第227話 学生には避けて通れないものがあるのです。





デートをした日からしばらく月日は流れる。


「りっちゃんさん助けてください〜」


部活の練習終わり、僕はりっちゃんさんに泣きついた。


「……………」


陽菜に抱きしめられて陽菜の頭を撫でていたりっちゃんさんはジト目で僕を見つめる。そんな目で僕を見ないでください……


「もしかしてりょうちゃんもなの?」

「て…テヘペロ」

「陽菜や春香ちゃんやまゆちゃんならともかくりょうちゃんがやってもかわいくないからやめて」

「はい。ごめんなさい」


7月後半、察しのいい学生なら理解してくれるであろう…前期試験期間であり、レポート提出期間である。


明日は…僕の学部の1年生が最も単位を落とすと言われている授業のテストがある。


「どれくらい勉強したの?」

「………」

「目を逸らさない!」

「えっと……その……」

「まったく勉強してないのね?」

「はい……」


僕の返事を聞いてりっちゃんさんは、はあ…と大きくため息を吐いた。


「あー、仲間がいて安心した〜」

「陽菜」


りっちゃんさんを抱きしめていた陽菜が僕に言うとりっちゃんさんは冷たい声で陽菜に声をかけた。


「ごめんなさい」


陽菜はすぐにりっちゃんさんに謝る。どうやら陽菜も全く勉強していなくてりっちゃんさんに泣きついていたところだったらしい。


「春香ちゃんとまゆちゃんは明日テストあるの?」

「まゆと春香ちゃんは保育の実技試験がメインだし講義科目はレポートばかりで今日の試験で前期は試験もうないんだ〜」


試験は月曜日から土曜日まで、試験がある科目が授業をしていた時間帯に試験は実施される。まゆが言っていた実技試験は前期最後の授業内に実施済みらしい。レポートは木曜日全科目提出で試験が全て終わった春香とまゆはまだ少しは余裕がある。


「ちなみに、レポートの進捗具合は?」


りっちゃんさんに聞かれてまゆはりっちゃんさんから目を逸らした。


「レポート科目4つあって私は3つ終わっててあと1つも今日中には終わりそうだけどまゆちゃんは……」

「1つも終わってないです」


まゆの言葉を聞いてりっちゃんさんは再び深いため息を吐く。


「りょうちゃん、陽菜、あなたたちレポートはどうなの?」

「僕はレポート科目5つで一応4つ終わってます」

「………」

「陽菜、怒らないから正直に言って」

「まだ手をつけてません」


陽菜の言葉を聞いたりっちゃんさんは今日一番のため息を吐いた。


「りょうちゃんはまだ救いようあるけど陽菜……あんたねぇ……」

「て、テヘペロ」

「天使か…」


陽菜の反応を見たりっちゃんさんは僕の時とは違いデレデレな様子で陽菜を抱きしめていた。


「たしか、りょうちゃんと陽菜は明日の3限と金曜日の3限・5限がテストだったよね?」

「はい」

「陽菜、明日はうちに泊まりにきなさい。徹夜でレポート付き合ってあげるから」

「やったーお泊まりだー」

「レポート終わってない悪い子に楽しみがあると思わないこと」

「はい。すみません」


りっちゃんさんに圧をかけられて陽菜は萎縮した様子でりっちゃんさんに謝罪する。りっちゃんさんと陽菜だとりっちゃんさんの方が強いみたいだ。まあ、りっちゃんさんが陽菜の尻に敷かれるところなんて想像できないし当然か…


「春香ちゃん、まゆちゃん、私と陽菜は今日お泊まりで勉強する予定だったんだけどお宅のりょうちゃんも明日やばいみたいだから今日は春香ちゃんたちのアパートで5人で勉強会しない?」

「私はいいよ」

「まゆも大丈夫だよ。りっちゃんに見張られてた方がまゆもレポート頑張れそうだし」

「春香ちゃんがいながらなんで2人はそんな状況に……」


春香は自分には厳しかったけど、僕とまゆには割と甘々で春香に甘やかされた結果が今の現状です。


だってさ、僕とまゆが勉強し始めるくらいに春香は一区切りつけてお茶しよう。とか言って僕とまゆがバイト中に作ってくれていたスイーツを冷蔵庫から出してきたりするんだよ!勉強する気なんてなくなるよ!!


「一応確認だけどりっちゃんは大丈夫なんだよね?」

「私はもうレポート全部終わらせました。試験勉強も計画的にしていたので慌てる必要性を感じません」


まゆの問いかけにりっちゃんさんは自信満々で答える。


「去年、単位落とした癖に……」

「ちゃんと勉強してても推しのライブには敵いませんでした」


去年、推しのライブで力尽きて寝坊して単位を一つ落としたりっちゃんさん…その科目の試験は昨日既に終わっていて、試験の内容は簡単だったので、りっちゃんさんが落とすことはもうないと思う。


「そういえば、陽菜ちゃんまだうち来たことないよね?」

「あ、たしかに」


僕と春香と陽菜は幼馴染みなのにまだ一度も陽菜はアパートに来たことがなかった。まあ、陽菜と再会した頃には僕と春香とまゆがすでに付き合っていて来る機会がなかっただけなのだが…


「そういえばそうだね。りょうちゃんと春香ちゃんがどんなところに住んでるか楽しみ」

「私も久しぶりだから楽しみだわ」


そういえばりっちゃんさんもかなり久しぶりに来る気がする。


とりあえず、4人乗りの車にまゆと陽菜とりっちゃんさんが乗る。まゆの車で3人は一度りっちゃんさんのアパートに向かいりっちゃんさんと陽菜のお泊まり道具を取りに行くらしい。りっちゃんさんの部屋に陽菜のお泊まり道具が常設されている話を聞いて僕たちはめっちゃニヤニヤしていた。


3人を見送った後、僕は春香と手を繋いで歩いてアパートまで帰る。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る