第323話 前進






みんなで夜ご飯を食べて、僕は約束通り春香とまゆとお風呂に入る。僕たちが出てから交代でゆいちゃんがお風呂に入りに行く。


「りょうちゃん、髪乾かして〜」

「はいはい」


ドライヤーを持って僕の前に座るまゆの髪の毛を僕は乾かしてあげる。その後は、まゆの横にちょこん。と座って順番を待っていた春香の髪を乾かしてあげる。


「極端…だね……」


春香がボソッと呟く。何について極端と言っているのかはすんなり理解できた。


「まあ、そうだね。でも、それがゆいちゃんのいいところだと思うしゆいちゃんらしいんじゃないかな」


あれから数時間、ずっと、ゆいちゃんは僕によそよそしく接していた。いつもなら僕の側から離れないゆいちゃんだが、先程からは自分から距離を置いて春香とまゆに譲っているような感じがしていた。


「ゆいちゃんが出てきたら、りょうちゃんから優しくしてあげるんだよ。あ、でも、甘やかしすぎないようにね。甘やかしすぎたら歯止め効かなくなる可能性あるから…」


言われなくても、そうしてあげるつもりだった。春香がそう言ってくれて、なんていうかすごく嬉しかった。春香は本当に4人の幸せを考えて、客観的に考えてくれていて、すごく心強い。


「お風呂出ました〜」


そんなことを考えているとゆいちゃんがお風呂から出てくる。


「ゆいちゃん、髪乾かしてあげるからこっちおいで」

「え…いや、いいよ……じ、自分でする……から……」

「いいから、ほら、早く!ゆいちゃんの髪の毛さらさらですごく触り心地いいから髪乾かしてあげたいの」

「りょうちゃん、なんかすごく気持ち悪い言い方してるよ……」


うん。自分でも言ってて思ったよ。でも、ゆいちゃんが本心に逆らうように拒否してきたから何でもいいから理由付けたかったんだけど…すごく、気持ち悪い言い方になってしまった……春香にちょっと引かれて若干傷つきながらゆいちゃんの髪の毛を乾かしてあげる。


「ゆいちゃん、お願いだからさ、ほどほどにね。難しいし、めちゃくちゃ言ってるとは思うけど、りょうちゃんを独り占めしたい。と思うのも、りょうちゃんを私とまゆちゃんに譲ろうとするのも、ほどほどにね…」

「は、はい…」


春香にこんなことを言わせて、情け無いと思う。本来なら、僕がゆいちゃんに気を遣ったり、春香とまゆとバランスを取ったりしないといけないのに、春香にこんなことを言わせてしまって申し訳ないし情け無い…


ゆいちゃんの髪を乾かし終わった後は、4人で対戦ゲームをして遊んで、映画みたりして深夜まで楽しんで、春香の眠い。の一言で僕たちは寝ることになった。


寝る場所はじゃんけんで決めた。春香とまゆが勝って、今までならゆいちゃんが駄々をこねる場面だったが、上手いこと抑えてくれていた。


春香とまゆに腕を抱き枕のように扱われて僕はリビングに敷かれた布団で横になる。春香、僕、まゆが並んで眠り、まゆの隣でゆいちゃんは寝るのかな…と思っていたらゆいちゃんは黙って起き上がり僕の頭の方へ歩いてきた。


「りょうくん、頭、あげて…」

「え、あ、うん」


黙ってゆいちゃんのお願いを聞くと、ゆいちゃんは僕から枕を没収して、枕があった場所に自分の太腿を置いて座った。


「今日はこれで…寝る…」

「いやいや、さすがに無理でしょ…」

「いいの。これで寝るの。これなら春香ちゃんとまゆちゃんも文句ないですよね?はい。じゃあ、おやすみなさい」


僕に膝枕をしてくれながらゆいちゃんは話を強引に断ち切る。座ったまま寝るって…かなりきついでしょう……春香かまゆが止めてくれないかな。と思ったが、春香とまゆはその手があったか…と、ボソッと呟いていた。いやいや、普通はなしよ。きついでしょう…絶対やめた方がいいと思う。今度からこれは禁止にした方がいい気がする。


でも、いつもみたいに駄々をこねないで、かと言って不満を抱えながら諦めるわけでもない選択をしたゆいちゃんを見て、一歩、前進したかな。と思った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る