第244話 待ち時間





「ねえねえ、まゆのソロ、どうだった?」

「すごく綺麗な音だったよ。やっぱりまゆはすごいなぁ。って改めて思った。春香も、すごくよかったよ。やっぱりまだまだ春香には敵わないや…」


喫茶店に向かう途中、やっと落ち着いて先程の演奏の話が出来たので僕は春香とまゆを褒めまくった。実際、2人の演奏は素晴らしいものだったので、いくらでも褒められる。


「りょうちゃんもすごく上手だったよ。マーチのメロディーのところとか急にすごい勢いで吹き始めたから私、びっくりしちゃったよ」

「あー、たしかにあれはびっくりしたよね。でも、まゆのソロの時、りょうちゃんと春香ちゃん息ぴったりって感じだったよねぇ。ずるいなぁ…まゆだけ除け者じゃん…」

「そんなことないよ。まゆも一緒に吹いてたじゃん。それに、まゆがいなかったらあの音は出せなかった。まゆのおかげだよ」


僕がそう言うとまゆは嬉しそうに微笑んで僕の腕をギュッと抱きしめて来た。それを見た春香も反対側の腕をギュッと抱きしめる。幸せ。だけど、ちょっと、いや、かなり、結構、歩きづらいとは口が裂けても言えない。




「まゆちゃん、だらしないよ。ほら、ちゃんと座って」


喫茶店に到着して飲み物とデザートを注文すると疲れていたからかまゆが机の上に頭を置いてぐでーっとし始める。かわいいなぁ。と思いながらまゆを見ているとまゆの隣に座っていた春香がまゆに言う。春香に注意されてまゆは渋々ちゃんと座り直す。


「ね、そういえば夏の旅行とりょうちゃんと春香ちゃんの実家に帰省する予定、今考えちゃおうよ」


今はすでに夏休み、9月後半までずっと夏休みだが、金賞を取り上位大会に進むと、9月中旬にもう一度コンクールがあるため、夏もかなり忙しくなるだろう。


そう言ったことも考えながらスケジュールを調整する。8月の真ん中1週間は、大学が閉鎖されていて練習ができない期間がある。大学が閉まっているため、春香のバイトもない。ならば、僕とまゆもちょっとお休みをもらって帰省したい。とはいえ、夏休みはバイトがかなり忙しいみたいなので、1週間くらいお休みください。と僕とまゆが言うわけには行かないので、帰省するとしても1週間ではなく、4日か5日くらいになるかなと予定を組む方針にした。


旅行に行くとしたら9月かな。と言う感じになった。9月の中旬の上位大会の後ならば、小中高は夏休みが終わっているので旅行に行きやすいし、バイトも休みをもらいやすいと判断した。どこに行くかは、ゆっくり決めたいと思うが、以前、意見に出た北海道が候補としてかなり有力だ。


そんなことを話しているとあっという間に時間は過ぎてしまう。


「そろそろ会場戻らない?やっぱり、いくつか他団体の演奏聴いておきたいし…」

「そうだね。そうしようか」

「まゆも賛成」


春香の提案に従い、お会計を済ませて喫茶店を出た僕たちはコンクール会場に戻る。演奏と演奏の間時間にそっと客席に入り3人で並んで座る。結構、他の人たちも他団体の演奏を聴いていたみたいで、周りを見るとちらほらと見知った顔を見つけることができた。


そして、他団体の演奏を聴く。やはり、上手い。中途半端な想いでコンクールに臨む団体なんてないんだな。と思う。結果としては銀賞とかの団体でも、やはり、ここは素晴らしいとか、必ず見習うべき点は見つかり勉強になる。僕と春香は割と集中して聴いていたのだが、まゆは疲れていたのかいくつかの演奏を聴いたら眠ってしまっていた。起こすのも可哀想だし、少しそっとしておこう。それにしても、かなり大音量で演奏が行われている中でよくぐっすりと気持ち良さそうに寝れるなぁ。とちょっと感心する。それくらい、疲れていたのかな。お疲れ様。と言う想いを込めてまゆの頭を撫でると春香にツンツン。と指で肩を叩かれた。春香の頭も撫でてあげると、春香は声を出さないようにありがとう。と言うように口を動かしていてかわいかった。


その後は、最後までゆっくり他団体の演奏を味わった。そしていよいよ。結果発表の時間が近づいて来た。







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