつして、竜平のテンションにありがたく乗っかることにする。
「今が種蒔き時期なのは、ここらへんだな」
「うん」
高槻の一言で、竜平の顔がパッと輝く。
自分の些細な言葉に、何気ない態度に、こんなにも一喜一憂する竜平が愛しくて仕方がない。
抱き締めたくなる衝動を抑え、目の前の竜平と同じように、種選びに専念する。
(そうだ、仮面をかぶるのは得意だったじゃないか)
四年間、心を隠してきたのと同じように、この思いにもそっと仮面をかぶせておけば良い。
そうしなければ、いけないのだ。
竜平の笑顔を絶やさないために。
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