祖父の死んだあとのこと

扉の向こうの1000℃

白い箱に乗せられて

台車がガラガラ牽かれゆく


最後です、と人の言う

とっくに最期は過ぎてたのだろ

いかにも実用的な鉄の扉が

天国の門とは恐れ入った


あなたと私の50と数年

スイッチ1つで済むのだぜ


あなたの形をしたものが

焚かれる間の30分は

長閑な午後の木漏れ日を 眺め飽いておりました


肉の焼ける臭いのしない

清潔な廊下で

あなたの骨を拾う作法ばかりを

思い出そうとしておりました


この重荷を下ろすには

もう少し掛かりそうでございます

あなたの肺の焼けるが如くに

私の肺が痛むのです


知らぬ間に小さくかよわき祖母の背中に

人知れず声を宛てていた冬の日

その眼がこちらに向かぬことが

つまり

その50と幾ばくかの

本当を知るまでに少なくとも僕は

あと60年、必要らしい



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