第175話 初日の夕食




「お…おもい……」

「情けないなぁ、りょうちゃん…変わってあげようか?」


合宿初日、合宿場に到着して早々にトラックに載せた楽器の積み下ろし作業が始まっていた。僕たちは5限があった為、途中参加なので、最初から頑張ってくれていた人たちよりも頑張らないと…と思っていたのに……チューバ持って階段登ることになるとは……チューバって、大体10キロぐらいあって…ケースの重さや、でかいので運びにくいので、かなり大変……自分の楽器なのになぁ……


「大丈夫だよ。ありがとう」

「本当に?まゆ、いつもバイトでダンボールに入った本とか重いもの運ぶこと多いから、力に自信あるし、全然変わってあげるよ」


僕と一緒にテナーサックスを運びながらまゆが言う。僕もまゆと同じバイトしているはずなんだけどなぁ…男として彼女に重いものを運ばせることなんてできないから大丈夫。と言ったがかなりきつい……


「よく頑張ったね。ご褒美いる?」

「もう。だめだよ。合宿中はあまりそういうことしないの」


楽器を運び終わった後、再び運ぶ楽器を取りに戻るために歩いているとまゆが手を繋いで来たので、僕は照れくさそうにしながらまゆに言うと、まゆは頬を膨らませながらはいはい。ごめんなさい。と納得していない様子で言う。さすがに、部活内で手を繋いで行動するのは恥ずかしい…




「りょうちゃん、お疲れ様。夜ご飯一緒に食べよう」


楽器運びが終わった後、春香が僕に言うので、僕は春香と一緒に民宿の玄関広間のソファーで春香とまゆと並んで座り、朝に春香が用意してくれた弁当を食べる。合宿初日の夕食は各自持ち込みなので、今日は春香が作ってくれた料理を食べることができるが、明日は一日、春香の料理が食べられないのは残念だ。


「りょうくんたちここで夜ご飯食べるの?私たちも一緒に食べていい?」


春香が用意してくれた弁当をソファーの前のテーブルに置いているとゆいちゃんが僕に尋ねる。さきちゃんと陽菜も一緒にいた。陽菜は、コンクールには参加しないが、せっかくの合宿なんだから一緒に行こう。とまゆがごり押しして参加することになった。あれから、時間は経っているが、陽菜はまだ、春香に病気のことを伝えていない。ゆいちゃんとさきちゃんも知らないはずだ。


「僕は構わないよ」

「まゆも大丈夫だよ」


僕が頷くのに同意して春香とまゆも頷いてくれる。僕たちの返事を聞いたゆいちゃんたちは僕たちが座るソファーの正面に置かれているソファーに並んで、僕たちと向き合うように座る。


「春香ちゃんたち、私たちも一緒に夜ご飯食べていいかな?」

「あ、りっちゃん。ゆきちゃんも…全然構わないよ」

「やった。じゃあ、お邪魔します」


こうして、りっちゃんさんとゆき先輩も加わりみんなで一緒に夜ご飯を食べていた…のだが……周りにいる人にチラチラ見られている気がするのは気のせいだろうか…

及川さんとあーちゃん先輩が横を通った時に、「りょうちゃんモテモテだねぇ…」「及川くん、そんなこと言わないの」と笑いながら話していたの聞こえてますからね。


まあ、でも…みんなかわいいもんなぁ……こんなにかわいい女性の中に男子1人だけって自分何様だよ…って自分でも思うわ……


「今日、この後は自由行動だけどご飯食べ終わったら何かする?」


ご飯を食べながらまゆが尋ねる。合宿初日は楽器運びがメインだ。授業終わりの時間から楽器運搬を始めたわけで、夜なかなか遅い時間になっている。今から吹いたら迷惑だからね…仕方ない。


「春香ちゃんとまゆちゃんはりょうちゃんと3人でいちゃいちゃしなくて大丈夫なの?」


ゆき先輩が笑いながら言う。冗談…で言ったのだろう。うん。冗談で言ったということは伝わってくるのだが……冗談になっていない……おたくの直属の後輩……すごい殺気を放ってますよ……

ゆき先輩の言葉を聞いたゆいちゃんが中々にすごいオーラというか殺気を放っている。それを感じ取ったゆき先輩はやらかした。というような顔をする。本当に…反省してください。


「ゆきちゃん…あまり変なこと言わないでよ…恥ずかしいじゃん……合宿始まる前にたくさんいちゃいちゃしておいたから大丈夫なの……」


まゆ?何口走ってるの?ねえ。ゆいちゃんが箸を折っちゃいそうなくらい手に力入れてすごい殺気放っているし、りっちゃんさんとか陽菜はあらあら〜みたいな保護者目線みたいな反応してるし、さきちゃんは反応に困ってて結構やばい雰囲気になってるよ。ねえ。どうするのこの雰囲気……やばいよ……


「あ…うん…そう、なのね……」


ゆき先輩、聞いておいてその微妙な反応やめてください。責任とってこの雰囲気なんとかしてください。


「あ、そうだ。ご飯食べ終わったらさ、王様ゲームやろう。合宿とかで王道のイベントじゃん!」


りっちゃんさんが場の雰囲気をどうにかしようとして笑顔で言うが…詰んだ……

僕はゴールデンウィークの旅行の思い出を思い出してため息をついてしまいそうになる。

場の雰囲気が最悪に近かったからか、みんな、いいね。とか賛成。とかしか言わないし……


というわけで王様ゲームすることになりました……






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