第343話 2人の幸せ
「りっちゃんさん、耳掃除してください」
「はいはい」
「りっちゃんさん、髪乾かしてください」
「はいはい」
「りっちゃんさん、歯磨いてください」
「はいはい」
困ったものだ。最近、陽菜ちゃんが1人じゃ何もできない人間になってしまっている。何をするにも全部私任せだ。正直、この子の将来が心配になる。
「陽菜、少しは1人でやろうか……」
「えー」
「えー。じゃありません。来年、1人になったらどうするの……それに将来、陽菜が1人暮らしする時とかも心配だし少しは自分の身の回りのことと家事をできるようにならないと…」
「やろうと思えばできますもん」
ちょっとドヤ顔で言うのがかわいい。当たり前のことなのに……まあ、身の回りのことはできるとして…家事は本当にできるのか?りょうちゃんや春香ちゃん曰く大丈夫らしいが……
「それに陽菜、1人暮らしする予定ないですし、ずっとりっちゃんさんの側にいます」
「私が1人暮らししたい。って言ったらどうするの?」
「りっちゃんさんの隣の部屋借りて陽菜も1人暮らしします。きっと、りっちゃんさんのことだから、やれやれ…とか言いながら毎日陽菜の部屋に来て家事とかやりながら陽菜を甘やかして陽菜の側にずっといてくれますよ」
そう笑顔で答える陽菜ちゃん…私は通い妻じゃないぞ……でも、もし、陽菜ちゃんが1人暮らしを始めたら今、陽菜ちゃんが言ったみたいな状況になる気がする。なんだかんだ理由を付けて陽菜ちゃんの側にいたいだろうから……こう思ってる時点でたぶん、陽菜ちゃんと2人暮らしするんだろうな……
とはいえ、陽菜ちゃんの今後が心配だ。ちょっと、陽菜ちゃんがちゃんと1人でいろいろできるかチェックしよう。
「陽菜、今日と明日、陽菜と私の立場逆転生活をします」
「え?」
「陽菜が本当に自立できるか心配だからチェックします」
「いいですよ」
あれ、あっさり同意した。絶対渋ると思ったのに……
「じゃあ、約束ですよ。今から明日終わるまで陽菜はりっちゃんさんになります。だから、りっちゃんさんは陽菜になってくださいね。それでいいですか?」
「え、あ、うん」
絶対渋ると思ったのにあっさり同意されて呆気に取られた私は陽菜ちゃんの確認にあっさり同意した。
「じゃあ、今晩、気持ちいいことはりっちゃんさんがしっかり陽菜をリードしてくださいね。あ、あと、りっちゃんさんはいつも陽菜がりっちゃんさんにしてるみたいに陽菜にいっぱい甘えてくださいね」
「え?」
うわ。それが狙いか。え、うそ、なんかいやだ。前言撤回したい。
「ちゃんと言質とってありますから」
そう言って陽菜ちゃんは先程、陽菜ちゃんが私に確認した内容と私の返事の録音データを見せてくる。なんでこんな時だけ動きが早いの!?
「ほら、りっちゃんさん、早速陽菜に甘えてください。なんでもしてあげますよ」
「じゃあ、まず、お皿の後片付けとお風呂掃除、あと、部屋のお片付けも軽くしてね」
私がそう言うと陽菜ちゃんはめちゃくちゃ嫌そうな表情をする。わかりやすくてかわいい。
「そんな顔してもダメ。ほら、早く動く…」
「はーい」
渋々と言った様子でめちゃくちゃめんどくさそうに私がお願いしたことを陽菜ちゃんは全部片付ける。様子を見ていたが、かなりテキパキした動きで全然問題なかった。料理もできるし、そういえば陽菜ちゃんのお部屋がめちゃくちゃ綺麗だったことを思い出して私が心配しすぎていただけみたいだ。
「終わりました!ご褒美ください」
「私は家事が終わった後にご褒美要求したことないよ」
「えー。でもいつも嬉しそうに陽菜からのご褒美受け取ってるじゃないですか…耳掃除させてあげたり、髪乾かせてあげたり、抱きしめさせてあげたり、ちょっと気持ちいいことさせてあげたり……」
「耳掃除と髪乾かすことはご褒美扱いなのね……」
ちょっと呆れながら言うが陽菜は笑顔ではい。と頷く。呆れた……いや、でも、まあ、たしかに、私にとって、陽菜ちゃんのお世話が出来ることは最高のご褒美かもしれない。
「じゃあ、陽菜、ちょっとだけご褒美あげる……ベッド、行こ…」
「はーい」
いつもこういうことは陽菜ちゃんに任せきりだから上手くリードしてあげられなかったけど、陽菜ちゃんはすごく幸せそうにしてくれていた。
「陽菜、好きだよ」
「陽菜もりっちゃんさんのこと大好きです」
シャワーを浴びながらお互いに好き。と言い合って抱きしめ合う。お互いに髪を乾かし合って、歯を磨いて、2人でベッドで横になる。
「りっちゃんさん、今日はりっちゃんさんからですよ」
「はいはい」
いつも、一緒に寝る時は陽菜ちゃんが私を抱きしめて、私が陽菜ちゃんを抱きしめるのがお決まりだ。今日、私は陽菜ちゃんだから…今日は私から陽菜ちゃんを抱きしめる。私が抱きしめると陽菜ちゃんはすぐに私を抱きしめ返してくれる。
「陽菜、大好きだよ。おやすみ」
「陽菜もりっちゃんさんのこと大好きです。おやすみなさい」
そう言って、1日の終わりのキスをしてお互いにぐっすり眠る。お世話されるのもいいけど、お世話する方が、私には向いているかな…そう思いながら私はぐっすりと眠った。
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