第126話 相談




「ゆい、おはよう」

「おはよ」


私が声をかけるとゆいは笑顔で返事をしてくれる。明るくて眩しい。素敵な笑顔。前まではそう思っていた笑顔がこの前からそう感じられなくなってしまった。この前の部活終わりにゆいにまた明日ね。と言われた時から違和感を感じていた。どうしちゃったのだろう。前みたいな明るさや眩しさはどこに行ってしまったのだろう。ゆいのそんな悲しそうな笑顔…私、見たくないよ。


1日中、ゆいと一緒にいた。やはりゆいの様子がおかしい。やはり、何かあったのだろうか…


「じゃあね、さき、また明日」

「う…うん…」


1日はあっという間に終わり月曜日4限の授業が終わり私はゆいと駅まで歩いてきていた。ゆいといつもみたいに別れた後、私は駅の階段を上る。私が階段を上り終わるといつもならゆいが向かいのホームの階段を上り終えて私に手を振ってくれるはずだが、ゆいは上って来ない。電車が来てもゆいは階段を上って来ていないので私は心配になり乗った電車から降りて駅の階段を下る。さっきゆいと別れた場所にはゆいはいなかった。いつもゆいが上る階段を上ってもゆいはいない。どうしたのだろう…と思いながら私は先程まで私がいたホームに向かい次の電車が来るのを待つ。


電車がホームに到着したので、私が電車に乗ると、向かい側のホームをゆいが歩いていた。ゆいの表情はとても暗く、心配になったが、ゆいの横にいた人物を見て私はもっと心配になる。


ゆいは2人で電車に乗って私とは反対側に向かって行った。私は心配になり、咄嗟にゆいに連絡しようとするが、なんて連絡すればいいのかわからない。どうしよう。どうしよう。と何度も何度も考えて、私はある人たちに相談をしてしまった。





「「お疲れ様です」」

「お疲れ様、気をつけて帰ってね」


バイトが終わり、僕とまゆ先輩は店長に挨拶をして本屋さんを出てショッピングセンターの職員用の駐車場に向かって歩く。


手を繋いで駐車場まで歩いて僕とまゆ先輩は車でアパートに帰る。春香が用意してくれている夕食を楽しみにまゆ先輩の車に乗る。春香は今日バイトで帰りが遅いはずなのに夕食の支度をしてくれているのだから感謝しないとなぁ…などと考えながら僕は春香に今からまゆと帰るね。とLINEを送るためにスマホを開いた。


「ん?」

「ん?どうかしたの?」


スマホの電源を付けると、さきちゃんからLINEが届いていた。LINE交換していないはずなのにどうしてだろう。と思ったが、部活のグループから追加したのか。とすぐに疑問は解決したため、まゆ先輩になんでもない。と言い、まず春香にLINEを送りその後、さきちゃんからのLINEを確認した。


「………」


僕は息を呑んだ。動揺を隣にいるまゆ先輩に悟られてはいけない。この内容を春香とまゆ先輩に知られてはいけない気がした。特に春香には……


今、ここで詳しい話を聞いたら僕はきっと、隣にいるまゆ先輩を誤魔化せないだろう。なので、さきちゃんには申し訳ないがしばらくしてから電話で話すか、明日直接会って話を聞きたい。と僕は連絡を送った。さきちゃんから連絡をもらってから数時間が経過していたため、返信が来るまで時間がかかるかな、と思っていたが、すぐに返信が送られてきて、あとで電話したい。と言われた。ただ、春香とまゆ先輩に悟られてはいけないのでたぶんだが、0時前後にしか電話ができない。そのことをさきちゃんに伝えるとさきちゃんは0時前後に可能だったら電話してほしい。もし無理なら明日会って話を聞いて欲しい。と言われたため、わかった。0時半を過ぎても連絡がなかったら明日にしてもらってもいいかな?と返信すると、わかった。と言われたので、じゃあ、また連絡するね。と言いさきちゃんとの会話を終わらせた。


「また、何かあったの?」


さきちゃんとのやり取りが終わりスマホから目を離すと早々にまゆ先輩からそう言われた。


「え、何もないよ」

「もう、つまらない嘘つかないの。わかるからね」


………なんでだろう。まゆ先輩にはこういう嘘は毎回すぐに見抜かれている気がする。いつもなら認めるが今日はごまかさないと……


「どうしてそう思うの?」

「りょうちゃん、まゆの車乗る時にスマホいじったりしないもん。するとしても春香ちゃんに今から帰る。とか送るくらいですぐにスマホから目を離すし、だから、今日ずっとスマホいじってておかしいな。と思ってたらスマホから目を離した瞬間、ちょっとだけ表情が怖くなったんだよ。何かあったとしか思えないなぁ」


細かい…すごいなぁ…そんな細かいところまで見られてるのか……


「まあ、言いたくないなら言わなくていいよ。隠し事の一つや二つくらいあって当たり前だしね。どうせりょうちゃんのことだから、私とまゆちゃんに変な心配かけたくないって思ってごまかそうとしているんでしょ」

「うん…ごめん…」

「いいよ。気にしないで、もし、1人じゃどうしようもなかったらまゆか春香ちゃんに相談する。それだけは約束して」

「うん。わかった。ありがとう」

「じゃあ、帰るまでに表情なんとかしなよ。じゃないと春香ちゃんにも心配させちゃうよ」

「わかった。ありがとう」


アパートに到着して、車から降りるとまゆ先輩は僕を優しく抱きしめてくれた。おかげでだいぶ落ち着けた気がする。ありがとう。とまゆ先輩に言うと、これくらいしかしてあげられなくてごめんね。と謝られてしまった。


まゆ先輩や春香に知られないようにごまかそうとしていたのに、まゆ先輩に謝らせてしまって申し訳ない。


少し暗い顔になってしまった僕にまゆ先輩は笑顔で、ほら笑って、春香ちゃんが待ってるよ。早く行こう。と言い、笑顔で僕の手を引っ張ってくれた。まゆ先輩の笑顔が僕にはとても眩しく感じた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る