第225話 あの日の記憶
「なぁに?まゆのことじろじろ見て……」
あの日と同じように、海に到着して車から降りると海辺独特の強い風が僕たちを出迎える。風に吹かれてまゆのワンピースと今日は結ばれていない髪の毛が揺らされる。麦わら帽子が飛ばされないように手で抑えている姿はとても可愛くて、あの日と同じように…美しい。
「あ、いや、その…まゆがすごくかわいかったから…」
「なぁに、それ。そういえば、初めて出かけた時もそんなこと言ってくれたよね」
「うん。言った気がする」
僕とまゆはお互い見つめ合いながら少し顔を赤くする。たぶん、まゆも僕と同じようにあの日を思い出してくれていたのだろう。懐かしい。あの日が…僕とまゆの始まりの日が……僕とまゆはお互いに見つめ合い、海辺というムードを味わう。気づいたら僕はまゆの手を取り、まゆを手繰り寄せてまゆを抱きしめてキスをしていた。
無意識のうちに行動していた為、我に帰ると少し恥ずかしさを感じて僕は顔を赤くしながらまゆから目を逸らす。
「ねー、さっきから、りょうちゃんとまゆちゃんばかり盛り上がってずるい…」
僕とまゆがお互いに照れて話さなくなったタイミングを見計らって春香が僕の横にやってきた。
「私はどう?」
「すごく綺麗だよ」
迷う必要すらない質問に僕は即答する。そして春香を抱きしめて春香にもキスをする。あの日の自分は、たった数ヶ月の間に僕たちがこんな関係になって、幸せに過ごしていることを想像すらしていないんだろうな。と思う。
「春香、まゆ、ちょっと歩こう」
「「うん」」
僕は春香とまゆと手を繋いで海辺を歩く。
「春香、まゆ、足は大丈夫?」
春香は普通のスニーカー、まゆは裸足でサンダルなので砂浜を歩いても大丈夫か心配だ。
「まゆは大丈夫だよ」
「私も、大丈夫……」
まゆは本当に大丈夫そうだけど春香は靴に砂が入ったのかちょっと嫌そうな感じだった。
「戻る?」
「後でちゃんと払うから大丈夫だよ。ちょっと気持ち悪い感じするけど全然平気だよ。気を遣ってくれてありがとう」
「うん。本当に嫌だったらちゃんと言ってね」
「うん。あ、でも、靴下だけ脱ごうかな…りょうちゃん、肩かして」
「うん。いいよ」
春香は僕の肩に片手を置いて僕に少しだけ体重をかけながら片足立ちをして靴下を片方ずつ脱いでいく。靴下を脱いでから靴下についた砂を払って靴下を畳んで小さなバッグにしまって裸足で靴を履く。
「ひゃっ…冷たい…」
春香が靴下を脱いだりしている間にまゆは海に足を入れていた。最初にまゆとお出かけした日もまゆは同じことをして同じことを言っていたような気がする。
「りょうちゃんたちも来てよ!」
「まゆちゃんとは違って私たち普通のスニーカーだから無理だよ」
春香が笑いながらまゆに答えるとまゆは頬を膨らませてワンピースが濡れないように少しだけしゃがんで手を海に入れて、えいっ!と、かわいい声を出しながら僕と春香に水をかけてくる。
「まゆちゃん、やめて」
「まゆ、だめだよ」
「えへへ。もっとかけてやる」
僕と春香が笑いながらまゆを止めるとまゆは楽しそうにさらに激しく水をかけてくる。まゆの笑顔となんだかんだ楽しそうにしている春香を見ながら幸せな気分を味わいつつ、僕も童心に戻った感じでこのやりとりを楽しんでいた。
「ま、まゆちゃん…ごめん…本当にやめて……」
しばらくはしゃいだ後、我に帰った春香が割と真面目なトーンで言ったのでまゆは手を動かすのを止めた。
「あっ……」
どうしたんだろうと春香を見るとすぐに春香がまゆを止めた理由に気づいて僕は慌てて春香から目を背ける。
「あ…春香ちゃん…ごめん……」
「気にしないで…私も楽しんでいたから…」
春香は水に濡れて透け始めた服を隠すように腕で胸のあたりを隠しながら僕の背中にピタリと引っ付く。
「春香ちゃん、えっと…車に置いてきたまゆのカバンにタオルあるからそれで拭こう」
「う、うん…」
「あ、でも春香、足洗いたいよね?」
「う、うん」
「じゃあ、りょうちゃんはそのまま春香ちゃんを連れて足洗わせてあげて、まゆは車からタオル持ってくるから」
「うん。お願い」
まゆは走って車にタオルを取りに向かってくれる。僕はところどころ濡れている春香を背にゆっくり歩き始める。幸い周囲に人はいなくて春香の恥ずかしい姿が他の人に見られることはなさそうだ。
だけど、やっぱり恥ずかしさからか春香の歩くスピードが遅い。春香の息が僕の首にあたり、振り返るとところどころ濡れている春香が恥ずかしそうに歩いているこの状況に、僕はかなりドキドキしてしまっていた。
「りょうちゃん、振り向いたら怒る…からね…」
「う、うん。わかってるよ」
ドキドキしながら水洗い場まで春香と歩いて僕は足を洗う春香から目を逸らす。春香が足を洗い終わる頃にまゆがタオルと、車に置いてあったパーカーを持って来てくれて一安心した。
春香にもう、見ていいよ。と言われて春香の方を見るが、僕のドキドキは収まっていなかった。春香も恥ずかしそうに僕から目を逸らしていた。そんな春香がかわいくて愛おしかった。
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