プレドニンの行方③
(くそっ!いいペースだったのに!)
松田は二階医務室へ向かうエレベーター内で舌打ちした。
勿論松田にそのつもりはないが、これは通常であれば誤薬事故となり管理者への報告はおろかモノによっては受診の可能性すら出てくる為、家族への連絡が不可欠となり事が多少大きくなる。
(俺が角野と同じミスするなんて…!)
松田はショックを隠せなかった。
二階ではニユニット稼働しており、各々夕食の片付けに取り掛かっている。
スタッフは誰も松田に気づかない。
一度、徘徊のある利用者とすれ違った際『ごはん
医務室の戸を明け1ヶ月分の薬のケースのある棚を開ける。
(あった!)
松田は柏原のケースを見つける。
そこですこし止まる。
(どうするか…一包まるごと持ってくか……プレドニンだけ持ってくか……)
プレドニンは袋にホチキス留めされているだけのため、強引に千切って持っていけないこともない。
そして実際、そうした。
本日は十月十日、ケースには十月末までの薬がある。
最初、足りないプレドニンは十一日の分から調達しようとしたが発見を遅らせる為並んだ薬の後ろの方から無造作に取り出してプレドニンを千切った。
そうして松田は三階輝ユニットに再び向かう。
そして今調達してきたプレドニンを加え、何食わぬ顔で柏原に飲ませた。
『おくすり、どうしたの?なかったの?』
『いや、いいからいいから早く飲んで!』
柏原はボケていないため聞いて当然のことを聞く。
(だからクリアな利用者は嫌いだよ…!)
ちなみにどの介護士に『好きな利用者はどんな利用者か?』と聞いても『ボケてて動かない人』と答えるだろう。
反面柏原は疑問があれば聞くし、用事があればナースコールを押すし、たまには歩行練習を勝手にしてみて転倒もする。
ボケてない=楽な利用者ではないのだ。
(とりあえず乗り切ったか……)
松田は少なくともそう思っていた。
時刻は18:57
(…くそっ!!)
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