第4話

 ィユグーはご機嫌で家に帰ってきた、派手な羽根を撒き散らしながら。

「あの子はどう?」

 玄関で出迎えたヴルスに尋ねる。ヴルスは微笑んで

「じきになれますよ」

 と答えた。


 カレー(たぶん)というやつはなかなか美味しかった。

 すっかり平らげてオサマはまだ裸のまま床に寝そべってみた。

 どうすればいいのかさっぱりわからない。

 また部屋の中を見回す。鏡と目が合ったが鏡は今度は何も言わない。見たことのない本、多分英語だ、オサマは少し話せるが読むのは苦手だ。

「疲れたな」

 ぼそっと、唇から言葉が溢れると同時に涙も溢れた。

「悲しいのかい」

 上から降ってきた言葉にオサマは鈍い動きで立ち上がる。鳥の姿のまものが大きな大きな、装飾過多な時計のついた円柱の上にいつの間にかとまっていた。

 汚くて派手なインコの怪獣、に見える。

「とにかく」

 腕でまぶたを擦った少年は毅然としようと試みる。

「服をよこせ。裸のままなんて屈辱だ」

「ああ。屈辱なのか?

 カレーはうまかったろう」

 バサリとインコは降り立つと240センチくらいの人間になった。

「じゃあ名前を名乗りなさい。

 名前を言ったら服をあげよう」

 まるで犬が前足を上げたら肉をやろうという、その調子でまものは言った。

 ここでは自分はペットなのだった。

「……オサマ」

ウサーマ?うつくしいライオン いい名前だ」

 そしてまものはくるりと手で空中に円を描く。

「獅子にふさわしい服と部屋がいるな」

 空っぽだったはずのまものの手には真新しい服が乗っている。受け取って広げると大きくGGとロゴの入ったダークブラウンのスエットと細身のカーキのチノパンだ。一応下着もあった。

「さあ着たらわたしのささやかな城を案内しよう、オサマ」

 上機嫌そうにまものは言ってありとあらゆる絵具を全てぶちまけたようなコートを脱いだ。

 すると真珠色の肌もあらわなドレスのようなものをきた女性(仮面は被ったままだった)が立っていた。ドレスのようなものは深い青の繊細なレースが幾重にも重なったような美しいもので魔物が動くたびに不思議な衣擦れの音がした。

 悪魔は美しいものなのだ、油断するなとオサマは仮面を睨めつけて心を奮い立たせた。

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みにくいまもののペットにされまして きゅうご @Qgo

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