第48話 来訪者







「お、まゆじゃん。また会ったな。あれ、春香は一緒じゃないのか?」


春香ちゃんをアパートまで送った後、4限の授業を受けるために大学に戻り、教室に向かっている途中でまゆは拓磨とすれ違った。


「春香ちゃんならあんたがいなくなった後に倒れたわ」

「倒れた?え、大丈夫なのか?」

「もうまゆがアパートまで送ってったから大丈夫」

「そっかぁ…でも心配だなぁ…お見舞いとか行った方がいいかなぁ…」

「いい加減にして。あんたが春香ちゃんに怖い思いをさせたのが原因なのよ。お願いだからもう春香ちゃんに関わらないで…これ以上春香ちゃんを苦しめるようならまゆはあなたを許さないから」

「そんなこと言うなよ。そもそも、お前が好きなやつがお前を好きになってお前と付き合ってればこうはならなかっただろ。だから、悪いのはお前が好きなやつだ」


全く理解できないことを一方的に言い続ける拓磨と話していても意味がないとまゆは判断してその場をさっさと立ち去ることにした。


「りょうちゃんは悪くないから。それにもしまゆがりょうちゃんと付き合ったとしても春香ちゃんがあなたと付き合うことは絶対ない。それだけはきちんと理解しなよ。これ以上春香ちゃんを傷つけたりしたらまゆは本当にあなたを許さないから」


まゆは拓磨にそう言い残して拓磨の横を通り教室に向かった。そして、教室で4限の授業を受けた後、少しだけ大学内でしなければならないことを済ませて、一旦家に帰る。家に帰ってお母さんに今日、お泊まりしてくる。と伝えて必要な荷物をまとめて家を出る。春香ちゃんのアパートに行く途中にスーパーに寄って夜ご飯の材料を買い、アパートの駐車場に車を泊めて春香ちゃんとりょうちゃんの部屋のインターホンを鳴らした。


「まゆ、お疲れ様。わざわざ来てくれてありがとう」

「いえいえ、春香ちゃんはどうしてる?」


まゆは出迎えてくれたりょうちゃんに尋ねながら玄関で靴を脱いで廊下を歩く。


「さっき、僕に何があったか話してくれて、その時にずっと震えて泣いてたから落ち着いて疲れが出たのかな…今はリビングのソファーで寝ちゃってるよ」

「そっか…」


リビングに入ると確かに春香ちゃんはソファーの上で横になっていた。ゆっくり休んでいる春香ちゃんを見てまゆは安心しながら荷物をリビングの端に置いて買ってきた材料を台所に持っていった。


「今から夜ご飯作るから台所借りるね」

「あ、春香寝ちゃってるし僕も手伝うよ」

「うん。ありがとう。じゃあ、手伝ってもらおうかな」

「うん」


りょうちゃんは私の横にきて台所で手を洗う。私はりょうちゃんに野菜を渡して野菜を洗うように頼んだ。その間に、必要な道具を台所から出して準備をした。そして、りょうちゃんが洗ってくれた野菜を次々と切り刻んでいく。


「りょうちゃん、野菜洗い終わったら鍋に水を入れて沸騰させてもらえるかな?」

「うん。わかった」


そんな感じでテキパキと調理を済ませてあっという間に夜ご飯が完成した。ちょっと暖かくなってきて時期外れかな…と思うが今日の夜ご飯はキムチ鍋にすることにした。去年、よく春香ちゃんとりっちゃんの3人で鍋パをした時はもつ鍋、キムチ鍋、普通の鍋をローテーションしていた。鍋は作るのも比較的楽だし、美味しいし最高だよね。キムチ鍋の匂いを嗅ぎつけてか春香ちゃんが目を覚ました。春香ちゃんが美味しそう…と起きて早々に言ったのでまゆとりょうちゃんはつい笑みをこぼしてしまう。今思えば結局まゆはお昼ごはんを食べていなかった。先程、冷蔵庫を開けた時にりょうちゃんと春香ちゃんにと買っておいたお昼ごはんが入っていたことから春香ちゃんとりょうちゃんもお昼ごはんを食べていないと推測できた。


まゆがちょっと早いけど夜ご飯食べようか。と言うとりょうちゃんと春香ちゃんは勢いよく頷いていた。さっそくリビングのテーブルにガスコンロを置いてキムチ鍋を置く。そして3人分の取り皿を用意してさっそく食べようとすると部屋の中にインターホンの音が鳴り響いた。


りょうちゃんがインターホンの画面を確認し、知らない人が映ってるんだけど春香の友達とかかな?と春香ちゃんに尋ねる。


その時、嫌な予感がしたまゆは春香ちゃんにインターホンの画面を見るのを止めるように言おうとしたが、すでに遅かった。インターホンの画面を見た春香ちゃんは震えながやその場に蹲り抱いている恐怖心を身体に表していた。


「っ…」


まゆは舌打ちしながら立ち上がりインターホンの画面を確認する。


「あいつ…りょうちゃん、春香ちゃんの側にいてあげて、もう許せないから…まゆが追い払ってくる」


まゆはりょうちゃんにそう言った後、春香ちゃんに大丈夫だよ。りょうちゃんとまゆがいるから…と言い残して玄関から部屋の外に出た。


まゆが部屋の外に出ると扉の側にいた男は少しだけ驚いたような表情をする。その男の顔を見てまゆの怒りは頂点に達したのだった。







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