第337話 continue
「おはよ…」
「うん。おはよう」
ずっと、春香を抱きしめていた。寝れなかったからずっと、ちょっとだけ辛そうな表情で眠る春香の頭を撫でて、春香を抱きしめていた。
朝になって目を覚ました春香と一言だけ言葉を交わした後はお互いに何も言わなくなる。何も言わずに春香は朝ごはんの支度をしてくれて、僕は春香の隣で春香の様子を見つめながら春香の手伝いをする。
無言で朝ごはんを食べた後、僕にもたれかかってきた春香を受け止めてギュッと抱きしめる。春香だけは離さない。と…必死になって叫んでいるようだった。
昨日、僕は、春香を選んだ。ずっと、僕を抱きしめてくれている春香を放ってはおけなかったし、春香が本当に愛おしかった。
結果、まゆは帰ってしまい、ゆいちゃんからの電話も鳴り止んだ。それ以来、2人から音沙汰はない。何も話せずにいた僕に、私はずっと側にいる。と言ってくれるように春香は僕の側から絶対に離れなかった。
今、春香までいなくなってしまったらきっと耐えられないから…本当に、春香だけが心の支えだった。
昨日、僕がまゆを選んでいたら、僕はまゆの実家にいて、僕の側にはまゆがいてくれて、まゆだけが心の支えになっていて…
ゆいちゃんを選んでいたら、僕はゆいちゃんのアパートにいて、僕の側にはゆいちゃんがいてくれて、ゆいちゃんだけが心の支えになっていた。
僕には春香がいてくれる。春香には僕がいる。でも、まゆとゆいちゃんは……本当に申し訳ないし、自分が情け無い。自分を恨む。あれだけ、3人を幸せにする。って言ったのに、結局誰も幸せにできていない。
こんな僕には…この子の側にいる資格もないのではないか。誰の側にもいてはいけないのではないか。と本気で思って泣いてしまう。
僕が泣いていることに気づいた春香は大丈夫。と言うように僕を強く抱きしめて僕の頭を撫でてくれる。きっと、まゆとゆいちゃんも、春香みたいに優しくしてくれていただろう。それなのに、僕は一方的に3人を傷つけた。自分が許せない。
そうやって、無言でずっと春香の側にいるだけの日が数日続いた。
そして、今日、現実と、向き合う日がやって来た。
「………私も、行くから」
バイトに向かうためにアパートを出ようとした僕に春香がそう言って、僕の腕を掴んで意地でもついて行く。と言う。春香も今日はバイトだったんじゃないの?と思ったが違う。と言われた。それが、本当か嘘かはわからないが、意地でも僕の腕を離す気はないらしい。
どちらにしろ、1人でバイトに向かっても、きっと、途中で辛さに耐えきれなくなるだろう。ならば、春香に一緒に来てもらった方が…
「ちょうど、買い置きしてた食材なくなりそうだったから…補充する。買い物して、りょうちゃんがバイト終わるまで待ってるから…一緒に帰ろ。安心して、りょうちゃんを1人にはさせないから…」
そうやって優しい声でこんな僕を甘やかす春香の存在が、僕にとってはすごく有難くて、泣きながら、ありがとう。と何度も言って春香と一緒にアパートを出る。
「2人で仲良くどこに行くの?」
アパートを出て歩き始めると、声をかけられた。あれから音沙汰がなかったから、今日は電車でバイト先に行くつもりで普段より早くアパートを出たのに、駐車場でまゆは僕を待ってくれていた。
まゆは駆け足で僕の元にやって来て、僕を抱きしめてくれる。
「りょうちゃんのばか…ずっと、会いたかったんだからね。ずっと、寂しかったんだからね。ずっと、辛かったんだからね…」
「まゆ……」
「春香ちゃん、もう、わがままは終わりね。これからはまゆもりょうちゃんから絶対に離れないから。もう、離さないから」
まゆは春香にそう言って春香とは反対側の僕の手をギュッと抱きしめて僕の隣に立ってくれた。
「ほら、りょうちゃん、春香ちゃん、早く行こ」
そう言って、まゆは僕と春香を車まで連れて行く。僕と春香を後部座席に座らせて車の運転を始める。
僕も春香も、罪悪感から何も話せない。まゆは…黙って運転をしてくれていた。ミラー越しに見えるまゆの表情はすごく、幸せそうだった。
こんなクズの側にいることなんて…幸せなことでもなんでもないのに…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます