第321話 世界一の幸せ
「ゆいちゃん…」
春香は淡々とした表情でゆいちゃんを見つめる。
「終わりにしようか。お望み通り…さ……りょうちゃんは私とまゆちゃんに返してもらう。ゆいちゃんはもう、関わらないで…それでいいなら早く部屋から出て行って…この部屋からゆいちゃんが出た時点で、私たちの関係は解消するよ」
「春香!?」
「春香ちゃん!?」
冷たい声で淡々と告げる春香を僕とまゆは止めようとする。これ以上、春香が何か言えば本当にゆいちゃんが耐えられない気がしたから……
「ほら、早く出て行きなよ。この部屋から出たら全部終わるんだよ」
ゆいちゃんを追い詰めるように選択を迫る春香の口をまゆが手を当てて塞ぐが、春香は迷わずまゆの手を振り払う。
「どうしたの?早く出て行きなよ」
震えて、泣いて、苦しんでいるゆいちゃんに春香は淡々と選択を迫る。
「い、嫌……」
泣きながら、絞り出すような声でゆいちゃんは春香に答える。
「やっぱり…嫌……ここに……いたい……りょう…くんの……側に……いたい……春香…ちゃんと……まゆ…ちゃん……の……側に……いたい……よ……」
「やっと本音を言ってくれたね。ごめんね。問い詰めるようなことをして…大丈夫だよ。ゆいちゃんが望むのなら、ここにいていいんだよ」
言葉が声にならないくらい泣いてしまっているゆいちゃんを抱きしめながら春香が優しい声でゆいちゃんに言う。
「りょうちゃんとまゆちゃんもいいよね?」
春香が僕とまゆにも同意を求める。僕は黙って頷いた。
「ゆいちゃん、りょうちゃんはゆいちゃんだけのものじゃないからね…それだけはちゃんと頭の隅に入れておくこと…また、こうなったら、次は…ないからね……」
そう言って釘を刺しながらまゆがゆいちゃんに言う。ゆいちゃんは泣きながら、掠れた声でごめんなさい。と謝りながら頷いた。
「わかってくれたならいいよ。ほら、もう泣かないの。せっかくのかわいい顔が台無しだよ。それに、泣いてばかりいるとりょうちゃんに嫌われちゃうよ」
まゆはそう言ってゆいちゃんの涙を優しく拭ってあげる。その光景を見ながら僕はゆいちゃんに近づく。
「ゆいちゃんは本当にバカだね。ありがとう。でも、僕のことよりもさ、自分が幸せになることもちゃんと考えてよ。あと、ちゃんと4人で幸せになることも考えないとね。約束できる?これからは自分を大切にして、4人で幸せになるって…」
「うん…ごめんなさい……いっぱい……迷惑かけて……」
「もう謝らなくていいよ。僕の方こそごめんね。幸せにするって言ったのにこんなに泣かせちゃって…」
「い、今は…幸せ…な泣き方……だからいい……」
少しずつ涙が収まってきたゆいちゃんの手を僕はそっと握る。
「これ、返すね。約束だよ。4人で幸せになろう」
そう言って、僕はゆいちゃんに再び、ゆいちゃんの指輪を付けて、ゆいちゃんに指輪を返す。大切な、4人の誓いの指輪を……
「春香にまゆも…ごめんね」
「謝らないで…4人で幸せになる為には…きっと必要なことだったと思うから…」
春香は春香の胸元で泣きじゃくるゆいちゃんの頭を撫でながら僕に言う。正直、これから、どう変わるのかはわからない。でも、きっと、何か変化はある気がする。僕の役目はその変化が変な方向に行かないようにすること…
「りょうちゃんはまーた、大変な道を選んだねぇ」
「その分、世界一幸せになれるから全然平気だよ。春香とまゆとゆいちゃんが側にいてくれれば僕は世界一幸せだから…」
まゆの言葉にそう答えると春香もまゆもゆいちゃんも顔を真っ赤にする。
それからは、ゆいちゃんが泣き止むのを待って少しだけ話し合いをした。特にルールを決めたりしたわけではない。今まで通り、揉めたらじゃんけん。とかそういうことのおさらいをしただけ…
目に見える形で変化はないが、各々の本音を聞いて、きっと、今までとは違う変化が現れるのではないかと思う。それに、何でもかんでもルール決めたりしたら窮屈だから…そんな窮屈な幸せに意味はない。自由な幸せを掴むために、苦労はするかもしれないけど…その分、見返りは世界一の幸せだ。そのためなら、いくらでも頑張れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます