第228話 2人で寄り道
「こうやってりょうちゃんと一緒に帰るの久しぶりだね」
「そうだね。最近はまゆの車に頼ってばっかりだったから…」
春香の温かくて柔らかい手をそっと握って僕と春香は久しぶりにアパートまで歩いて帰宅をしていた。
「たまには歩くのもいいね〜」
「私はりょうちゃんとまゆちゃんがバイトの日はいつも歩いて帰ってるけどね」
「あ、ごめん」
「いいよ。気にしないで」
春香はギュッと僕の手を握る力を強くする。そんなに強く握らないでも僕は春香の隣にいるのに…
「1人で帰るときはきっと寂しいよね。ごめんね。いつも寂しい思いさせて…」
「だから、謝らなくていいよ。バイトなんだもん。仕方ないって」
「そう言ってもらえると助かるよ…」
「ねえ、まゆちゃんたちまだ帰るのに時間かかるよね?」
「え、あ、うん。りっちゃんさんのアパート行くはずだからまだ時間かかると思うけど…」
大学からりっちゃんさんのアパートに行って、りっちゃんさんと陽菜が荷物用意して、りっちゃんさんのアパートから僕たちのアパートまでは結構時間かかるはずだ。
「ちょっと、寄り道!いい?」
春香は顔を赤めながら僕に言う。何これかわいい。こんなのダメって言えるわけないじゃん。
「いい…よ…でも、あまり長くは寄り道できないよ」
「うん!わかってる。少しでいいの」
春香は嬉しそうに言い僕の手を引っ張って歩き出す。どこに寄り道するんだろう……と僕が思っていると春香はかなり暗い道に入って行く。暗くて細くて人通りのない道を歩くのはちょっと怖い。暗い場所が苦手な春香は僕の腕をギュッと抱きしめていてかわいい。
「綺麗……」
「だよね」
春香に案内された場所に着いて僕は感動した。暗くて細い道を抜けた先にはちょっとした広場のような場所があり、そこからは海が見えた。海面には月の光が当たっていて、夜の暗くて怖い海にあかりを灯し夜の海を綺麗に輝かせていた。
「去年、たまたま見つけたんだけどすごくいい場所だよね〜」
「うん」
見入ってしまうくらい綺麗な景色を見て僕は幸せな気持ちになる。
「一回、りょうちゃんと来たかったんだ」
「嬉しいこと言ってくれるね。ありがとう」
「いえいえ」
春香が案内してくれた場所、すごく好きだ。こんなに景色が綺麗な場所が身近にあったなんて……
「ん?」
「ん?どうかしたの?」
「春香、たしかにここすごく景色は綺麗だけどさ…ここに来るまで暗くて細くて人通り少ない道通ったよね?」
「う、うん」
「お願いだから、春香みたいなかわいい子が1人でそういう道通らないようにしてよ。本当に春香はかわいいんだから心配だよ」
「お、大袈裟だなぁ」
いやいや、全然大袈裟じゃないよ。春香みたいなかわいい子があんな道1人で歩いたら本当にダメだよ。危ないよ。危険だよ。
「でも大丈夫。去年りっちゃんに教えてもらってそれ以外は来たことないから。それに、私、暗いところ苦手だから1人じゃ絶対に来れないし…」
「たしかに…」
春香の言葉を聞いて安心した。安心した僕を見て春香はクスリと笑う。笑いどころじゃないよ…本当に心配したんだから……
「りょうちゃんは心配症だねぇ」
「それくらい春香のことが大切なの」
「そっか、ありがと。嬉しいよ」
春香は満面の笑みで嬉しい。と言ってくれた。
「りょうちゃん、お願い」
春香は物欲しそうな表情で僕を見つめる。これだけ綺麗で雰囲気のいい場所だ。ただ景色を楽しんで帰るだけではもったいない。
「春香…」
僕は春香の背に手を当てて春香を手繰り寄せて春香を抱きしめる。そして、春香と目を合わせる。春香が目を瞑ったタイミングで僕は春香に顔を近づけて春香とキスをする。
「りょうちゃん、ありがと」
「いえいえ」
「まゆちゃんには…内緒かなぁ……まゆちゃんに怒られそうだし…りょうちゃんが本当に私とまゆちゃんを平等に扱ってくれていたなら、1回だけ、まゆちゃんにちゃんと埋め合わせしてあげて」
「ちゃんと春香もまゆも平等だよ。今度まゆに1回キスしておくね」
「うん。お願い」
まゆに聞かれたら怒られそうだけど、まゆだって以前は春香がいないところでキスを求めたりしてきたからプラマイゼロのはず……合宿で清算するまではまゆの方が圧倒的に多かったし……
「今度はまゆも連れて来よう…」
「そうだね」
今度は3人でゆっくりこの景色を見たいな。
「あっ……」
「どうしたの?」
「時間……」
「あ……」
景色に見惚れたり春香とキスしたりしていたら割とやばい時間になってしまった。僕と春香は手を繋いで必死に走るが、アパートに到着する前にまゆから着信が来た。
帰ったら事情聴取されてまゆに怒られるパターンだこれ…
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