第322話 仲直りと不安





「怒ってる?」


………無視………いや、わかってるよ。悪いのは私だし怒られて当然のことをしたけどさ……無視は辛いよ……


「陽菜さん…そろそろ機嫌直していただけないでしょうか……」


私が不機嫌な彼女の顔を見て言うと、不機嫌な彼女はプイッと私から視線を外してしまう。さっきから目も合わせてもらえなくてまじで辛いよ……


「陽菜ちゃーん。機嫌直して〜」

「本当に反省してます?」

「ごめんなさい…」


私がちょっとふざけた声で機嫌を直すようにお願いするとガチトーンで返されてちょっとしょげてしまう…辛いよ…


「は、陽菜の…機嫌、直したいならどうすればいいか…わ、わかりますよね……」


陽菜ちゃんに無視され続けていてしょげていた私を見て陽菜ちゃんは顔を少し赤くしながら私に言う。かわいすぎかよ。


「陽菜、ごめんね。陽菜のこと、世界で一番大好きだよ」


そう言って私は陽菜ちゃんをギュッと抱きしめる。陽菜ちゃんはえへへ。と幸せそうな表情を浮かべて、許します〜とあっさり許してくれた。かわいい。


「ありがとう。陽菜、大好きだよ」

「えへへ〜」


ありがとう。と大好き。陽菜ちゃんのご機嫌直しに最大威力の効果がある呪文を惜しみなく使用して陽菜ちゃんのご機嫌も元通りになる。やっぱり陽菜ちゃんはこうやって幸せそうな表情をしている時が一番かわいい。


「陽菜は許しますけど…ちゃんと春香ちゃんとまゆ先輩とゆいちゃんに謝ってくださいよ…」

「う、うん…わかってるよ……」


大丈夫かな…修羅場になってないかな…私のせいで大変なことになってないかな…そうやって不安を感じながら数時間が経過すると春香ちゃんからもう大丈夫。と連絡が来てめちゃくちゃ安心した。


「りょうちゃんたち、大丈夫そうですか?」

「うん。もう大丈夫って、春香ちゃんから連絡来た」

「なら安心ですね〜」

「うん」


もう大丈夫。と言うことは、たぶん、これまでと変わらない。と言うことだろう。私は、陽菜ちゃんを幸せにしてあげたい。陽菜ちゃん1人を幸せにしてあげるだけで手一杯で、幸せにしてあげたい。と思っていても、喧嘩したり傷つけてしまったりしてしまう。私のお姫様が手がかかるだけかもしれないが、りょうちゃんは3人もお姫様を抱えて大変だな…と少しだけ思ってしまう。


お節介だとはわかっていても、私も…りょうちゃんと春香ちゃん、まゆちゃん、ゆいちゃんの幸せを願っている。だが、4人でいることは本当に幸せなのだろうか。結局はみんな…1人になるのが怖いだけなのではないだろうか…誰か1人が選ばれるのが怖いだけで、本当は自分だけを選んで欲しいと思っているのではないだろうか。ゆいちゃんはすごくわかりやすくそれが行動に現れていると思う。でも、たぶん、あの子は、ゆいちゃんよりも強く、りょうちゃんに自分だけを見てほしい。と思っているだろう。


どうなるのかわからない。りょうちゃんも本当に大変だな…このまま、平和に、4人で幸せになって欲しい。


「りっちゃんさん、どうしたんですか?」

「何でもない。あ、そうだ。お詫びも兼ねて今日は陽菜の好きなもの作ってあげる。夜ご飯何がいい?」

「だし巻き卵!」

「夜ご飯って言ってるじゃん…明日の朝ごはんにだし巻き卵は作ってあげるから夜ご飯に食べたいもの言って」

「えー。りっちゃんさんが作ってくれるだし巻き卵美味しいから毎日3食食べたいです〜」


気に入ってもらえて嬉しいけど卵のとりすぎは体に良くないみたいな話聞いたことあるからそれは認めません。陽菜ちゃんには健康でいてもらいたいし、食べ物はバランスよく食べさせないと…私が目を離すとお菓子ばかり食べたり野菜あまり食べなかったりするからなぁ。まったく、手のかかる子だ……まあ、そこがかわいいんだけどね。


私は、少しだけ心の中に残るあの4人の不安を忘れるようにするために、陽菜ちゃんと一緒に夜ご飯の支度を始めて夜ご飯を食べて、その日は陽菜ちゃんと一緒に眠った。一晩一緒じゃなかっただけなのに、この子の温もりがすごく懐かしく感じて、すごく温かく幸せな気分になれた。






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