第353話 怖いデート
「「やだ、死ぬ………」」
午前からプールを楽しんだ後、プールを出て着替えを済ませてプール用の荷物をコインロッカーに預けた後は遊園地で遊ぶ。ことに……なってる。嫌だ……
「りょうちゃん、春香ちゃん、観念しなさい」
まゆがそう言って僕と春香の手を引っ張って、ゆいちゃんが僕と春香の背中を押しながら歩く。強制連行だ。
「まゆちゃん、ゆいちゃん、あんな危険な乗り物乗っちゃダメ!百回に一回は死ぬよ…」
「そーだ。そーだ。春香の言う通り!」
「そんな確率で人が死んでたらこの遊園地潰れるよ…」
絶叫マシンが苦手な僕と春香が抗議をするとゆいちゃんに笑いながら論破された。
「わ、私、りょうちゃんと待ってる…まゆちゃんとゆいちゃん2人で乗ってきて…」
「春香ちゃん、そろそろ観念しよ。ほら、着いたよ」
ジェットコースターの入り口前に着いた瞬間、僕と春香は息を合わせたように同時に走って逃げ去ろうとするが、僕と春香の背中を押しながら歩いていたゆいちゃんに服を掴まれて逃げられなかった。
「さすが幼馴染み…息ぴったりですね……でも、そろそろ観念しましょう」
ゆいちゃんにそう言われて最後の抵抗、と言うように僕と春香は不満全開の表情で頬を膨らませる。
「りょうちゃんも春香ちゃんもそんなかわいい顔してもダメだよ。ほら、行こう」
まゆに引っ張られて地獄への入り口を潜ってしまう。帰りたい。嫌だ。これだけは無理……
まゆとゆいちゃんがはしゃぎながら順番を待っている間、僕と春香は震えながら2人で手を繋いで順番を待つ。春香と手を繋いでいると自然と安心出来た。僕と春香が手を繋いでいるのを、まゆとゆいちゃんは黙認してくれた。その優しさで僕と春香をこの恐怖から解放して欲しい……
そしていよいよ僕たちの番が回ってきた。直前でじゃんけんで僕の隣に乗る人を決めた結果、ゆいちゃんが僕の隣になった。
「りょうちゃん、生きてられたら私を抱きしめて…」
「うん。わかった……」
ゆいちゃんの隣に座って、安全バーをつけられて逃げられないようにされ、ジェットコースターが動き始めた瞬間、僕の後ろでまゆの隣に座っている春香から声をかけられた。無事、生きてられたら春香を思いっきり抱きしめよう。
「きゃー、りょうくん、こわーい」
全然怖くなさそうなテンションでゆいちゃんがそう言いながら僕の腕をギュッと掴んでくるが…反応する余裕すらなかった。少しずつ、死への宣告のようにじわじわとレールを昇り始めて、もう、魂が抜けた状態になっていた。
「春香ちゃん、だ、大丈夫?」
後ろにいる春香も僕と同じ状態みたいだ。じわじわと精神的に追い詰められて恐怖心がマックスになる頃合いを見計らい、追い討ちをかけ、トドメを刺すような急降下、僕も春香も声にならない声を発していた。
「「楽しかった〜」」
なんとか、生き延びることができた後、まゆとゆいちゃんに全然楽しくない!と反論する元気さえ僕と春香には残っていなかった。
「りょうちゃん、私たち、助かったよ」
半泣き状態の春香が抱きついてくるのを、半泣き状態の僕は優しく受け止める。ほんと、なんとか生きてられたよ。
「りょうちゃんも春香ちゃんも大袈裟だなぁ」
まゆが笑いながら言う。いいもん。この気持ちがわからない人は今は抱きしめてあげないから。
そんな感じで、なんとか命拾いをした後、僕たちは優しい系の乗り物を堪能する。
「めっちゃいい景色だね」
4人で観覧車に乗りながら僕が呟くとまゆとゆいちゃんは同意してくれるが……
「春香ちゃん、観覧車も苦手なの?」
半泣き状態で震えながら僕の腕を抱きしめている春香の写真を撮りながらまゆが春香に尋ねると春香は黙って首を縦に振る。かわいい。
「春香、大丈夫だよ。怖くないよ」
「裏切り者……」
涙目の春香に睨まれてちょっとゾッとする。怖いよ。涙目で震えている春香を抱きしめていると正面に座っていたまゆとゆいちゃんも抱きついてきて、すごく幸せだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます